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あばれもの次郎

[2023年4月25日]

ID:49303

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あばれもの次郎

 次郎はとてもあばれものです。すぐおこって、手に持っている物を投げつけたり、ふいににいさんにくみついて行って、おしころがしたりするのでした。
 今日も朝からふきげんで、いろりのそばに坐ったきり、だまって、火ばかりもやしていました。太郎次郎マアコは三人兄弟で、山の中の湖の岸のおじいさんの家にソカイしていて、おとうさんとおかあさんの帰りを待っていました。おとうさんとおかあさんは満州にいて、一年ばかりも便りがなく、どうしているのかわかりませんでした。それでおじいさん始め子供たち三人は、おとうさんおかあさんのことを心配して毎日毎日一生けんめいにその帰りを待っていました。次郎がそんなにあばれるのも、おとうさんおかあさんが待ちきれなかったからなのでしょう。
 次郎はいろりにもえる火を見つめながら、
「どうしておかあさんかえらないんだろう。」
 いつも考えることをやはりその時も考えつづけていました。と、兄の太郎がいいました。
「次郎、どうしたんだい。また今日もふきげんかい。もうあんまりあばれるなよ。」
「うん。」
「はや釣りに行かないのか。」
 にいちゃんはこういいましたが、次郎は見向きもしませんでした。太郎は六年生で、次郎は四年生です。マアコは一年にあがったばかりでした。今日は日曜日で、三人は湖にはや釣りに行くことになっていたのです。外には三本の竿が軒に立てかけてあり、その側にびくもえさ入りも用意してありました。それなのに、次郎が立ちあがろうともしないのです。で、マアコがいいました。
「次郎にいちゃん、はやが逃げてしまやしない。」
「うん。」
 そこで今度は太郎がいいました。
「じゃあ、おれだけ先に行ってるよ。マアコ後から次郎といっしょにおいで。いつもの入口の柳の木のとこだよ。」
 そしてさっさと出て行ってしまいました。ところがその時、外でおじいさんがまき割りをしていました。太郎を見ると、おじいさんがいいました。
「太郎、まき割りを手伝ってくれないか。」
「はい。」
 太郎はおじいさんの割ったまきを軒下に並べて積み重ねました。
 一方、マアコは、次郎がいつまでもだまっているもので、自分もだまってじっといろりにあたっていました。しばらくすると、次郎が話し出しました。
「マアコ、話をしてやろうか。」
「うん、して、して、面白い話をして。」
「ハトの話だよ。」
「うん、ハト、ハトはいいわ。」
「山の中の森の中に一本の大きな木があった。その木の上に一羽のハトが巣をつくった。その中に、五つの卵を生んだ。ううん、六つだよ。六つの卵をうんだ。ううん、八つだ。八つの卵を生んだ。」
「八つ? 十がいいじゃない。にいちゃん十にしてしまいなさい。」
 マアコがいいました。すると、次郎はもう、
「バカッ、そんなこというなら、もう話してやらない。」
 そんなことをいうのでした。でマアコは、
「じゃいいわ。三つでもいいわ。」
 と、十の卵を三つにまけました。次郎は話し出しました。
「ハトは六つの卵を生んで、これをあたためていた。するとね。ある日のこと、その森へやって来た子供が、それを見つけ出した。そして子供の家へとって来てしまった。」
 ここまでいうと、マアコがまたききました。
「なに取って来たの、ハトなの、卵なの。」
「卵さ、その六つの卵を取って来てしまったんだ。」
「へえ、わるい子供ねえ。マアコなら、取ったりなんかしないや。」
「じゃ、取らないで、おいとくといい、そのかわり、この話はそれだけ。」
「つまらないの。そんならマアコ、その卵おいとかないわ。みんな取って来てたべてしまうわ。」
「バカッ、たべるのでなくて、家でニワトリにあたためさせ、ハトの子供をかえすんだよ。」
「そう、それがいいわ。それから――。」
 で、また次郎が話し出しました。
「ニワトリにあたためさせて、ハトの子供をかえしてさ、それからそれを大きくしたんだ。すると、大きなハトができて、バタバタ外でも飛ぶようになった。ハトっていうのはね。伝書鳩というのがあって、よく教えこむと人間の手紙なんか運んでいくものだとさ。だから、そのハトにも、その子供が手紙を運ぶことを教えこんだとさ。するとね。とてもよく手紙をはこぶようになったんだとさ。それで、ある日のこと、遠くにいるおとうさんとおかあさんに一つずつ手紙を書いて、そのハトたちに運ばした。ね、その子供のも、その子供のにいさんのもその子供の妹のも、だから合わせて六つだろう。ハト一羽に一つずつの手紙だから、六羽のハトがいるだろう。で、その六羽のハトは六つの手紙をもって、遠くにいるおとうさんおかあさんの所へ飛んで行ったさ、手紙には、おとうさん早く帰ってください。おかあさん早く帰ってください。と書いてあったさあ。それで、その手紙を見たおとうさんおかあさんは、すぐ汽車や汽船に乗って、その子供たちのところへ大急ぎで帰って来たとさ。それでおしまい。めでたし、めでたし。」
「ふ――ん。」
 マアコは感心してしまいました。そして、
「まるで、わたしたちみたようね。」
 そんなことをいいました。ところが、いつの間に来ていたのか、兄の太郎が側に来ていて、これを聞くと、
「ハッハッハ。」
 と笑い出してしまいました。
「バカッ、次郎のハトは山バトじゃないか。手紙を運ぶハトは別にあるんだよ。山バトなんか、いくらくんれんしたって、伝書鳩なんかになりゃしないよ。ハッハッハ。」
 こういわれて、次郎はまたおこってしまいました。はずかしくもあったのです。で、すぐ太郎に組みついていって、いろりの側に兄を押し倒し、上に馬乗りになって、おさえ付けました。太郎は次郎のするままにまかせながら、こんなことをいいました。
「ハハア、それでわかった。このあいだから次郎が裏の森の中をうろうろしていると思ったら、ハトの巣を探していたんだな。卵を六つ見つけたかい。」
 しかしこんなことをいわれては、次郎はますますだまって居れません。それでいっそう強く太郎をおさえつけ、腹の上でドシンドシンとしりもちをついたりしました。マアコが見かねて、次郎の肩に手をかけていいました。
「次郎兄ちゃん、さかなを釣りに行きましょうよ。森の中のハトの卵とりだってかまやしないわ。ね、ね。」
 そこで次郎は太郎を捨てておいて、かけるように外に飛び出し、竿を一本手に取ると、大急ぎで湖の方へ歩き出しました。マアコは後から竿や、びくを持ち、おくれないように小走りについていきました。
 いつもいく柳の木の下で、二人は竿を並べて釣り始めました。次郎のウキはすぐ引きこまれて、十センチもあるような大きなハヤが釣れました。その後から、マアコの糸にも少し小さいハヤがかかりました。これで、次郎も上きげんになり、二人は話を始めました。マアコがいいました。
「にいちゃん、この湖の水やはり海へ流れでているんでしょう。」
「そうだよ。」
「海は満州へつづいているんでしょう。」
「そうだよ。」
「だったらにいちゃん、ハトでなくたって、魚のしっぽに手紙をつけて、それを湖の川口のところへはなしてやったら、そうしたら、その手紙、満州のおとうさんやおかあさんのところへとどくでしょう。」
「うん。」
 そうはいいましたが、しかし次郎にはどうもそれが大丈夫のように思えませんでした。で、
「そうだなあ。」
 そんなことをいって、ウキを見つめていました。と、またウキが沈み、また六七センチもあるハヤが竿の先にピンピンはねおどってあがって来ました。
 ところで、にいちゃんの太郎は、次郎が出て行った後、机の側や、部屋のなかを片づけていました。すると、次郎の机の引出から少しはみ出ている紙切れがありました。取り出して見ると、こんなことが鉛筆で書いてありました。
「おとうさん、おかあさん、ボクたちは毎日おとうさんおかあさんのお帰りを一生けんめい待って居ります。早くキセンにのって、早くキシャにのってより道をしないで帰って来てください。おねがいします。」
 太郎はこれを見て、次郎がかわいそうでならなくなり、久しくじっと立っていました。次郎にさっきあんなことをいってすまなかったとも思いました。それで、その紙をたたんで、引出の中へしまってやりました。
 三人の子供のおとうさんおかあさんはその時どうしていたでしょう。もう帰りしたくをして、汽船に乗れるのを待っていました。「子供たちどうしているでしょう。子供たちの無事なようすを見たいものですねえ。」そんなことを話し合っていました。

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