延藤さんは岡山市出身、現在は滋賀県在住です。人類の生存を脅かす気候変動を防ぎ、持続可能な地域社会を実現することをめざす、認定NPO法人気候ネットワークで活動されています。
「日本での持続可能な脱炭素社会・経済に向けたしくみをつくる」「化石燃料や原子力に依存しないエネルギーシステムに変える」「市民のネットワークと協働による脱炭素地域づくりを進める」といったミッション実現のため、職場に加え、地元岡山にも行ったり来たりしながら活動を続ける、熱いハートと行動力の持ち主です。
今回のカフェは、こんな問いかけからスタートしました。
気候変動対策は「多くの場合、生活の質を脅かすもの?」それとも「多くの場合、生活の質を高めるもの?」。会場の参加者とWEB参加者がグループに分かれて、それぞれ意見交換をしてもらいました。
各グループでは以下のようなお話がありました。
「生活の質を高める前提で行動した方が楽しいし続けられるとの意見が多かった」
「コメ不足や値上がりなどで生活が脅かされることも起きているが、設備を新しくしたり、気候に対応する衣服を買うことで質が高まるという意見が出た」
「迷った。どのような対策をしているか知らないから、どちらとも言えない」
「生活の質を高めるものであってほしいが、脅かすものと捉える人もいるのではないか」
この質問について、日本の場合、気候変動対策は「多くの場合、生活の質を脅かす」と捉えている人が約60%、世界では「多くの場合、生活の質を高める」と捉えている人が60%以上と、真逆の結果になっています。
これまで日本では、「夏のエアコンの設定温度は28℃に」といったような個人での対策を呼びかけることが多く、我慢や個人の負担を増やすものとイメージする人が多いそうです。一方、世界では、気候変動は個人レベルで解決するものではないという認識が広まっています。国や行政がイニシアティブをとってカーボンニュートラル(※1)の達成に向かっているようです。
※1 温室効果ガスの排出を全体としてゼロにすること。排出せざるを得なかった分は同じ量を「吸収」または「除去」することで、差し引きゼロを目指します。
2018年の西日本豪雨災害の発生には、温暖化が影響したことが気象庁から報告されています。
2023年の世界平均気温は、観測史上最高を記録しました。
このように、気候変動による影響は私たちの身近なものとなりました。
気温を上昇させているのは、人間の活動によって排出されるCO2(二酸化炭素)が大部分を占めています。このことは、195か国が参加するIPCC(気候変動に関する政府間パネル)によって科学的に証明されています。
「地球温暖化」と言われて久しいですが、この状況を打開すべく、2015年に開催されたCOP21(国連気候変動枠組条約第21回締約国会議)で合意されたパリ協定では、産業革命以前と比較して、今世紀半ばまでに世界平均気温の上昇を2度未満に抑える約束がなされました。その後のCOP26では、世界平均気温の上昇を1.5℃までに留める約束がなされました。
2023年のCOP28では、2030年までに世界で再生可能エネルギー(以下、「再エネ」)設備容量は3倍、エネルギー効率は2倍にすること、化石燃料から脱却することが約束されています。
日本では、1122の自治体が、2050年にカーボンニュートラルを達成すると宣言しています。岡山県内では、27市町村のうち19の市町村でこの宣言がなされています。
企業については、自社の使用電力を100%再エネで賄うことを目指す国際的なイニシアティブ「RE100」というものがあり、国内外の大手企業が参加しています。日本では88社が参加していますが、対象は取引企業にも及ぶため、100%再エネを目指す企業は実はたくさん出てきています。
では、私たちが使っている電力を、火力発電などの化石燃料由来の電力ではなく、再エネで賄っていくことは可能なのでしょうか?
延藤さんは、太陽光発電と洋上風力発電によって、日本全体の電力使用量の6.5倍を賄える可能性があるとのデータを紹介されました。世界平均の導入コストは低下していて、コスト面で採算がとれるようになってきているそうです。日本でも導入コストが低下することで導入の可能性を最大限に発揮することができます。
現在、化石燃料の購入のために海外に支払う金額は日本全体で年間35兆円(2022年度)にもなり、地域単位でみた地域外への光熱費流出額は、岡山県で8400億円、岡山市で2000億円だそうです。これが全て地域の再エネに置き換わることで、最低でもこの金額が海外ではなく、地域内に支払われることになります。
再エネが増えれば地域内で経済が回ることにつながります。それはすなわち、地域の中に雇用が生まれることも意味します。
太陽光発電の導入コストは、この13年で86%減(日本では約60%減)、洋上風力発電でも48%減と、再エネを導入しやすくなってきています。日本の住宅用太陽光発電でも、導入コストは12年前の約半分にまで下がっています。世界的に見ると、ほとんどの再エネの発電コストは化石燃料と同じか、それ以下という状況です。
また、農地に太陽光パネルを設置し、その下で農業を行う「ソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)」も広まってきています。岡山でも、県南で取組が始まっています。
近年、太陽光パネルの廃棄問題が取りざたされていますが、リサイクル技術の開発も進んでいます。岡山では平林金属株式会社でガラスとシリコンを分離できる技術が確立されているということです。
今後、ガソリン車の新車販売を禁止することを決めている国も多いです。ノルウェーでは2025年、日本では2035年からとされています。
一方で、ハイブリッド車の販売を認める国もあります。EUでは2023年に環境に良い再エネで作った合成燃料を使うエンジン車を認める動きもあります。
住宅の断熱も注目されています。断熱性能が高い建物では、夏は涼しく冬は暖かく過ごせますし、光熱費削減も見込めます。
また、断熱性能の向上によって、アレルギー性鼻炎やアトピー性皮膚炎が改善するとも言われているそうです。ヒートショックで亡くなる人も減るとのことで、私たちの健康にも良い影響をもたらすことがわかっています。
2025年から、法改正により新築住宅の断熱基準が義務化され、これまで最高基準とされていた断熱等級4は2025年から最低基準になるといった大きな変化もあります。
既存の住宅であっても、窓の改修によって、断熱性能の改善が見込まれます。
もはや「一人ひとりコツコツと」の行動だけでは、気温上昇を産業革命前より1.5℃までに抑えること、2050年までにカーボンニュートラルを実現することは間に合いません。
それでは、そんな中、私たちにはどんなことができるのでしょうか?
そのヒントを知りたい方は、以下のページも参照してみてくださいね。
https://kikonet.org/content/21986別ウィンドウで開く(気候ネットワーク「気候アクションガイド」)
ESDカフェでは、「どんなことができるか?何をしていきたいか?」について、再びグループで話し合いを行いました。
「気候変動と防災対策がセットになると良い」
「太陽光パネルのお話を聞いて、自分の知識は30年前のままだと気づいた。知識のアップデートが必要」
「損得で考えた時に、得する話があると人は動くのではないか」
「車は手放した、安価で手軽な方法で窓断熱をした、などの経験談があった。このような良い情報を交換できるようなネットワークがあればありがたい」
「気候市民会議のような、企業や学校、学生の枠を超えて、地域でどんなことができるかなど、気軽に話せる場があると良い」
など、生活の質を高めるような、気候変動対策を前向きに捉えた声がたくさん聞かれました。