旭川源流大学実行委員会の取り組みは、岡山の中学校・高校の数校が連携して立ち上げた、自然観察実習「中高生のための水辺教室」の活動に遡ります。
生徒たちが自然の中で様々な体験を通して驚き感動する。そして、その調査活動の内容を研究発表会で伝える。若者の「理科離れ」が叫ばれる時代にあって、こうした活動は、自治体の協力、大学との連携、地元助成団体の援助などを受けて、やがて、市民・学校・大学などの各分野の専門家が集まって水辺の生き物を中心に大型哺乳類から魚類・昆虫や植物まで、自然を幅広くリアルタイムに調査する会としての「旭川源流大学」の企画につながっていきました。
第1回旭川源流大学
旭川源流大学立ち上げ当初の2010年には岡山県北の鏡野町富で、翌2011年には新庄村で、それぞれ「ふるさと再発見!旭川源流大学」を開催しました。この「旭川源流大学」は現在まで合計9回、毎年開催されています。
鏡野町富での調査の様子
また、同じく自然観察や自然研究に取り組む大学や市民団体の活動にも、積極的に運営協力や参加を行っています。旭川源流大学実行委員会は、こうした活動を通じて、旭川流域の源流から中流、そして河口干潟に至るまで、旭川流域の自然環境への学びを深めてきました。
続いて、私たちの最近の活動についてご紹介させていただきます。
私たちの活動スタイルは、旭川流域の自然環境を住民自らの手で(1)調べる、(2)その結果を流域住民に伝える、(3)課題について一緒に考える、という問題解決方式です。それぞれの具体的な活動の幾つかを、2018年度の活動内容からご紹介させていただきます。
まず(1)「調べる」について。春から秋にかけて毎週1回以上の水生昆虫調査や毎月1回の水生昆虫同定会、また笠岡諸島大飛島・真鍋島での海岸ベントス状況視察、上で述べた「旭川源流大学」、旭川かいぼり調査協力参加、またオオシロカゲロウ羽化調査や大野川生物調査への参加など、年間を通じて幅広い活動を行いました。
次に(2)「伝える」活動として、鏡野町でのオオサンショウウオ生体展示や研究パネル展示、牧石や牟佐の文化祭、岡山ふれあいセンター、旭川かいぼり調査会場、第42回水生昆虫研究会岡山大会など様々な場所でのパネル展示、操山公園里山センターでの「旭川流域の哺乳類」実物7種展示や講演会などを行いました。流域の住民と調査結果を分かち合うことはもちろんのこと、全国から参加者が集う研究会でも発表の場に恵まれました。
そして(3)「考える」では、大阪市立自然史博物館の見学研修や「川に関わる環境学習を学ぶ集い」に参加するなど、自然や環境学習に関して自ら考えて理解を深めるための活動や、また流域の漁協の組合長の方との懇談なども行いました。
かいぼり調査の様子
いずれの活動においても、流域住民との対話を通じて、自分たちの暮らす地域の「森・川・海の生き物たちのつながり」を一緒になって考えることを重視しています。
私たちが流域住民との「対話型」企画に取り組んでいるのは、流域住民自らが自然を体験し、関心を持っていかないと、生態系――森や川や海、そしてそこに暮らす人間のつながり――を維持することができないという思いがあるからです。自ら調べて・伝えて・考えるというこの活動スタイルこそが、持続可能な良好な自然環境の保全と創出というESDの視点にとって重要なものであると考えています。
たとえば児島湾に生息している「シカメガキ」。児島湾をはじめとする瀬戸内海沿岸は、海苔の色落ちなど海域の無機態窒素分の貧栄養化という課題を抱えていますが、シカメガキなど干潟生物の豊かさの保全が海への栄養補給につながる点も指摘されています。現在、このシカメガキについて、生息調査や保全を行うだけではなく、販路を作ることができないか模索しています。持続可能な社会の実現に向けて、多面的な取り組みを行っています。
また「環境教育」の分野においても、次世代を担う若者と旭川流域の人々との交流を通じた感動の共有が良い影響を生んできていると感じています。活動に参加する生徒たちの姿を長年見てきて感じるのは、生徒たち自身が自分のなかにある「センス・オブ・ワンダー」すなわち「感動する心」の存在に気づくことが大事なのだということ。これは学校での学びだけではなかなか体験できないものです。そして、この「感動する心」を周囲の人と共有することで、自分たちで考えて行動する自信につながります。そうすることではじめて、持続可能な社会を実現することができるのだと考えています。
岡山市生まれ。関西高校で教師を務めるかたわら、旭川水系の水生昆虫やカゲロウの研究を開始。生徒たちとのクラブ活動でも旭川、足守川、瀬戸内海の水質調査や生物観察などを行い、やがて数校が連携しての「中高生のための水辺教室」へと発展。関西高校定年後も岡山操山高校、岡山後楽館高校、岡山御津高校で教壇に立つ。2009年に旭川源流大学実行委員会を設立。2004年から岡山野生生物調査会をクマ研究会・矢吹章さんと創設、現在まで事務局を担当。
学生メンバーが中心となった自然観察イベントを継続して実施されているところに感銘を受けました。
活動を継続させるというのが一番難しいこと。これからも頑張ってください。