2005年から「ESD(持続可能な開発のための教育)」を推進し、さまざまな団体や個人が連携・協働を続けている岡山地域。2015年9月に国連が採択した「SDGs(持続可能な開発目標)」の達成への貢献に向けたその活動やビジョンを共有し合い、より魅力ある地域づくりについて考える「SDGsフォーラム2019」が開催されました。当日の多彩なプログラムと会の様子をレポートします。
フォーラム開会前の午前中には、さまざまな団体で活躍する若者を対象にした「SDGs×ユース・ネットワーク・ミーティング」が開催されました。ミーティングには、中学生から社会人までSDGsに関心のある約40名が参加。自由なトークタイムやグループワークを通じて交流を深めながら、お互いの活動や考え方を学び合いました。
オープニングではファシリテーターから主旨説明があり、「楽しむ気持ちで積極的にコミュニケーションを取り、いろんな人の価値観や活動を自身の取り組みに生かしてほしい」と参加者に呼びかけました。まずは自由に移動して相手を見つける自己紹介タイム。あちこちで会話が弾み、場内は和やかな雰囲気に包まれました。
SDGsをきっかけにいろんな立場の参加者が集合
まずはお互いを知ることからスタート
続いてダイアログセッションでは、3人グループに分かれて紙に書いた自分の人生グラフを元にプレゼンテーションを実施。そしてマグネットセッションでは、やりたいことが共通している参加者同士で目標実現に向けたアイデアをボードにまとめ、最後はグループ発表を行いました。全員が積極的に意見を交わして学び合う、貴重な時間となりました。
自身の活動と経緯を明確化
教育や地域づくりなど、共通目標を話し合う
午後からのSDGsフォーラムの開会に先がけて、「第3回おかやま協働のまちづくり賞」の表彰式が開催されました。「岡山市協働のまちづくり条例」に基づいて、地域社会課題の解決を目指し、優れた取り組みを行った団体や活動を表彰して、応援するのが「おかやま協働のまちづくり賞」です。
3回目となる今回のテーマは「やりがいと豊かな暮らし」。大賞に選ばれた西日本豪雨災害支援ボランティア「自由あそびのひろば」をはじめとする9つの取組が受賞し、大森雅夫岡山市長から賞状とトロフィーが授与されました。
表彰式の様子
受賞者のみなさんと記念撮影
今回のフォーラムには、SDGsを推進する産学官民の有識者をはじめ、地域づくりや社会課題に取り組む人、SDGsの活動に関心のある約350人が参加。講演会やディスカッション、分科会などを通じて、SDGsの活動内容や成果などを共有しました。
大森雅夫 岡山市長
SDGsがこれだけ注目を集めるのは、地球の問題は誰もが取り組むべき課題であるという意識が広がっているからこそ。このフォーラムを通じて、SDGs先進地域としての岡山市から、より良い動きを生みだし、日本や世界を刺激するきっかけにしたい、と挨拶しました。
槇野博史 岡山大学学長
岡山大学でもSDGsに関わる人材育成をはじめとする様々な活動に取り組んでいるが、この会場へ来て、SDGsの取り組みを共有できる仲間が増えたと感動した。お互いが協働し、一致団結して持続的な活動を目指していこう、と語りました。
松田正己 岡山経済同友会代表幹事/山陽新聞社代表取締役社長
SDGsが目指す2030年の豊かで魅力ある地域発展を願い、岡山から活動を盛り上げて、日本や世界にアピールしていくことが大切です。岡山経済同友会としても、SDGsについてより一層の研究を重ねながら、様々な提言を行っていきたい、と述べました。
基調講演の演題は「SDGsで岡山市の持続可能な地域社会を実現する~SDGs先進地域に学ぶ、まちづくりのプロセスとパートナーシップ~」。スピーカーは『不都合な真実』(アル・ゴア氏著)の翻訳や『地元経済を創りなおす―分析・診断・対策』(岩波新書)の著作をはじめ、講演や執筆活動を通じて、経済や社会の在り方、地球環境の現状を研究・発信している枝廣淳子さんです。地方創生事業のアドバイザーなど、さまざまな自治体や企業において合意形成の場づくりやファシリテーターを務め、日本の様々な地域におけるSDGsを通じたまちづくりにも数多く関わっています。
枝廣さんは「未来は地域にしかない」と語ります。そして、地球温暖化、エネルギー供給の途絶や未曾有の金融危機などのリスクに絶え間なくさらされている、この不安定で不確定な時代にあって、外的な力に対してポッキリと折れてしまうのではなく、しなやかに立ち上がることのできる強さ=「レジリエンス」を育むことが、地域にとって重要であると説きます。この「折れない地域」を作るために必要となるのが、「ぶれない芯」であり、その芯となるのが「地域の未来についての共有のビジョン」であると枝廣さんは言います。
この「地域の未来についての共有のビジョン」はどのようにして形成するべきなのでしょうか。枝廣さんは、島根県海士町、北海道下川町、熊本県南小国町の事例などを紹介しながら、未来に設定した目標から今なすべきことを逆算して考える「バックキャスティング」や、ものごとの複雑なつながりを図示することで現状の地域構造を理解する「システム思考」といった、今後の岡山の地域づくりにも生かすことのできるヒントを提言してくれました。そして枝廣さんは、本フォーラムのテーマである「SDGs」は、地域のビジョンを形成し共有するための「枠組み」として非常に役立つものであると強調します。「地域共有のビジョンを作ることで、難題にぶつかっても折れない姿勢でまちづくりを行うことができる。そしてSDGsはその幸せな地域を創成、持続するための土台になるものとして有効なのです」。
基調講演に続いて「持続可能な地域づくりに向けた戦略とアクション」をテーマとして、岡山地域でSDGsを推進する産学官民の代表者4名がパネリストとして登壇し、それぞれの活動についてスライドを交えたプレゼンテーションを行いました。そして基調講演を務めていただいた枝廣淳子さんの司会のもと、2030年のSDGs達成に向けたビジョンや戦略、実践を共有しながら、連携や協働の在り方、取り組みへの課題や今後の展望についてディスカッションが行われました。
江田美幸 岡山市市民協働局長
岡山市はSDGsの重点取組事業として、誰もが健康で学び合い生涯活躍できるまちづくりを推進。「健康好循環プロジェクト」として、健康や医療を軸に生涯現役で暮らせる地域の実現に取り組んでいます。積極的なSDGsの普及活動を行い、親子で参加できるイベントの開催事例や連携事業などについて発表を行いました。
添付ファイル
石原達也 特定非営利活動法人岡山NPOセンター代表理事
NPO法人岡山NPOセンターの代表をはじめ、さまざまな地域活動の主軸を務める石原さん。各組織のミッションにもSDGsの目標を取り入れ、SDGsを共通言語にした多彩な地域活性プロジェクトを実現しています。岡山市ESD・市民協働推進センターの協働で社会課題解決に取り組み一般施策化までをおこなう仕組みのこと、2018年に設立した「SDGsネットワークおかやま」、地域の資金循環を目指す「PS瀬戸内」の社会的投資の活動などを紹介しました。
添付ファイル
横井篤文 岡山大学副学長(海外戦略担当)
SDGsに全学で取り組む大学として、第1回「ジャパンSDGsアワード」特別賞を受賞するなど全国的にも活動が高く評価されている岡山大学。2019年は「MOVE ON NOW」をキャッチフレーズに、SDGsを経営に落とし込みながらSDGsのターゲット番号を踏まえた具体的なプロジェクトを構想し、実施することを発表しました。研究開発から地域との連携事業に至るまで、大学の枠を超えた活動実績や新規事業などを紹介しました。
添付ファイル
藤木茂彦 岡山経済同友会SDGs研究・推進会議座長
岡山経済同友会や経済界全体での取り組みをはじめ、SDGsと企業活動に関する事例を発表。SDGsを実現する上で経済界が果たす役割は非常に大きいという見解を紹介し、SDGsを企業の行動指針とするメリットや事業と社会の関わり方など、持続可能な社会の実現に向けた活動を経済の視点で語りました。
添付ファイル
ディスカッションのパートでは、司会の枝廣さんから「今抱えている課題は何か」について問いかけがあり、パネリストはそれぞれの考えや抱える問題などを回答しました。組織づくりはもちろん、SDGsを知らない人にどう伝え巻き込んでいくかなど、まちづくりと合わせた人づくり、仲間づくりの重要性も話題にあがりました。枝廣さんからは、コミュニケーションの大切さについてもアドバイスをいただきました。
また、「それぞれの立場から、SDGsとは何ですか?」という枝廣さんからの問いかけには、パネリストからそれぞれ次のような回答がありました。
枝廣さんからの質問に各パネリストが回答
課題や展望について意見を交わし合いました
休憩を挟み、3つの会場・グループに分かれて分科会を行いました。「健康」、「教育」、「やりがいと豊かな暮らし」をテーマとしたそれぞれの分科会では、発表者の活動や体験報告を聞き、今後のアクションに向けての具体的な視点やアイデアが共有されました。
SDGsの目標3「すべての人に健康と福祉を」を切り口に、「誰もが健康で学び合い 生涯活躍するまちおかやま」の実現に向けて、登壇者から各組織の取組をご発表いただき、多様な主体の協働で進める健康づくりの事業やアイデアについて話し合いました。
2005年からESDを推進してきた岡山地域。例えば、学校や公民館などにおける教育の見直しに取り組んでいます。一方で、それらの教育にアクセスできない人たちも多くいます。2人の若者に教育へのアクセスをはばむ不登校や貧困などご自身の体験を話していただき、SDGs4に掲げられている質の高い教育をみんなが受けられる社会にするために大切なことについて話し合いました。
SDGsの目標8、目標11をテーマとした「やりがいと豊かなくらし」につながる「協働のまちづくり賞」を受賞した取組の事例発表を行いました。市民誰もが仕事やボランティアにやりがいを感じ社会の一員として活躍できる取組、住みやすい地域のしくみを作る取組について学び合いました。
各分科会の代表者が内容を報告
主催者よりフォーラムの総括と閉会の挨拶
最後の全体会では、各分科会のファシリテーターから内容についての報告発表が行われました。司会の枝廣さんからは「このすばらしい取り組みをより広い層に向けてどうアピールしていくかが、今後の最大の課題ではないか」とのコメントがありました。
そして、フォーラム全体を振り返りながら、各プログラムの感想と今後の展望についての挨拶が行われました。午前中の「SDGs×ユース・ネットワーク・ミーティング」の企画・運営に携わった環境学習センター「アスエコ」の神垣匠さんは「今後も様々なつながりを作って、おもしろい化学反応を起こしていきたい」と述べ、国連大学サステイナビリティ高等研究所プロジェクトディレクターの瀧口博明さんからは「性別や年代も異なるこれほどに多くの人たちがフォーラムに参加していることにESDを推進してきた岡山地域のパートナーシップの強さを感じる。SDGsの達成に向けて引き続きESDの継続・発展に取り組んでいただきたい。」とのコメントをいただきました。最後に、岡山ESD推進協議会会長の阿部宏史さんより、盛会への感謝とともに総括の挨拶がありました。
豊かな地域づくりへの羅針盤となる「SDGs」への理解と、地域における産学官民のパートナーシップがより深まる、有意義なフォーラムとなりました。