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答申第11号

[2010年3月4日]

ID:17126

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岡情審査第19号
平成11年9月20日

岡山市教育委員会
委員長 片岡 和男 様

岡山市情報公開及び個人情報保護審査会
会長 山口 和秀

岡山市情報公開及び個人情報保護に関する条例第25条の規定に基づく諮問について(答申)

平成11年1月22日付け岡市教委同第219号による下記の諮問について次のとおり答申いたします。


岡山市教育委員会が実施している同和地区児童・生徒の基礎調査に関する書類(以下「本件公文書」という。)の開示請求に対して,全部非開示とした決定に対する異議申立て(以下「本件異議申立て」という。)についての諮問

第1 審査会の結論
本件公文書中,次に掲げる第1号,第2号,第5号及び第6号の公文書は,全て開示し,第3号及び第4号の公文書にあっては,同和地区における調査結果たる数値を除き開示すべきである。
(1)第1号の公文書
平成9年4月22日付け教同指指第25号岡山県教育委員会教育長から市(組合)教育委員会教育長宛「同和地区児童・生徒の基礎調査の実施について(依頼)」と題する文書
(2)第2号の公文書
平成9年6月25日付け岡山市教育委員会から岡山市立各小中学校宛「同和地区児童・生徒の基礎調査の実施について(依頼)」と題する文書
(3)第3号の公文書
岡山市立横井小学校作成の「同和地区児童・生徒の基礎調査(平成9年度)」と題する文書
(4)第4号の公文書
岡山市立香和中学校作成の「同和地区児童・生徒の基礎調査(平成9年度)」と題する文書
(5)第5号の公文書
岡山市教育委員会作成の「小学校同和地区児童・生徒の基礎調査(平成9年度)」と題する文書
(6)第6号の公文書
岡山市教育委員会作成の「中学校同和地区児童・生徒の基礎調査(平成9年度)」と題する文書
第2 異議申立ての趣旨
本件異議申立ての趣旨は,平成10年10月20日付けで行った岡山市情報公開及び個人情報保護に関する条例(昭和62年市条例第43号。以下「本件条例」という。)第6条に基づく本件公文書の開示請求に対し,岡山市教育委員会(以下「実施機関」という。)が,本件公文書記載の情報は,本件条例第7条第1号,第3号,第4号及び第5号に定める非開示情報に該当するとして,平成10年11月27日付けでなした全部非開示決定処分(以下「本件処分」という。)の取消しを求めるものである。
第3 争点並びに争点に対する実施機関及び異議申立人の主張
1 争点並びに各争点に対する実施機関の主張は次のとおりである。
(1)本件公文書記載情報の本件条例第7条第1号該当性について(争点1)
本件公文書記載の情報中,調査結果としての数値は,次のとおり,本件条例第7条第1号に定める非開示情報としての個人情報に該当する。
ア 本件公文書に記載されている調査結果としての数値は,他の関連情報と結び付けることによって,特定の個人が識別される。
イ したがって,本件公文書記載の情報中,調査結果としての数値も「特定の個人が識別し得る」情報に該当する。
(2)本件公文書記載情報の本件条例第7条第3号該当性について(争点2)
本件公文書は,次のとおり,本件条例第7条第3号に定める非開示情報としての意思形成過程情報に該当する。
ア 本件調査項目が限られたものであるため,本件公文書を開示すれば,調査用紙記載の調査項目のみによって,状況把握をしているとの誤解を招き,その結果,今後の調査も困難となり,当該調査をもとにした同和教育推進のための意思形成に支障を生ずる。
イ 本件調査は,公にしないことを前提に,各小学校,中学校及び高等学校に対して調査報告を求めるものであるから,本件公文書を開示すると,実施機関と各小学校,中学校及び高等学校が調査報告に応じてくれなくなる等して,今後の同種の調査が困難となり,公正かつ適切な意思形成に支障を生ずる。
ウ 調査結果たる数値からは,特定の調査対象たる児童・生徒個人が識別されはしないとしても,開示すれば,当該特定された児童・生徒の人権の保障に支障が生じ,今後の調査ができなくなる等公正かつ適切な意思形成に支障を生じる。
(3)本件公文書記載情報の本件条例第7条第4号該当性について(争点3)
本件公文書を開示すれば,調査対象たる同和地区の児童生徒の人権保障に支障が生じる等して同和教育施策の事務事業の公正かつ円滑な執行に支障を生ずるおそれがある。
(4)本件公文書記載情報の本件条例第7条第5号該当性について(争点4)
本件公文書は,次のとおり,本件条例第7条第5号に定める非開示情報としての国等協力関係情報に該当する。
ア 本件公文書は,岡山県教育委員会から一切開示しないようにとの強い要望を受けている。
イ したがって,岡山県教育委員会からの非開示の要望がある以上,本件公文書を開示すれば,実施機関と岡山県教育委員会との信頼関係を損なうことになる。
2 異議申立人の主張
異議申立人の主張は,本件調査そのものの問題性,特にその調査方法(情報収集の仕方)が本件条例第16条に定める個人情報の直接収集の原則に反した形でなされている点を批判し,かつ,その必要性に疑問を提示することに力点が置かれており,本件公文書の開示非開示に関わる各争点について逐次主張したものはないが,その主張の要旨は次のとおりである。
仮に実施機関の主張する本件調査の必要性・重要性を前提にしても,本件公文書一切を部外秘として全面非開示とすることは,不当であって,本件条例の趣旨・目的を尊重して開示すべきものである。
第4 審査会の認定した事実
当審査会において認定した事実は次のとおりである。
(1)実施機関は,本件公文書を作成し,及び管理していること。
(2)本件公文書は,次に掲げる第1号から第6号までの6種類にわたるものであるが,その具体的標目及び主たる内容は次のとおりであること。
ア 第1号の公文書
(ア)具体的標目
平成9年4月22日付け教同指指第25号岡山県教育委員会教育長から市(組合)教育委員会教育長宛「同和地区児童・生徒の基礎調査の実施について(依頼)」
(イ)主たる内容
学年別児童生徒数,長欠児童・生徒数,平成8年度卒業者の進路状況等をその調査内容とする調査用紙及びその記入方法説明書並びに岡山県教育委員会から各市教育委員会宛の調査依頼文書
イ 第2号の公文書
(ア)具体的標目
平成9年6月25日付け岡山市教育委員会から岡山市立各小学校宛「同和地区児童・生徒の基礎調査の実施について(依頼)」
(イ)主たる内容
学年別児童生徒数,長欠児童・生徒数,平成8年度卒業者の進路状況等をその調査内容とする調査用紙及びその記入方法説明書並びに岡山市教育委員会から各学校宛の個別調査依頼文書第3号の公文書
ウ 第3号の公文書
(ア)具体的標目
岡山市立横井小学校作成の「同和地区児童・生徒の基礎調査(平成9年度)」
(イ)主たる内容
横井小学校区内の学年別児童生徒数,長欠児童・生徒数,平成8年度卒業者の進路状況等の数値調査結果
エ 第4号の公文書
(ア)具体的標目
岡山市立香和中学校作成の「同和地区児童・生徒の基礎調査(平成9年度)」
(イ)主たる内容
香和中学区内の学年別児童生徒数,長欠児童・生徒数,平成8年度卒業者の進路状況等の数値調査結果
オ 第5号の公文書
(ア)具体的標目
岡山市教育委員会作成の「小学校同和地区児童・生徒の基礎調査(平成9年度)」
(イ)主たる内容
市内小学校の学年別児童生徒数,長欠児童・生徒数,平成8年度卒業者の進路状況等の総括的数値調査結果
カ 第6号の公文書
(ア)具体的標目
岡山市教育委員会作成の「中学校同和地区児童・生徒の基礎調査(平成9年度)」
(イ)主たる内容
市内中学絞の学年別児童生徒数,長欠児童・生徒数,平成8年度卒業者の進路状況等の総括的数値調査結果
(3)異議申立人は,平成10年10月20日付け公文書開示請求書で,実施機関に対し,本件条例第6条に基づき,本件公文書の開示を請求したこと。
(4)実施機関は,前記開示請求に対し,本件公文書記載の情報が本件条例第7条第3号,第4号及び第5号に該当するとして,平成10年11月27日付けで本件処分を行ったこと。
(5)実施機関は,当審査会に対する平成11年3月8日付け弁明書において本件公文書の非開示事由として本件条例第7条第1号を追加したこと。
(6)実施機関が,岡山県教育委員会(以下「県教委」という。)に対し,本件公文書につき,開示非開示の意向を照会したところ,
(1)本件調査が,今後の行政施策に反映させるために行っていること,(2)同和問題に対する調査は,重大な人権侵害を起こす危険があり,取扱については特に慎重な配慮が必要であること,(3)調査内容は,直接には個人情報とはならないが,活用方法によっては,個人の識別が可能となるおそれがあること,を理由として本件調査結果のみならず,県教委から実施機関への依頼文書の一体として「すべて非開示とすることが適当」である旨の回答を行ったこと。
第5 審査会の判断
本件での弁明書,反論書,口頭意見陳述等からも伺われるように,実施機関と異議申立人との間には,本件基礎調査の正当性,必要性等をめぐる激しい意見の対立があるが,そうした問題を当審査会が審査・判断の対象とすべきではないことはいうまでもない。当審査会は,本件公文書記載の情報が,本件条例第7条第1号,第3号,第4号及び第5号に定める非開示事由に該当するかどうかについてのみを,次のとおり,審査し,及び判断する。
なお,異議申立人の本件開示請求の趣旨は,本件条例第19条以下に規定する個人情報保護に関わる請求ではなく,あくまで,本件公文書の開示請求であるから,個人情報の収集,保管についての異議申立人の疑義等については,本件における審査及び判断の対象とはしない。
1 争点1について
(1)本件条例第7条第1号は,開示しないことができる公文書として個人情報が記載されている公文書(ただし,同号ただし書ア,イ及びウに掲げる情報を除く。)を掲げ,本件条例第2条第2号は,個人情報を「特定の個人が識別され,又識別され得るものをいう。ただし,事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。」と定義している。このうち,「特定の個人が識別される」情報とは,氏名等のように当該情報だけで,直接,特定の個人が識別される情報であり,「識別され得る」情報とは,他の情報と照らし合わせることによって,特定の個人に関する情報であると認識し得る情報をいうものである。
(2)このうち,「識別され得る」情報の判断に当たっての他情報との照合可能性については,次の(3)及び(4)に示す本件条例の趣旨に鑑み,その範囲を不当に拡大することのないように,一般人が通常入手し得る関連情報によって相手が識別される得る情報に限定的に解するべきであって,例えば当事者の周辺にいる人しか知らないような情報をもって識別可能性を肯定すべきでないことは言うまでもない。
(3)本件条例が,個人のプライバシーに関する情報を,直接,非開示事由として規定していないのは,市が保有する個々の具体的な情報が,プライバシー情報に該当するか否かは,ケース・バイ・ケースで明確な判断が困難であると同時にプライバシーは一旦侵害されると,金銭賠償等では回復しがたいものであること等に鑑み,プライバシーに関する情報であると明らかに判断できる場合はもとより,プライバシーであると推測できる場合を含めて,「特定の個人が識別され,又は識別され得る」情報を原則として非開示としたものと解することができる。
(4)また,一方で,本件条例は,個人のプライバシーを最大限に保護すると同時に,本件条例の原則公開の理念との調和を図るため,開示しても明らかに,プライバシーの侵害とならない類型の情報(本件条例第7条第1号ただし書ア及びイ)や公益上強く開示が求められる類型の情報(本件条例第7条第1号ただし書ウ)を例外的に開示できるとしているものである。
(5)以上の観点から本件公文書記載の情報中,調査結果としての数値が,非開示事由としての個人情報に該当するか否かを判断する。
ア 本件公文書のうち,第1号及び第2号の公文書については,県教委が実施機関に対して,また,実施機関がその所轄下にある各小学校,中学校及び高等学校に対して,本件調査を依頼したという事実並びに調査方法及び調査項目に関する情報の記載に限定されており,なんら,個人情報に該当する余地のないものであるから,第1号及び第2号の公文書を個人情報該当性を理由に非開示とすることは許されない。
イ ー方,他の情報と組み合わせることによって特定の個人が識別され得る可能性について検討するに,調査結果としての人数は個人の人格が完全に捨象された数値による情報であるから,特定の個人がその数値の中に含まれることが推測できるためには,これを推測させるための他の情報の介在が必要である。
エ ところで,実施機関は,地区住民や活動団体の構成員の中には,本件調査結果に精通し,数値上の結果のみをもって特定の個人を識別し得る者がいる旨主張するが,仮に実施機関の主張するような人物が存在するとしても,そのような極限られた人数の人物が有する希少情報をもって,「一般の通常人が入手し得る関連情報」ということはできないから,調査結果たる数値に個人識別可能性を認めることはできない。
オ したがって,本件調査結果を記載した第3号,第4号,第5号及び第6号の各公文書記載の情報についても,「特定の個人が識別される」情報でないことはもちろん,「特定の個人が識別され得る」情報でもないから,非開示情報としての個人情報に該当するとは言えない。
2 争点2について
(1)本件条例第7条第3号は開示しないことができる文書として「市の事務事業に関し,市内部又は国若しくは他の地方公共団体との間における審議,検討,調査研究等の意思形成過程において実施機関が作成し,又は取得した情報であって,開示することにより,当該事務事業又は将来の同種の事務事業に係る公正かつ適切な意思形成に支障を生ずると認められるもの」(以下「意思形成過程情報」という。)に該当する情報が記載されている公文書を掲げている。
(2)意思形成過程情報であることを本件条例の非開示事由とした趣旨は,意思形成過程に関する情報の中には,当該情報が開示されることにより,(1)未成熟,不正確な情報であるため,市民に不正確な理解を与えたり,誤解による混乱を招く,(2)行政内部における自由な意見交換が阻害される,(3)一部の利用者に不当な利益又は不利益を与える,(4)外部からの信頼,協力関係等に基づく任意の資料提供等が得られなくなる等「当該事務事業又は将来の同種の事務事業に係る公正かつ適切な意思形成に支障を生ずる」情報が含まれる場合があり,そうした場合には,当該意思形成過程情報を開示する利益より,当該情報を非開示とすることで保護されるべき利益のはうが優先するとして,非開示事由としたものと解される。
(3)したがって,意思形成過程において作成取得した情報の全てが非開示となるものではなく,これらのうち,「公正かつ適切な意思形成に支障を生ずる」情報に限定されるのであるから,いたずらに非開示の範囲を広げることがないように留意した運用が実施機関に望まれるものであり,「公正かつ適切な意思形成に支障を生ずる」事由の存在は,実施機関において個別具体的に主張立証すべきものである。
(4)以上の観点から本件公文書記載の情報が,意思形成過程情報に該当するか否かを検討する。
ア 本件公文書を開示することが,市民に誤解を与え,調査が困難になるとの主張について
(ア)実施機関の主張は,まず,本件公文書のいずれを開示しても,公文書に記載している調査項目や調査方法に関して市民の間に誤解や混乱を招きやすく,今後の調査が困難となり,当該調査を基にした同和教育施策推進のための公正かつ適切な意思形成に支障を生ずるというものである。
(イ)しかし,調査方法や調査項目が明らかになれば,当該調査方法や調査項目の妥当性,適切性等についての疑問や批判が出される可能性は否定しがたいとしても,懸念される誤解や混乱は,非開示とすることによってではなく,むしろ,開示したうえで,そうした疑問や批判に対する実施機関の側からのより詳細な補足説明により,回避すべきものであり,かつ,回避できるものである。したがって,本件公文書の開示によって,今後の調査が困難になり,公正かつ適切な意思形成に支障を生ずるとの主張は,誤解や混乱の不可避性を前提にしたものであって,前提そのものに問題がある主張といわなければならない。
イ 本件公文書を開示すると各学校の協力が得られなくなるとする主張について
(ア)次に実施機関は,本件調査が部外秘を前提にして各小学校,中学校,高等学校に依頼し,実施したものであるから,本件公文書を開示すると,各学校の調査に対する協力は得られなくなり,今後の同種の調査,ひいては同和教育施策に関する公正かつ適切な意思形成に支障が生ずると主張している。
(イ)確かに,本件調査につき,実施機関が部外秘を前提にして各学校に調査依頼をしてきたことは,第2号の公文書により確認することができる。しかしそれは,あくまで,「差別につながることがないように」配慮したためであって,非開示とすることが,各学校の調査依頼への協力如何と直接的に関連するものではない。
(ウ)すなわち,実施機関は,必要な場合には,その所轄下にある各学校に対して,内部的指揮権の行使により調査報告を求め得る権限を有するのであり,各学校の協力如何が,本件公文書の開示・非開示によって左右されるべき性格のものではない。
(エ)本件公文書のうち.調査結果たる数値が一切記載されていない第1号及び第2号の公文書については,それを開示したからといって「差別につながる」とは考えられず,そうした文書を含めて部外秘(全面非開示)にしなければ,各学校の協力が得られなくなり,今後の調査に支障を生ずるとの実施機関の主張は,この点でも支持しがたいものである。
ウ 本件公文書を開示すると,調査対象たる児童・生徒の人権の保障に支障を生ずるとの主張について
(ア)最後に実施機関は,本件調査結果の数値から特定の個人が識別されないとしても,本件公文書を開示すると,調査対象である,同和地区児童・生徒の人権の保障に支障が生ずる事態が予測され,その結果,今後の同種の調査,ひいては,同和教育施策に関する公正かつ適切な意思形成に支障が生ずると主張している。
(イ)本件公文書のうち調査結果である数値を記載した第3号から第6号までの公文書については,より厳密な検討の必要性が認められるが,そうした数値が記載されていない,第1号及び第2号の公文書については,実施機関の主張は妥当せず,したがって,上記実施機関の主張は少なくとも本件公文書を全面非開示とする理由とはなり得ないものである。
エ まとめ
以上のとおりであるから,本件公文書のすべてにつき,本件条例第7条第3号の意思形成過程情報に該当することを理由として全面非開示とする実施機関の主張は認められず,本件公文書のうち,第1号及び第2号の公文書は開示されるべきである。
なお,本件調査結果の数値を記載した第3号から第6号までの公文書が,非開示事由たる意思形成過程情報に該当するか否かについては次の争点3と併せて審査し,及び判断する。
3 争点3について
(1)本件条例第7条第4号は,開示しないことができる文書として「市又は国等が行う行政上の取締まり,犯罪の予防及び捜査,検査等の計画及び実施要領,争訟及び交渉の方針,契約の予定価格用地買収計画その他の事務事業に関する情報であって,開示することにより,当該事務事業の目的を損なわせるおそれのあるもの当該事務事業又は将来の同種の事務事業の公正又は円滑な執行に支障を生ずるおそれのあるもの,人の生命,身体又は財産の保護等市民生活の安全及び秩序維持に支障を及ぼすおそれのあるもの」に該当する情報(以下「事務事業執行情報」という。)が記載されている公文書を掲げている。
(2)事務事業執行情報を本件条例の非開示事由にした趣旨は,市,国等の行う事務事業に関する情報であっても,情報を開示すると事務事業を実施しても予想どおりの成果が得られなくなり,実施目的を失う場合や不公平が生じることにより関係者の理解が得にくくなったりする等行政の円滑な執行を妨げるおそれがある場合や,開示することで身体や財産等の保護に支障をきたす場合があり,そのような場合には,当該情報を開示する利益より当該情報を非開示とすることで守る利益のほうが優先するとして,非開示事由とされたものである。そして本件条例第7条第4号にいう「おそれ」の解釈については,公文書の公開によって市民の市政への参加を推進し,開かれた市政の実現に寄与するという条例の趣旨が没却されることのないように単なる抽象的,観念的な可能性では足らず,事務事業の公正又は円滑な執行に支障を生ずる具体的かつ客観的な蓋然性が要求されると解され,そうした非開示事由(「おそれ」)の存在は,実施機関において個別具体的に主張立証しなければならない。
(3)以上の観点から本件公文書記載の情報が本件条例第7条第4号にいう事務事業執行情報に該当するか否かを検討する。
ア 実施機関は,本件公文書,とりわけ,同和地区児童・生徒に係る調査結果を記載した第3号から第6号までの公文書を開示すれば,特定の個人が識別されえないとしても,調査対象となった児童・生徒の人権が損なわれる危険性があり,同和教育施策等の事務事業の公正又は円滑な執行に支障を生ずるおそれがある旨主張する。
イ 本件調査は同和地区児童・生徒の実態を調査項目ごとに数値化して把握しようとするものであり,調査結果は統計的数値で表示されており,したがって,それ自体としてはもとより,また,一般的に入手しうる他情報も存在しないことから,本件条例第7条第1号の「個人情報」に該当しないことは争点1における当審査会の判断で示したとおりである。
ウ しかし,そうした数値を開示することによって,限られた範囲内であれ,当該調査結果たる数値に該当する者を詮索又は推測する手掛かりとなるなど,調査対象者の児童・生徒の人格的利益が損なわれる事態,すなわち,実施機関が想念する「差別につながる」事態が発生するおそれがないわけではない。
エ このことは,第3号及び第4号の公文書における調査対象校単位の調査結果のように,調査対象が狭い範囲で,しかも統計化した調査結果たる数値が小さい場合には,特にそうである。本件公文書のうち,第3号及び第4号の公文書における調査結果を開示すれば,当該学区内で同和地区の児童・生徒が詮索・推測されるなど,たとえ,特定の個人の識別に至らないとしても,調査対象である児童・生徒はもとより,その父兄を含む学区住民の人権を脅かす危険性が多分にあることは現実の経験に照らしても否定しがたいように思われる。
オ したがって,そうした調査結果を開示することにより,同和教育施策推進のための公正かつ適切な意思形成に対する支障が生ずるだけでなく,同和教育行政等の事務事業の公正又は円滑な執行に対する支障をも生ずるおそれがあるとの,実施機関の主張は,決して観念的抽象的な主張ということはできず,現実の経験をふまえたものと認められ,その限りで,本件条例第7条第3号及び第4号の非開示事由該当性が肯定されるべきである。
カ ただし,実施機関が非開示の理由として述べる以上の主張は,同じような結果を記載した公文書ではあっても,第5号及び第6号の公文書のように調査対象が広い範囲にわたり,かつ,統計的数値が全調査対象校の数値を合計したものである場合には該当せず,したがってまた,第5号及び第6号の公文書を含む一切の公文書を非開示とする理由にもなり得ないのである。
キ 以上のとおりであるから,本件条例第7条第3号及び第4号の非開示事由該当性に係る実施機関の主張については,本件公文書のうち,第3号及び第4号の公文書における調査対象校単位の調査結果の同和地区児童・生徒の項目に記入された数値についてのみ,これを認めて当該部分を非開示とし,その余の部分についてはすべて開示すべきものである。
4 争点4について
(1)本件条例第7条第5号は,開示しないことができる文書として「市と国等との間における協議,協力,依頼等に基づいて作成し又は取得した情報であって,開示することにより,国等との協力,関係又は信頼関係が損なわれると認められるもの」に該当する情報(以下「国等協力関係情報」という。)が記載されている公文書を掲げている。
(2)この規定は,市の行政が,国,県,他の自治体との密接な関係の下に執行されていることから,市と国等との間における現在又は将来にわたる継続的で包括的な協力関係又は信頼関係を維持することによって,行政の適切かつ円滑な執行を図るという公益上の要請に基づき,開示されると市と国等の間の前記のような協力関係又は信頼関係を損なうと認められる情報が記載されている公文書は非開示とすることができる旨定めたものである。
(3)そして,本件条例第7条第5号にいう「国等の協力関係又は信頼関係が損なわれる」との要件該当性については,情報公開の原則をうたった本件条例の目的が没却されることのないように,まず,国等により非開示の意思ないし指示が明確に表示されているか否かの検討が必要であり,さらに,当該文書の開示により「協力関係又は信頼関係が損なわれる」と認められるか否かについても,具体的事情を勘案して実質的検討を要すべきものであると解される。
(4)以上の観点から,本件公文書記載の情報が,非開示情報としての国等協力関係情報に該当するか否か検討する。
ア いわゆる同和地区児童・生徒の基礎調査は,県教委が,全県を通じた同和教育推進施策を遂行するための数値的統計資料を作成するため,実施機関に対してその調査を依頼したものであるということができる。また,この調査結果は,調査依頼もとである県教委に対し報告すると同時に,実施機関も,自らが行う同和教育推進施策を遂行するための数値的統計資料とするものである。
イ したがって,本件公文書の収受の背景となった県教委と実施機関との関係は,依頼協力関係という側面を有するものであり,本件公文書は市と国等との間における「協議,協力依頼等に基づいて」実施機関が取得した情報が記録されているものであるということができる。
ウ 県教委は,実施機関の本件公文書開示請求事件に係る開示非開示の文書照会に対し,(1)本件調査が,今後の行政施策に反映さるために行っていること,(2)同和問題に関する調査は,重大な人権侵害を起こす危険があり,取扱いには特に慎重な配慮が必要であること,(3)調査内容は,直接には個人情報ではないものの,活用方法によっては、個人の識別が可能となるおそれがあること,を理由として当該同種の公文書を「すべて非開示とすることが適当である」旨の意思表示(回答)を文書で行った。県教委が,指摘する(1),(2)及び(3)については,それぞれ妥当かつ正当な指摘であり,その限りで異論の余地のないものと判断されるが,なにゆえに本件公文書の全てを非開示とする理由となるかについては,それ以上の個別具体的な説明はなされておらず,不明である。しかし,本件公文書と同種のすべての公文書の取扱につき非開示とすべき県教委の意思は明確に表示されている。
エ そこで,次に本件公文書の開示により,実施機関と県教委との「協力関係又は信頼関係が損なわれる」と認められるか否かについて検討する。
周知のように,教育における国等との協力については,最近の地方分権推進の観点からのみならず,現行教育法制における重要な基本原理の一つである地方自治の原則からも,自主的な協力であるべきことが強く要請されているところである。本件条例が規定する「国等との協力関係又は信頼関係」についても,それが教育に関わる場合には,特に,現行の教育法制が要請する自主的な「協力関係又は信頼関孫」が想定されているものと解される。
具体的に本件での同和教育基礎調査に関する「協力関係」について言えば,現行の教育法制のもとで,実施機関は,県教委の協力要請(調査依頼)に応ずるかどうかを独自の立場で判断し,決定する自由を有するのであり,本件同和教育基礎調査についても,そうした自由に基づいて,自らの責任で協力要請に応じたものである。そうであるとすれば,当該調査に関する本件公文書の開示・非開示についても,県教委の意思に,全面的に拘束されるものではないことは言うまでもなく,実施機関独自の立場で判断し,決定する自由を有するはずである。すなわち,実施機関は,本件公文書を非開示とすべき合理的根拠又は理由を実施機関独自の立場から,本件条例の規定に則して,個別具体的に主張立証すべきものである。そうした主張立証をなし得ずして,もっぱら県教委の意思,しかも,上述したように「すべて非開示」との結論のみが明確で個別具体的な説明を欠いた県教委の回答を根拠に,県教委との「協力関係又は信頼関係が損なわれる」との理由で,本件公文書を全て非開示とすることは,現行の教育法制及び本件条例が想定する,教育における自主的な「協力関係又は信頼関係」を前提としない,誤った「協力関係又は信頼関係」の理解に基づくものであり,当審査会として是認しうるところではない。
オ 以上の理由により,本件公文書記載の情報に本件条例第7条第5号該当性を認めることはできない。
第5 結論
以上により,「第1 審査会の結論」のとおり判断する。
第6 総括
(1)本件での実施機関の主張は,開示請求対象である公文書の非開示事由該当性についての個別具体的な主張立証というよりも,もっぱら同和問題に関する調査は,それが差別につながることのないよう慎重な取扱いが要請されるということから,直ちに,一切の公文書を部外秘(全面非開示)とすべきであるとする,一般的かつ断定的な主張として展開されている。確かに,実施機関が主張するように,同和問題に関する調査や情報については,人権尊重の観点から,それが差別につながらないよう慎重な取扱いが要請されるのであり,実施機関が,極めて慎重な配慮のもとで,本件同和地区児童・生徒の基礎調査に対処しようと尽力していることについては,「個人情報をみだりに公にすることのないよう最大限の配慮をしなければならない」ことを実施機関の責務として規定した本件条例第3条に照らして,当審査会も十分理解できるものである。
(2)しかし,そうした慎重な取扱いが必要であるという一事をもって本件調査に関わる一切の公文書を非開示とする結論を導き出すとすれば,それは,「市民の公文書の公開を求める権利を保障し・・・市民の市政への参加を推進し,市政に対する市民の理解と信頼の増進を図り,もってより開かれた市政の実現に寄与する」(本件条例第1条)という本件条例のもう一つの重要な目的を没却し,また,「公文書の開示を求める権利が保障されるよう努める」(本件条例第3条)べき実施機関の責務を軽視するものであるといわなければならない。
(3)すなわち,実施機関は,一方でプライバシー等個人の人格的利益を守るための「最大限の配慮」が求められるが,他方で,市民の公文書の開示を請求する権利を軽視することは許されず,開示請求対象とされた公文書を非開示とするためには,実施機関が本件条例における非開示事由該当性について個別具体的に主張立証しなければならないものである。このことは,開示請求対象となった公文書が同和教育行政における分野のものであっても変わりないものである。
(4)従来同和教育行政における透明性が決して高くなかったこと,そして,そのことが同和教育行政に対する市民の理解と信頼を妨げる一因となっていたことをも考えれば,こうした分野の情報も,「個人情報」の保護に配慮しながら,むしろ本件条例の目的に基づき,積極的に開示する努力を行い,市民の理解と信頼に支えられた同和教育行政を推進していくことが,今日的課題として要請されているのである。こうした要請に応えることは,決して容易なことではないが,この点での実施機関の情報公開に向けての一層の努力と英断を期待するものである。

審査会の処理経過
年月日 処理内容
平成11年1月22日 諮問書の収受
平成11年3月8日 弁明書の収受
平成11年3月19日 第1回審査会(審議)
平成11年4月5日 反論書の収受
平成11年4月9日 第2回審査会(実施機関の口頭意見陳述及び審議)
平成11年5月14日 第3回審査会(異議申立人の口頭意見陳述及び審議)
平成11年6月14日 第4回審査会(審議)
平成11年7月12日 第5回審査会(審議)
平成11年8月9日 第6回審査会(審議)
平成11年9月10日 第7回審査会(審議)
平成11年9月20日 答申

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