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<坪田譲治作品研究>「おじさんの発明」における幼少時代への思い

[2020年6月22日]

ID:22848

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「おじさんの発明」における幼少時代への思い

 (初収録単行本 『少女の友』1938(昭和13)年4月)
 (収録本 『坪田譲治全集 第8巻』 新潮社)

  ノートルダム清心女子大学 留学生  大連外国語大学大学院修士課程3年 陳聡


 坪田譲治の「おじさんの発明」は、雑誌『少女の友』昭和13年4月号に掲載された童話である。本稿では、この童話のあらすじを紹介して、童話の内容を四つの部分に分けて作者の坪田譲治の伝えたかったことを深く見ていく。
 まず、童話の梗概を紹介したい。幼い時、善太は、ある日、お姉さんの美代子と一緒に近所に住んでいた発明家のおじさんのところへ、当時まだなかった変わった話と変わったお話の絵ができる「お話の箱」の発明を頼みに行った。一週間後、善太と美代子は、おじさんの発明した「お話の箱」を実験した。しかし、蓄音機の方は「シュシュ―」という音しかしなく、映画の方は「うすずみ色の光」しか見えなくなった。そこで、二十年がたち、善太と美代子は、幼い時代のおじさんの発明の話を思い出し、当時の「お話の箱」から何の話をしたかを一生懸命思い出そうとした。二人がお話の内容を全く覚えていなかったと思うと、美代子は「イタズラ好きのガマの話」をしたと先に言った。これに対して、善太は「ガマの話」が美代子の作り話だったと思っていて信じなかった。また二三日後、善太は美代子のところへ自分の思い出した「イタズラッ子であったお姉さん」の美代子の話を聞かせた。そこで、二人が自分の話が本当であることを確認するために、もう一度おじさんのところへどちらが本当であるかを問いに行った。最後の部分に、坪田譲治は、幼少時代を大切にして、立派な人になってほしいという主旨を示した。
 次は、童話の流れ通りに、内容を「おじさんが発明したお話の箱」「イタズラ好きのガマの話」「イタズラッ子であったお姉さん」「おじさんの思い」という四つの部分に分けて、坪田譲治の伝えたかったことを考察していく。
 童話の最初の部分に、善太と美代子は、発明家のおじさんの家に行って、次のような当時なかった機械の発明をお願いした。


 「いくらでもお話をしてくれる、それも、いくつでも、いくつでも、変わったお話ばかり、同じ話は決してない(中略)お話の絵をうつしてくれる、これもまたいくつでも、いくつでも、変わったお話の絵ばかりで、決して同じ絵は二度とうつさない。そういう機械を発明して下さい」

 
 この童話が昭和13年4月に掲載されたことから、成立年日は昭和11年から12年に及ぶ頃であると推測できると思われる。この成立年日に合わせて、日本における蓄音機については、『日本大百科全書15』(昭和62年 小学舘)によると、当時蓄音機が日本に輸入されたばかりであった。それに、電気吹き込み技術によって、「音量のコントロールが自由になり、また音響特性も大幅に向上した」ということである。こういうことから、当時の蓄音機の技術はまだ進んでいなかったことが分かる。これに対して、日本における映画のほうは、『日本大百科全書3』(昭和60年4月 小学館)によると、「一九三〇年ごろから音響もフィルム上に記録し再生できるようになり、以来映像は音を伴うのが通例となった」ということである。こういうことから、童話成立の当時の蓄音機と映画の機械はもう存在していることがわかってくる。しかし、善太は当時の蓄音機と映画の機械の機能に満足せずに、「いくらでも、変わった話と絵」ができる機械が欲しかった。善太と美代子がおじさんの発明した機械を実験した時の描写から見ると、坪田譲治は、当時実家に工場を持っているためなのか、当時の機械に詳しいことが窺われる。
 それに、善太の発想による発明の依頼は、現代社会人にとっても永久機関のような人工知能と言えるほどの高度技術がいる機械であり、非常に難しいことであると思われる。そこで、善太のこの発想について、おじさんは、善太の依頼を断らずに、全力で機械を作った。この行動の描写から、坪田譲治は、善太たちのような幼少時代の無邪気な子供たちが実に想像力と創作力を持っていることを信じ、大人の方が子供の想像力を生かしてあげるべきであることを考えていると思われる。それに、おじさんに「いくつでも」「決して同じお話をしない」機械を作ってほしいという善太の願いから、坪田譲治も幼少時代におじさんから色々な変わった話を聞き、おじさんがいつも変わった話をしてくれたことへの懐かしさを示しているだろうと思われる。
 次に、美代子の思い出した「イタズラ好きのガマの話」と善太の「イタズラッ子であったお姉さん」の話という部分をセットにして考察していきたいと思う。
 読者の立場にとっては、「発明できたお話の箱」の続きなら、おじさんの改良するための工夫とか「お話の箱」の結果という話の展開が期待することができるだろうが、童話の流れは、発明の話ではなくて、二十年後の美代子と善太の思い出のシーンに入った。前場面では、お姉さんの美代子は善太が自分や小さい子供にイタズラしたことがあることへの文句を言っているように思われる。これに対し、善太は、不服を唱えるように、二三日後自分の思い出した「イタズラ子であったお姉さん」の話をした。この部分では、坪田譲治が工夫を凝らして読者に深い意味を与えると言えるところは二つあると思われる。
 一つ目は、童話の場面が変わって、読者の期待を裏切る点である。なぜなら、「おじさんの発明」というタイトルを一見すると、童話は「発明の機械」をめぐって展開され、話の内容が直接に善太たちが実験したその場で出ても差し支えがないのに、わざわざ善太たちの思い出のシーンに変わって、読者に面白みを与える効果があるからである。二つ目は、美代子と善太の思い出した話は「イタズラ」に関わっているという点である。坪田譲治は、子供たちのいたずらが好きであることに目を向けている。お姉さんである美代子は、ガマについての話だけではなくて、善太のイタズラ行為の思い出も加えている。これに対して、善太はお姉さんが「美しき少女の木」へのイタズラ行為を思い出したと主張した。
 まず、美代子の話から見ると、坪田譲治は機械について美代子の記憶を通して、幼い頃善太がよく自分を含めた小さい子供たちによくイタズラをしたりしてきた描写から善太への美代子の思い込みを表しているようである。一方、子供の立場から見ると、これも美代子の過去の楽しかった思い出を加えた創作力と想像力とも考えることができるであろう。それに、善太はその場で言い返したかわりに、二三日を経てまた美代子のところに自分の思い出した話を話しに行った。この時間差の上に、善太は美代子を負けないように、イタズラの話しを言い返すために、二三日もかけて必死に「少女の木」へのイタズラの話を考えたということから、善太の負けず嫌いな心理と想像力も窺われると思われる。そこで、美代子が幼い時から善太への思い込みにしろ、善太が幼い時からお姉さんへの不服にしろ、坪田譲治は、善太たちの想像力を通して、善太と美代子が大人になってもお互いにお互いのことを意識している仲間であり、ずっと仲良くしているという絆を描いているだろうと思われる。それに、二十年間たっても二人の想像力が消えていないことから、坪田譲治は人間性として、子供が大人になっても、仲間の絆を継続してほしいこと、想像力を持ってほしいことの思いを伝えると考えることができると思われる。
 童話の最後の部分では、坪田譲治はおじさんが「話の機会なんか造らなかった」のだと言ったことを書き記すことで、確かにお話の機械など作らなかったということをはっきりさせたが、二人のどちらが本当の話であるかをはっきり指摘するのではなくて、おじさんの視点からこの童話の趣旨を次のように明らかにしはじめた。


 「では、この二人の聞いたというお話は何なんでしょう。つまり幼い生活の中から、それを聞きとったのであると、私は申し上げたいのですが、その意味がわかってもらえましょうか。幼い善太君、美代子さん、イタズラをしないように、幼少年少女の時代を大切にして、立派な人におなり下さい。」 


 ここでは読者の期待する通りに、坪田譲治は「幼少年少女の時代を大切にして、立派な人になってほしい」という童話の趣旨を最後の部分で示すと同時に、善太と美代子の思い出した話の真偽に対する判断を読者の想像力に任せていることがわかる。こういう工夫は読者の目を引いて、読者に意味深い余韻を与えることができると考える。
 坪田譲治の童話「おじさんの発明」を考察してくると、人間的成長というものは、子供を育てる大人は期待を込めながら、子供ならではの想像力などの力を生かすものであると同時に、大人のもとに育つ子供たちは体験を大切にしながら育っていくものであるということが感じられる。童話を読んで、私の成長に大きな影響をもたらしてくれた祖父のことを思わせられた。幼いころから、私が立派な人間になるように、祖父は童話のおじさんのように、日常生活の小さいことから祖父の想像力を伝えてくれるような色々な体験をさせてくれた。これほどの生活の中の体験があるからこそ、成長というものをしみじみ感じることができた。

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