[2026年9月17日]
ID:85576
岡山大学大学院教育学研究科・教育学部ESD協働推進センターでは、学校や地域、大学などと協働しながら、ESD(持続可能な開発のための教育)を推進しています。
活動は多岐にわたり、理科教育や気候変動教育など、ESDの教師教育を推進するための国際的な拠点づくりに取り組んでいるほか、岡山県ユネスコスクール高等学校ネットワーク(以降、「ユネスコスクール高校ネットワーク」。)による、ユネスコスクールやESDに取り組む学校への支援・協働などを行っています。
今回は、そうした取組の一つとして、高校生や大学生、教員、地域など、さまざまな人がつながり、学び合うユネスコスクールのネットワークづくりに長く携わってきた、岡山大学大学院教育学研究科ESD協働推進センター助教の柴川弘子先生に、これまでの歩みや活動に込めている思いを伺いました。
ESD協働推進センターは2010年度に設立され、学内でのESDの普及・促進や地域との連携、学生へのESD教育、学校のESD推進支援などに取り組んできました。
なかでも、学校のESD実践を支えることは、センターの大きな役割の一つです。ユネスコスクールへの加盟支援や教員研修などを通じて、学校がESDを教育活動の中に位置づけていくためのサポートを行ってきました。
活動の大きな転機となったのが、2014年に岡山で開催されたESDに関する世界会議です。開催当日に向けて、高校同士が力を合わせる交流が生まれました。大学生が高校生と教員の間に入り、活動を支える役割を担うなど、今の学生スタッフにもつながる関わり方が生まれていきました。
世界会議の終了後、このまま終わらせるのはもったいない、という高校教員らの声を受け、2015年、高校生が継続的に学び合うユネスコスクール高校ネットワークが正式に立ち上がりました。
「高校を卒業した生徒が大学に進学し、今度は学生スタッフとして後輩を支える。そして、将来学校の先生になった人がESDの仲間を増やしていく。そういう循環ができればいいなと思っています。」
一つのイベントで終わるのではなく、次の人へと学びをつないでいく。そうした循環も、このネットワークが大切にしてきたことの一つです。
※2014年ESDに関する世界会議の際に開催された「ユネスコスクール世界大会」「学生運営スタッフ」の様子はこちらからご覧ください。
学校によって、地域も、取り組んでいるテーマも異なります。だからこそ、学校を越えて互いの実践を知ることには意味があります。自分たちの活動を別の学校の視点から見つめ直すことや、そんな考え方もあるのかと新しい視点を得ることにつながるからです。そうした交流は、生徒だけでなく、教員にとっても大切なものです。
「先生たちがつながって、『自分だけではない』『仲間がいる』と知ることには大きな意味があります。」
ESDに取り組む教員が孤立しないことも、ネットワークの大きな役割です。高校、大学、行政、卒業生など、さまざまな立場の人が、関心や思いを共有しながらつながっていく。柴川先生は、そうした人との関係そのものが活動を続ける上で大切だと考えています。
そうした「つながり」は、実際の学びの場でどのように生まれているのでしょうか。
2026年8月20日に開催された事前学習会には、県内11校から高校生と教員、学生スタッフを含む約150名が参加しました。事前学習会の今回のテーマは「SDGsのその先へ」。関心のあるSDGsの目標が同じ人同士でグループとなり、課題解決のための取組を考えます。
グループワークの途中、学生スタッフから投げかけられたのは、「エコバッグを持っていたら、それで環境問題は改善するのだろうか?」という問いでした。
エコバッグを使うことは、環境のためにできる身近な行動の一つです。ですが、それだけで問題の解決につながるのでしょうか。身近な行動を入口に、その背景にある仕組みまで一段深く捉え直していきます。
事前学習会は、単に知識を得るための場ではありません。ここで得た視点や問いを各校に持ち帰り、それぞれの学校でESDの取組につなげていきます。そして11月の実践交流会では、取組内容や気づきを持ち寄ります。
「SDGsは、関心を持つための入り口として、とても大きな役割を果たしています。でも、『SDGsに取り組んだから終わり』ではなく、そこからさらに問いを持って、本質的な解決を考えていくことが大切です。」
身近なテーマを入口にして、自分ごととして考える。そして、一度出した答えも、もう一度問い直してみる。その繰り返しが、ESDの学びにつながっていきます。
2015年のネットワーク発足から現在まで、学びをつないできた存在の一つが、学生スタッフです。
事前学習会や実践交流会の企画・運営など、このネットワークの活動には現在も学生スタッフの関わりが欠かせません。彼らに対する思いを柴川先生に伺いました。
「地域の課題に応えようとするあまり、学生自身がやりたいことを見失ってしまえば、活動を続けることは難しくなります。」
だからこそ、すべてを柴川先生が主導するわけではありません。企画や運営については学生スタッフが主体となって考え、打ち合わせを重ねます。柴川先生は、必要に応じて方向性を確認するなどの役割を担っています。
「学生が何をしたいのか、どんなことに挑戦したいのか。そこを大切にしないと、活動は持続しません。」
学生スタッフにとっては、自分たちで考えたことを形にしていく経験そのものが学びになります。一方で、必要なときには柴川先生が方向を確認する。学生の主体性を尊重しながら、活動がよりよい方向へ進むよう支える。そんな距離感が、このネットワークを支えています。
事前学習会の最後。柴川先生は高校生に向けてこのような言葉をかけました。
「これから学びを持ち帰り、各校で取組を進めていきます。その取組は、11月の実践交流会までに必ずしも完成させている必要があるものではありません。うまくいかないことも、失敗することもあるかもしれません。その過程で学んだことにこそ価値があると思います。」
ESD協働推進センターが10年以上にわたって育んできたのは、活動そのものだけではありません。
人と人が出会い、学び合い、新しい問いを生み出していく。その場をつくり、一緒に育み続けているのです。
「活動して終わり」ではなく、そこで生まれた問いや出会いを次の人へつないでいく。その循環こそが、10年以上にわたってこのネットワークを支えてきたものなのかもしれません。