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「おかやまSDGsアワード2023」受賞 岡山県立瀬戸南高等学校 Pioneer R.G.の活動紹介

[2024年1月15日]

ID:56062

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ESDマン

SDGsを合言葉に、ふるさと岡山エリアで「持続的に生きるための課題解決」をめざす取組を表彰する「おかやまSDGsアワード」。

今回は、「おかやまSDGsアワード2023」で「特に優良な取組」を受賞した、岡山県立瀬戸南高等学校のチーム「Pioneer R.G.」のリーダー田中さん(生物生産科2年生)と野上先生に、自動操舵システムを使用した多数回中耕除草による稲作について、お話を伺いました。

Pioneer R.G. ―稲作の先駆者―

ESDマン:格好いいチーム名ですが、どんな経緯で生まれたチームなんですか?

田中さん:Pioneer R.G.は、瀬戸南高校で自動操舵システムを使用した多数回中耕除草による稲作の研究に取り組むチームの名称です。R.G.はRice Growing(稲作)で、チーム名は「稲作の先駆者」という意味になります。

学校の授業としてというよりは、放課後に活動しているので部活動に近いです。メンバーは令和4年6月の発足時には3人、令和5年度になって4人になりました。稲作は1年がかりの研究なので、1年生の時から取組を始めています。

野上先生:瀬戸南高校ではこれまでも、いくつかの有機稲作の研究に取り組んできました。そうした流れの中で、今回は多数回中耕除草に取り組みました。きっかけとしては、備前市にある株式会社ケイワイノベーションさんから中耕除草機を使ったイネの苗づくりの研究を依頼されたことでした。これまでの有機農業の経験から、苗づくりに留まらず、研究自体を学校で取り組めそうだと感じたのです。

ちょうどそのころ、米づくりを学びたいという熱い思いを持った生徒が入学してきました。それが田中さんです。

田中さん:小学生の時に読んだ農業高校の日常を描いたマンガ『銀の匙 Silver Spoon』に影響を受けて、それ以来絶対に農業高校に進学したいと考えていました。もうすぐ3年生になりますが、Pioneer R.G.の活動をやり切りたいと思っています。

Pioneer R.G.の集合写真

自動操舵システムで多数回中耕除草に挑む

ESDマン:まず、この取組がどういうものなのか教えてください。

田中さん:多数回中耕除草自体は江戸時代後期には確立されていた農法で、田植えをした後に土を何度か撹拌することで雑草の発生を防いだり、イネの根が出るのを促進する効果があるとされています。その作業を、中耕除草機を使って行うのですが、実は田植え機や中耕除草機を田んぼの中でまっすぐ走行させるのは、とても技術が必要なことなんです。

そこで、自動操舵システムを田植え機、中耕除草機に取り付けることで技術面の壁を乗り越えることになりました。自動操舵システムを使った農業は海外では段々と導入が始まっていますが、日本では大規模な農家から少しずつ導入が始まっていくかな、という状況です。

野上先生:田植え機と中耕除草機は、ケイワイノベーションさんを通じて、赤磐市の農業機械メーカーみのる産業株式会社さんからお借りしています。自動操舵システムは、令和4年度は中国製を、令和5年度は日立造船さんのものを使用して、企業担当者の方と試行錯誤しながら取り組みました。農薬や肥料を使わない有機栽培、そして国産にこだわった稲作を実施しています。

具体的には、ポット苗を植え付ける時に、自動操舵システムを使って田植え機で田植えをして走行データを記録し、頃合いを見て自動操舵システムを使ってその経路通りに中耕除草機を走らせます。実験のため、中耕除草の回数は試験区を設けて分けて行いました。

中耕除草の様子

ESDマン:多数回中耕除草をした成果やこれからの課題を教えてください。

田中さん:有機栽培の場合、農薬や肥料を使う慣行栽培と比べて収量は半減すると言われています。しかし、私たちの田んぼでは10アール(=1000平方メートル)当たりの平均収量が、令和4年度は7.7俵、令和5年度は10.1俵(令和2年度岡山県産米平均収量8.4俵)と、驚くほどの成果でした。中耕除草の回数による収量差も見えてきました。等級検査結果も、慣行栽培の品種が2等・3等となる中、多数回中耕除草した「きぬむすめ」は2年連続で1等になりました。

野上先生:稲作はできると思って取組を始めましたが、この品質と収量は予想外のものでした。

きぬむすめ

田中さん: この成果は、中耕除草のみが作用して得られたものではないのではと考えています。令和5年度は新たに、出穂前のイネの細根を断って新しい活力ある根を出させる取組も実施しました。あえて根を切ることで、生存本能から立派なイネに育ったのではないかと考えているところです。

多数回中耕除草をどのようなタイミングで実施するのが稲の生育に最適であるか、何が影響して生育が良くなるのかなどは、今後実験を繰り返しながらデータをとってノウハウを蓄積する必要があります。

野上先生:ところで、CO₂の25倍の温室効果があるとされるメタンガスは、日本の場合、水田が最大の発生源と言われています。中耕によって土中に酸素が供給されることから、イネの生育に影響するメタンガスの発生も抑制されているのではないかと考えています。今後、データをとって科学的に証明できればと思っています。ゆくゆくはカーボンオフセットのクレジットにもなり得るかもしれません。

ESDマン:地域との交流も大切にされているようですね。

田中さん:「将来は農業をしたい」と考える若い世代はそう多くないのが現状です。未来の農業の担い手を育成していくために、中学生を対象にした説明会と実演を行いました。

近隣の方々の理解を得ることも大切にしています。有機栽培では農薬等を使わないため、虫が発生するのではないかなどの心配が寄せられることもあります。田んぼの説明などを通じて、この取組を地域の方々に知ってもらいたいと考えています。

中学生を対象にした説明会と実演の様子

目指すは新しい農業のカタチ

野上先生:持続可能な農業にかかわる問題として、マイクロプラスチックや富栄養化などによる環境汚染、肥料価格の高騰、農業従事者の減少や高齢化などがあります。そして、農林水産省は生産力向上と持続性の両立をイノベーションで実現する「みどりの食料システム戦略」を打ち出し、化学肥料の使用量削減や有機農業の取組面積拡大をうたっています。達成には水田での取組が不可欠と考えますが、それを実行するひとつの選択肢として中耕除草があるのではないかと思っています。

田中さん:私たちが取り組む多数回中耕除草は、有機栽培のため環境汚染や肥料価格の問題を乗り越え、自動操舵システムにより楽に農業ができ、さらには収量や品質の安定が見込まれるという、持続可能な農業の可能性を秘めた取組です。

野上先生:数年後の周囲の環境変化も気になっています。それらも含めてノウハウを確立していくために、さまざまな機関と連携して、例えばモデル地域をつくるなどして、データを取りながら取組を進めていけたら良いなと思います。

田中さん:Pioneer R.G.としては、食用米における中耕除草の効果や、このノウハウが実用化できそうな兆しが見つかっていれば良いなと考えています。中耕除草の技術を確立して、プロジェクト発表の全国大会や外部で発表する機会でどんどん広めていきたいです。新しい農業のカタチになると思っています。

ESDマン:お二人のお話を聞いて、新しい稲作がまさに今生まれようとしていることを感じたよ!

瀬戸南高校では、インスタグラム別ウィンドウで開くもやってるよ。ぜひ活動の様子を見てみてね★

また、岡山県では、ふるさと納税制度を活用した「ふるさと岡山“学び舎”環境整備事業」を実施しているよ。瀬戸南高校では、中耕除草機の導入を目指してこの制度を使った寄附の募集をしているんだ!詳しくはこちら別ウィンドウで開くから見てみてね。