ページの先頭です

共通メニューなどをスキップして本文へ

第9回ESDカフェ(2016年度)

[2017年2月13日]

ID:38444

  • テーマ:『ユースワーカー的教師』の可能性~苦しいときは俺の背中を見なさい!
  • 開催日時:2017年1月19日(木曜日)午後6時から午後7時30分
  • 開催場所:環境学習センター「アスエコ」(岡山市北区下石井2-2-10)
  • 講師:岡山市立旭東中学校教諭 竹島潤さん

第9回ESDカフェ『ユースワーカー的教師』の可能性~苦しいときは俺の背中を見なさい!

平成29年1月19日(木曜日)に、本年度第9回目のESDカフェを開催しました。
情報提供者は、岡山市立旭東中学校教諭の竹島潤さん。
NPOや岡山県空手道連盟などでも精力的に活動し、様々なチャンネルから青少年育成に携わっていらっしゃいます。
今回は、ESDの視点を大切にした、竹島さんの教育実践についてご紹介いただくとともに、昨年の秋参加した「内閣府・地域コアリーダープログラム」(青少年分野)を通じて得た知見から、『ユースワーカー的教師』についてご提案いただきました。

ESDの視点を踏まえた授業づくり

「ESDのまち」岡山市は、学校におけるESDの推進にも力を入れています。
英語の教諭である竹島さんは、前任校の京山中学校で、ESDの視点を踏まえた授業づくりに取り組んでいたそうです。
例えば、貧困をテーマにした英語科のリーディング教材を活用し、JICAの現地隊員や農家の方、栄養士と協働しながら、貧困・食糧問題への多面的な理解を促しました。授業の最後には、生徒自身が問題解決に向けた行動指針を、英語で留学生やクラスメイトに発表する、というプログラムです。机上の勉強だけでなく、関係者の生の声を聴くことで、社会・世界の課題を身近に感じ、自分事としてとらえたり、課題解決のためにアクションを起こしたり姿勢を養うことにつながります。

授業だけでなく、職員研修のESD化にもチャレンジしたそうです。地域の方を講師に招いてコミュニティの状況を学んだり、教職員が有志の生徒とともに地域を散策したりすることで学校と地域の風通しを良くし、連携強化を図りました。

竹島潤さんの写真

NPO、空手道連盟の活動

竹島さんのフィールドは学校内にはとどまりません。

特定非営利活動法人国際協力研究所・岡山の役員として、国際協力や、課題解決に向けて考え・行動する人づくり等の活動を行っています。例えば、東日本大震災で甚大な被害を受けた福島県双葉郡浪江町に自ら赴き、ボランティア活動をした経験をもとに「いのちの大切さプロジェクト」を実施。スカイプを通じて京山中学校の生徒と、浪江町の中学生との交流の機会を設けるなど、国内の深刻な課題からも目をそらさず、自ら考え、行動する力をつけることの大切さを伝えています。

岡山県中学校空手道連盟では理事長を務めており、岡山県の中学生空手道選手権大会の主催や、中・高・大および町道場の合同練習や連携事業の実施に携わっています。ここでも、人のつながりを大切にする姿勢は一貫しています。

このように、様々なチャンネルから青少年育成に携わる竹島さんは、内閣府平成28年度地域課題対応人材育成事業の「地域コアリーダープログラム」の参加者に選抜され、昨年の秋にドイツに派遣されました。その研修を通じて、どのようなことに気づき、学んだのでしょうか?

発表の様子

地域コアリーダープログラム

日本には「子ども・若者育成支援推進法」(平成22年施行)という法律があり、内閣府が定める「子ども・若者育成支援推進大綱」では、「子ども・若者の成長を支えるに担い手の育成」が重点取組の一つに掲げられています。
今回のプログラムはその一環で実施されました。ドイツへの派遣期間は2016年10月9日~18日の10日間。その前後には、事前研修、帰国後研修もあったそうです。現職教員としての忙しいスケジュールを上手にやりくりして、濃密な学びの時間を過ごされました。

ドイツの青少年育成から学んだこと

青少年分野で派遣されたのは、NPOや学校、大学、行政等様々な分野で青少年育成に関わる計9名。
チームとして「2030年における日本の青少年分野の在り方について考えを深めるために学ぶ~ドイツの青少年に関わる指導者の人材育成、活動の事業評価及びセクターを超えた共通認識と連携の過程を軸として、相互理解を図る。
帰国後は、各活動領域(地域・対象・年代)において、非営利団体、行政機関、企業等との連携した取組みを実施するとともに、将来的に政策への影響力を持つことを目指す~」を目標に掲げドイツの視察に臨みました。

竹島さんの一番の関心事は「社会をふかん的にとらえ、青少年育成においても、地域や専門機関・企業などと、連携・協働できる教師・指導者の育成」でした。ベルリン、エアフルト、ノルトハウゼンなどドイツの各都市で、大学、NPO、行政、学校等を視察し、意見交換を行いました。

竹島さんが驚いたことの一つは、ドイツの学校には社会教育福祉士(Sozialpädagoge)の国家資格を持つ専門家が複数常駐しており、生徒を取り巻く課題解決のために教員と対等な立場で協働していること。

ドイツでは、青少年の健全な育成を目的とし、学校、社会教育福祉士、NPO、大学、青少年局など様々な機関が連携・協働することを基本としています。
これは、学校が「知・徳・体」の三位一体で、青少年育成の大部分を担う日本と大きく違う点です。竹島さんは、青少年の抱える課題の早期発見と解決、次世代の担い手を育成する好循環を生み出すために、学校と地域社会をつなぐ人材の存在の重要性を痛感したそうです。

事例~カール・フォン・オジエツキー中等学校での取組~

学校と地域社会の協働の事例として、ベルリンにあるカール・フォン・オジエツキー中等学校の取組を紹介してくださいました。
この中等学校は、全日制学校(Ganztagsschule)の1つで、小学校も併設する1,200人の学校です。
児童生徒の約7割は、ドイツ国外にルーツを持っており、ドイツ語の授業の他に、トルコ語などでも授業を行っているそうです。職員140人のうち120人が教科等の指導を行う教師で、20人が子どもたちのニーズに合わせて指導や援助を行う「保育士」や「社会教育福祉士」等で構成されています。
教師は、生徒を個人として指導援助する一方で、社会教育福祉士は、家族全体を捉えて生徒を援助します。その職務は、プロジェクト学習の支援、地域のネットワークづくり、授業内容に関する児童生徒の支援など多岐にわたります。
当中等学校では、公益法人青少年余暇育成協会が学校と連携し、学校からの依頼で社会教育福祉士が派遣されているとのことでした。「子どもが学校に合わせるのではなく、学校が子どもに合わせるのです。」と語ったのは中等学校の校長先生。信念に裏付けされた言葉で話す校長先生に、竹島さんは強い感銘を受けたそうです。

『ユースワーカー的教師』の提案

ドイツの視察で得た知見から、竹島さんに、これからの日本の教師像として『ユースワーカー的教師』をご提案いただきました。
ポイントは「的」という言葉。
ドイツの場合、ユースワーカーの中に教師は含まれないため『ユースワーカー的教師』というのは存在しません。そこでユースワーカーの要素を取り入れた『ユースワーカー的教師』と表現しています。その内容にはドイツで得た知見が織り込まれているものの、日本の教育の仕組みや教育現場の特徴・課題を考慮して日本風にアレンジされています。
竹島さんによると、日本におけるユースワーカー的教師に求められる資格や資質は以下のとおりです。

  • 社会教育主事の有資格者(講習修了者)「都道府県及び市町村の教育委員会の事務局に置かれる専門的職員で社会教育を行う者に対する専門的技術的な助言・指導に当たる役割を担う。」(文科省HPより)
  • 生徒指導、教育相談における豊かな経験いわゆる生徒指導困難校と研究校の両方に勤務経験あり
  • 学校外における青少年育成にかかわる活動を有する町内会、子ども会、スポーツ少年団…(部活動)
  • 教科指導や総合的な学習の時間などで、多様なアクターと連携協働したプログラムの計画・実行ができるESD視点での教育実践
  • 青少年の能力態度や取り組みのつながりをもとに継続した実践と評価ができるよりハイレベルなESD視点での教育実践

まずは、教師自身が視野や外部とのつながりを広め、強めながら資質や能力を高めていこうという気合が感じられます。
竹島さんの理想は、各学校に、このようなユースワーカー的教師が一人以上いること。特に、若手の先生には、このような教師像を描いて頑張ってほしいとエールを送ります。

参加者との意見交換

竹島さんからの発表の後、意見交換をしました。参加者からは以下のような意見が出ました。

  • やる気や能力がある教師は、色々な取組ができるけれど、誰もができることではない。ユースワーカー的教師がいることが理想的ではあるが、教員は忙しく、実際には難しいのではないか。
  • 日本では教師が果たす役割が多すぎる。その役割を整理することが必要。外部に託すものは託すことも必要。
  • 学校の授業に地域の人を巻き込むことも大切だが、子どもたちが、家庭と学校以外にも自分の居場所があることが必要。異なる価値観に触れることが大切。
  • 日本では、頑張る教師が孤独になっている。その頑張りを認めるシステムや、教師の負担を減らし、余裕を持たせてあげることが大切。

これらのご意見やご批判を受けても、竹島さんの信念は揺るぎません。
『ユースワーカー的教師』もいいけれど、それではかえって先生の負担が増える。という批判にも、「だからこそ、価値観や考え方の転換、パラダイムシフトが必要!」と言い切ります。
現職教員である竹島さんは、日本の教員が忙しいことは重々承知です。竹島さんも以前は、夜遅くまで職場に残っていることがあったそうですが、それでは視野が狭くなると、心機一転。限りある時間を有効に活用、配分し、タイムマネジメントを心がけるようになったそうです。学校以外のいろんな人に関わることで連携や協働の基盤となるつながりを作っています。関係者と連携して授業をつくるなど、有機的につなげていけば、自分の負担も最終的には軽減されるし、注ぐエネルギーの分配を変えることができるというのが持論です。
「このような理想像を掲げる教員が少ないと考えているので、引き続き、この道を信じて、頑張りたい!」という言葉に、青少年育成に対する熱意と、これからの日本の教育に新風を吹き込もうとする竹島さんの意気込みが感じられました。

ESDは、未来を創る人づくり。持続可能な社会の担い手を育てる竹島さんのチャレンジはこれからも続きます。

お問い合わせ

岡山市ESD推進協議会(岡山市ESD推進課内)宮崎・小西
電話:086-803-1351
電子メールアドレス:esd@city.okayama.jp