都市部のビルの屋上や公園などで行う都市養蜂。ヨーロッパでは古くから行われており、日本では2006年に東京の「銀座ミツバチプロジェクト」で始まりました。現在では、札幌や梅田など全国100ヵ所以上に広がっています。
2022年3月、天満屋グループの丸田産業が岡山初の都市養蜂「おかやまミツバチプロジェクト桃太郎ハニーラボ(通称:ももラボ)」を立ち上げました。銀座ミツバチプロジェクトや県内の大手養蜂場、SDGsに積極的に取り組む岡山大学、緑化推進に取り組むJA晴れの国おかやま等と連携しながら活動しています。
ももラボは、岡山駅前にあるビルの屋上に巣箱4箱を置き、西洋ミツバチ約5万匹からスタートしました。
ハチミツが採れるのは4月から7月で、西洋ミツバチの行動範囲である半径3キロメートル圏内にある街路樹や花々(蜜源)から蜜を集めてきます。4月はサクラ、5月はユリノキ、6月はクロガネモチ(別名は岡山市の市木で通りの名にもなっているアクラ)、7月はトウネズミモチなどが主な蜜源です。
井上さんからは「4月は後楽園のサクラの蜜を集めに行くだろうと思っていたが、実際は巣からより近い西川緑道公園のサクラにミツバチが集まっていた」「蜜源がなかった場合に備えて巣箱の近くにソバを植えたのに、ソバから蜜を集めている様子はなかった」など、やってみて初めて分かったお話が聞けました。
全8回の採蜜で、当初見込みの2倍以上、約340kgものハチミツが採れました。また、通常美味しいとされているハチミツは糖度75~80度、水分20%程度だそうですが、ももラボのハチミツは糖度79~83度、水分16~18%であり、濃厚で甘いものでした。
井上さんは、このような上質なハチミツが採れたのは、(1)「晴れの国おかやま」ならではの天気のよさ、(2)屋上は地上より湿度が低いこと、(3)素晴らしい蜜源があったこと、(4)半径3キロメートル圏内に農薬を使った農作物がなかったこと、(5)屋上にはスズメバチ・カエルなどの外敵が少なくミツバチが暮らしやすい環境だったこと、が理由ではないかと考えているそうです。
採れたハチミツは、ハチミツ単体の他、地元企業とコラボしたお菓子・ヨーグルト、岡山県産のヒノキ廃材を利用した木枠入り商品など、いろいろな形で販売されています。
ミツバチは、環境汚染がある場所では生きていけない「環境指標生物」です。また、蜜を集めるときに草花の受粉を助ける役割を果たしており、農作物の実りに欠かせません。アインシュタインが「この世からミツバチがいなくなると4年後に人類も滅亡する」と警鐘を鳴らしたとおり、私たちの生活に強く結びついた存在です。
井上さんは、ミツバチに関する豆知識もたくさん紹介してくださいました。
・女王バチは1つの群に1匹しかいない
・女王バチの寿命は2~3年で、シーズン中は毎日2000個近くの卵を産む
・働きバチ(すべてメス)はわずか1ヶ月しか生きられず、最後の1週間で蜜を集める
・働きバチが一生かけて集める蜜の量は、小さじスプーン1杯程度(2~3g)
・オスバチは女王バチとの交尾のためだけに存在し、最後には巣から追い出されてしまう
・針を持ち、きりっとした顔つきをしているのは働きバチ、針がなく可愛らしい顔をしているのがオスバチ など
ももラボでは今後、小・中・高校生対象の見学会や採蜜体験などの環境教育、岡山大学との生態系の共同研究、ハチミツを使った地域ブランドの開発による地域振興、緑化促進などの取り組みを深化させていきたいとのことです。これらはSDGsの「11住み続けられるまちづくりを」「13気候変動に具体的な対策を」「15陸の豊かさも守ろう」につながっていきます。
「養蜂というと自然豊かな田園地帯のイメージがあったが、実際は農薬の影響を受けるため、必ずしも養蜂に向いているとは限らないと知って驚いた」「大学や企業との連携が一層広がる可能性があると思った」などの意見が出ました。
また、ミツバチの生態や蜜源となる植物に関する質問も多く、ミツバチプロジェクトが地元の自然環境について考えるきっかけになったようです。