いなかのがっこうに、タロウくんとジロウくんというふたりのこどもがありました。ふたりは、きょうだいではありません。それなのに、こんななまえでしたから、みんなからあにやおとうとのようにいわれました。
「タロウくん、おとうとがないてるよ。」
「ジロウ、にいさんがいじめられてるぞ。」
そんなことをいってからかったりするのです。
それでふたりは、なるべく、いっしょにいないことにしました。いっしょにいないばかりか、いつとなく、なかがわるくなりました。
「ジロウのばか。」タロウくんがいえば、
「タロウのいじわる。」
ジロウくんがいいました。すると、みんなはおもしろがって、
「やあーきょうだいげんか、きょうだいげんか。」と、まわりをとりまいて、はやしました。こうなると、ふたりは、そのままだまっておれなくて、つかみあいのけんかなんかすることがありました。みんなはそれで、いっそうおもしろがって、
「タロかて、タロかて。」とはやしたり、
「ジロかて、ジロかて。」とはやしたりしました。
ふたりはほんとうは、けんかなんかしたくなかったのです。ことにジロウくんは、いつもニコニコしている、いいこどもだったのです。それがこんなことで、たびたびけんかをするようになりました。そしてふたりはとうとう、みんなからけんかタロウけんかジロウとよばれるようになりました。
ある日、ふたりはまたけんかをしました。そのかえりみちタロウくんがむらのちかくへやってきますと、みちばたにちいさなこどものおじぞうさんがたっていました。もうひゃくねんもむかしから、そこにたっているおじぞうさんです。かわいらしいかおをしていて、いつもニコニコわらっております。タロウくんは、それをみると、ジロウくんのニコニコがおをおもいだしました。いまけんかをしたばかりで、しゃくにさわってたまらなかったので、タロウくんは、みちにおちてたいしをひろうと、ちからいっぱい、そのおじぞうさんにぶっつけました。
いしはおじぞうさんのひたいにあたり、そこがポコッとかけておちました。しかしいしのおじぞうさんですから、いたいともいわず、やはりニコニコわらっていました。タロウくんはこれをみると、たいへんきがとがめて、にげるようにはしってかえりました。
あくるあさ、タロウくんは、そのみちをやってきて、おじぞうさんのかおをみました。おじぞうさんは、ひたいにきずをしながら、やはりニコニコわらっていました。タロウくんは、またきがとがめてそこをはしってとおりました。
そのあくるあさ、タロウくんは、またおじぞうさんにあいました。やっぱりおじぞうさんは、ニコニコしております。タロウくんは、すっかりこまりました。ちょうどひとりでしたので、おじぞうさんのまえに、あたまをさげ、
「おじぞうさん、おゆるしください。」
と、おわびしました。こころのなかでは、
「もうけんかはいたしません。」
といいました。そして、その日がっこうでジロウくんにあうと、
「ジロウくん、これやるよ。」
そういってエンピツをやりました。ジロウくんはびっくりしました。それでもすまないとおもって、
「じゃ――ぼくはこれをやるよ。」
そういってケシゴムをやりました。
それから、ふたりはすっかりなかよしになり、ほんとうのきょうだいのようになりました。みんなは、もうけんかタロウとも、けんかジロウとも、いわなくなりました。なかよしタロウなかよしジロウというようになったのです。
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