明治・大正期を代表する詩人画家であり、デザイナー、イラストレーターとしても活躍した竹久夢二。近代文化の華開いた当時の時代性を作品の中に描き出し、大正ロマンを象徴する画家として人気を博しました。
1884年(明治17年)に岡山県邑久郡(現瀬戸内市)で生まれた彼は、美術教育を受けず独学で自身の作風を確立し、49歳で亡くなるまでたくさんの絵画やデザインを世に送り出しました。中でも、「夢二式美人」と称される叙情的な美人画で一世を風靡したほか、グラフィックデザイナーの草分けとして美しい図案やモチーフを数多く発表。夢二独特のレトロモダンで可愛らしいデザインは、今も色あせることなく人々を魅了し続けています。
「夢二郷土美術館」は、そんな竹久夢二の作品や資料を3000点ほど収蔵する随一のコレクションを持つ専門美術館です。同館の創設者、松田基氏のコレクションを中心とした貴重な作品の数々は、夢二の作品を持つ施設の中でも随一を誇ります。
【外観と特設展示風景】
「夢二郷土美術館」は、故郷をこよなく愛した竹久夢二の里帰りを念じて1966年(昭和41年)に岡山市東区西大寺に開設されました。1984年(昭和59年)には、夢二の生誕100年を記念して「岡山後楽園」の外苑に本館を建設。芸術家としての夢二をテーマに、肉筆画をはじめとする100点以上の作品を常時展示しています。
瀬戸内市邑久町には別館として、夢二の生家を公開した「夢二生家記念館」と、夢二のアトリエを復元した「少年山荘」があり、夢二の芸術の原点や人生・音楽・デザインをテーマにした展示作品を鑑賞できます。
モダンアートの先駆者と呼ばれた夢二は、日本画や油彩画、水彩画、版画といった絵画はもちろん、本や楽譜の装幀、雑貨や浴衣のデザインなど多彩なジャンルで才能を発揮。中には詩や童謡といった文学的な作品もあり、そのどれもが生活にある身近なものの美しさや、人々の心にある風景を繊細に表現しています。
情感や用の美を大切にしながら、心の詩を描き続けてきた竹久夢二。本館・別館ともに、季節ごとの特別展示を通じて作品の魅力にふれることができます。
【展示風景と竹久夢二】
2017年には、デザイナー・水戸岡鋭治氏の監修によって本館をリニューアル。広くなった展示室から庭や別棟のカフェへと回遊できるようになり、邸宅で過ごすような心地よい雰囲気の中で、作品のある空間そのものを楽しむことができます。夢二作品と水戸岡氏の感性が調和した空間デザインも見どころのひとつ。木をふんだんに使った温かみのある内装で、夢二のロマンあふれる世界観を新たな形で表現しています。
本館では、気まぐれで出勤しているお庭番のオス猫「黑の助」に出会えることも。夢二が作品に描いた黒猫のように、漆黒の毛並みと丸く澄んだ目、首の赤いリボンがチャームポイントです。まるで絵の中から飛び出してきたかのような愛くるしさで、美術館のマスコットキャラクターとして人気を集めています。
【館内風景と黑の助】
敷地内に併設した「art café 夢二」は、カフェとミュージアムショップを融合したスペース。水戸岡氏がデザインを手がけたアートな空間で、お茶や食事、買い物を楽しめます。カフェでは夢二が好んで食べたというレーズンの入った焼菓子の「ガルバルジィ」や、千屋牛のカレーなど岡山の地産食材を使ったメニューをラインアップ。美術館に入らず直接入店もでき、街のカフェとしてくつろいだひと時を過ごせます。
2021年夏の企画展「ユメジスタイル」をはじめ、今後も続々と趣向を凝らした特別展を開催予定。子ども達が夢二をテーマにした新聞をつくる公募企画「こども夢二新聞」は10回を超えました。公募に合わせた「新聞づくり教室」や各施設を巡る「バスツアー」、親子で参加できる体験型イベントも好評です。
時代を超えて愛される竹久夢二の魅力を、故郷の美術館として発信している「夢二郷土美術館」。公園や公民館のように街に開かれた美術館であり、生活の一部として誰もが気軽にすごせる空間です。夢二を通じてアート、ファッション、文学、建築とあらゆる文化を体験し、日常に彩りをプラスしてみませんか?
【カフェ内装とカフェメニュー(ガルバルジイセット)、イベント風景】
公益財団法人 両備文化振興財団
夢二郷土美術館
TEL:086-271-1000
岡山市中区浜2-1-32
開館時間:午前9時00分から午後5時00分(カフェ営業は午前9時00分から午後4時00分、入館は午後4時30分まで)
休館日:毎週月曜日(祝休日の場合は翌日)、年末年始
入館料:大人800円、中学・高校・大学生400円、小学生300円