昨年の4月にこども家庭庁が発足して1年余り。子育てや少子化、児童虐待、いじめなど子どもを取り巻く社会問題に対して本質的な解決をするために設置されたもので、これからの取組が期待されます。子どもは社会の宝、将来の社会を支える世代には、豊かな子ども時代を過ごす権利があると、長年取り組み続けてきた美咲さんにこれまでの活動とその思い、これからについてお話を伺いました。共に活動する道仙さんが進行のサポートを勤めました。
舞台芸術鑑賞の活動は1969年に岡山子ども劇場として発足したことが始まりです。その後、活動を広域化したいと2000年に岡山市子どもセンターを発足、翌年にNPO法人化しました。そして、行政とともに子どもたちが文化芸術に数多くふれ、参加・体験して豊かな心を持つ人として成長できるように活動を続けてきました。
テーマは「体験はビタミン」。子どもたちが元気に成長するには、様々な栄養が不可欠です。その中に体験というビタミンが重要であり、様々な団体や人々と協働して子どもたちが豊かに育つ環境づくりを行っています。
活動には主に3つのジャンルがあります。最も長い活動が「子どもの文化芸術活動」という舞台芸術鑑賞です。ただ観るだけではなく、ワークショップなども取り入れ、子どもたちが主体的に関わる工夫もしています。影絵のワークショップでは、自分で作って動かして楽しみました。体験が子どもの成長の糧となるように取り組んでいます。
次に「子育て支援」として「みなん和やかサロン」を法人事務所で週2日開催しています。これは、就学前の親子が気軽に集い、楽しく遊べる場です。子ども同士、親同士の交流のほか子育ての悩み相談も行っています。
17年目となるおかやまプレーパークは「誰もが自分らしくいられる場」として、国際児童記念公園こどもの森で週5日開催しています。プレーリーダーという専門職が常駐し、子どもたちの「やってみたい」気持ちを大切に、自分で遊びを考え、取り組めるようにしています。また、遊びの道具を積んだプレーカーで出張プレーパークも行っています。車のデザインは、プレーパークでの遊びの楽しさや人とのかかわりの中で感じるしんどさなどをイメージして、就労継続支援A型事業所「ありがとうファーム」のアーティストが描きました。
2020年、世界中にコロナウイルスが蔓延しました。岡山市子どもセンター設立20周年の記念行事を予定していましたが全て中止、鑑賞会なども7ヶ月間延期せざるを得なくなりました。
『このままでいいのか?すべて止めてしまって良いのか?何かできることはないのか?』仲間たちと協議し、「子どもの育ちを止めない宣言」を発表しました。
感染状況が少し落ち着いた時期に、予定していた20周年記念公演「エルマーのぼうけん」を開催しました。この状況で大変な思いをしている人たちにこそ参加してほしいと、クラウドファンディングに挑戦して予算を確保しました。「おかやま親子応援メール」で生活困窮世帯に呼び掛けると大反響でした。ひとり親世帯や児童養護施設、広域避難世帯にも呼び掛け、250余名を招待しました。貧困による体験の格差がないようにしたいとの思いを一つ具現化できました。
三密を避け、できる限りの感染対策をしたうえで、予定していた1ステージを、2ステージに増やした結果、嬉しい反響がありました。
『小学校4年生の子が嬉しそうに自転車に乗ってぐるぐる回っている動画が届きました。三半規管に障がいがあり、これまで自転車の練習を何度も挑戦してもうまくいかず親子ともにあきらめていました。しかしエルマーのぼうけんを見て勇気をもらい、その日のうちに挑戦して自転車に乗れるようになりました。体験によって人生が変わったと感じます。』
『鑑賞会への参加が決定し、大喜びした子どもが図書館でエルマーの本を借り、何度も読み返し当日を迎えました。鑑賞後に親におねだりをして、当日販売していたエルマーシリーズの本を3冊購入したそうです。この本はその子の成長に大きな影響を与える宝物になったと思います。』
開演時間に合わせて会場に子どもを連れて来るのは大変です。中には子どもを叱りながら入場する親子もいます。しかし、帰る時に親子で劇中歌を歌ったり、楽しそうにスキップして帰っていったりする姿を見ると、「幸せな時間を届けられてよかった」と感じるそうです。
長い取組の中で、小学生の頃に鑑賞に参加した子が成長して親となり、自分の子どもを連れて参加したり、三世代で来場する方も多くいます。また、参加者からボランティアや企画運営スタッフとして関わるようになった方も出てきました。そして、子どもたちの育ちを支える、子どもたちの気持ちに寄りそう担い手として、保育園や小学校の先生など、子どもに関わる仕事に就いた人も多数います。舞台芸術鑑賞の機会が、子どもの文化権の保障になると共に、「豊かな心を育む」当事者意識を持った担い手の増加にもつながっているのではないかと感じているそうです。
2024年は、日本が国連子どもの権利条約に批准して30年となる年です。条約には、子どもを権利の主体と位置付け、子どもには生きる権利・育つ権利があることが書かれています。その中でも特に31条を大切にしています。31条に書かれた「休息・余暇、遊び・レクリエーション、文化的生活・芸術への自由な参加」の確保は道標と考え、子どもの文化権の保障は子ども時代を豊かにする基盤だと考えているとのことでした。
舞台の観劇で主人公の気持ちになること、同じ舞台を見た他者がどう感じたか知ること、そして実際には体験しえないさまざまな気持ちを疑似体験することで、複数の登場人物の意図や関係性を読み取り、他者とともに生きる力を育むと考え、舞台芸術鑑賞の活動を続けておられます。
岡山市では2022年4月に岡山市文化基本条例が施行され、基本理念に「多様な文化芸術を創造し、享受することが市民の生まれながらの権利であることを基本とする」と明文化されました。これを背景に、8月1日~4日まで 岡山芸術創造劇場ハレノワで「子どもと舞台芸術大博覧会」が開催されます。
元々東京で開催されてきたイベントですが、2021年から国内各地で開催されるようになり、西日本では初開催です。舞台の森・Babyの森・あそびの森・まなびの森・ハレノワの森で構成、体験ひろばでは子どものあーとの森などを行います。
社会課題の解決に取り組むには、違う立場の人と尊重し合い協力・協働することが重要です。このイベントも、主催の子どもと舞台芸術大博覧会実行委員会、公益財団法人岡山文化芸術創造、子どもと舞台芸術大博覧会岡山実行委員会、共催の岡山市、そして多くのボランティアと共につくります。
最後に会場の参加者同士で、今後、自分が子どもにどのように関わっていくかを共有しました。『夢の話を聞く』『舞台裏のお手伝い』『岡山を好きになってもらう工夫をする』『子どもの心を揺さぶる本を作りたい』『子どもの居場所づくり』などさまざまなアイデアがありました。普段子どもと接する機会が少ない方にとっても有意義な時間となりました。