「つながる!協働リレーコラム」では、岡山で活躍するNPO法人の皆さんに、自分たちの活動や経験を通じて、「協働」に関して感じていること・考えていることについてコラムでご紹介いただきます。
※なお、内容は執筆当時のものです。
<プロフィール>
岡山市内の社会福祉法人の重症心身障害児者施設、障害者支援施設で31年間勤務し早期退職する。現在同法人で臨時相談支援専門員として勤務。1989年に手話サークルの手話講座を受講。両親ともにろう者で子どもの頃から身振りや手話で会話をしていたが、聴覚障害者支援や手話にちゃんと関わり始めたのはその頃から。1990年に介護福祉士、1998年に手話通訳士、2011年に社会福祉士の資格を取得。2001年、ろう高齢者の集えるサロンを岡山市の当事者団体と一緒に始め、2011年12月にNPO法人を設立する。
NPO法人岡山聴覚障害者支援センターは現在、会員数119名(2016年10月末)。高齢聴覚障害者の集いの場である「ももハウス」を運営するとともに、聴覚障害に対する理解を広げる取組を行っています。
「ももハウス」は南区あけぼの町の一軒家を大家さんのご理解で格安でご提供いただき、週2回、火曜日と金曜日の午前10時から午後3時に開設しています。ゲームや体操などのレクリエーションをしたり、手作りの昼食を一緒に食べたり、普段は行けない買い物に行ったりしています。
当事者同士の交流を大切に、安心して過ごすことのできる場であり、生活に必要な情報を得る場にもなっています。市内全域はもとより、市外からも来られる方がおられ、いつも明るい笑顔にあふれています。
夏の恒例となった「そうめん流し」
運動レク「ボーリング」
「ももハウス」に84歳になる女性の方が通っています。お一人暮らしで子どもさんもいらっしゃいません。手話で話せる友人もなく、唯一のつながりは離れて暮らすお姉さんだけだったそうです。
人とのつながりが少なくなる高齢の聴覚障害の人たちは、話し相手がいないという寂しさだけでなく、情報を得る機会からも遠ざかってしまいます。また、情報を得る機会が少ないために偏った情報で物事を判断してしまうことにもなります。この方は、病気の時に病院に行くことは知っていても、健康診断を受けられることや、ごみ袋が無料で配られる制度があることを「ももハウス」に通われるまで知りませんでした。
外見からでは障害のあることがわかりにくい聴覚障害は、「見えない障害」と言われます。
だから、人や情報とのつながりがなくなっていても、周囲に気付かれにくいのです。聴覚障害というハンディを抱え、加えて高齢化により様々なハンディが出てきます。こうした二重のハンディが人とのつながりや情報とのつながりをより困難にしています。
障害者の支援については障害者総合支援法に基づいて実施されていますが、65歳になると、障害者も介護保険サービスの対象となり、介護保険法が優先されます。
「ももハウス」のようなサービスは、介護保険法ならデイサービス、障害者施策なら地域交流事業があります。それならば、65歳までは地域交流事業の場所に通い、65歳からはデイサービスに通えばいいと思われるかもしれません。
しかし、現実は市内のデイサービスで、手話で自由におしゃべりができる場所はありません。そのため、聴覚障害の方は、通常のデイサービスに通うと、だれとも話すことができずに、孤立感をいっそう高めてしまうのです。
また、介護保険法の対象に満たない人たち、例えば60歳の人が、高齢の方たちと交流しつながる場所も大切だと考えています。目の前の高齢の方々から、老いることを学ぶことができます。高齢となった聴覚障害者の実情は、介護保険法と障害者福祉施策の間で、どちらにもあてはまらないのが現実です。
自分の想いを手話で語ることができ、お互いの悩みを手話で聞きあうことができる場、みんなにとって「ももハウス」は人とのつながりをつくるだけでなく、情報を得たり、生きていく術を伝え合ったりする、よりどころの場でもあります。
当初は「ももハウス」が何とか維持できれば良いと考えていましたが、参加者が次第に高齢になり、介護や医療の専門的な手段を持たない任意団体の活動では限界があると感じるようになりました。
そこで、関係者や関係機関との協力・連携が大切だと考え、NPO法人の設立をめざし2011年12月にNPO法人としての活動をスタートさせました。NPO法人になったからといって何かが劇的にかわるものではないのですが、非営利事業を実施し、社会課題の解決をめざすNPO法人として、「ももハウス」の在り方やこれからについてより真剣に考えるようになりました。
2014年度に、「ももハウス」の運営事業が、岡山市障害福祉課との協働で「高齢聴覚障害者支援と啓発事業」として岡山市市民推進協働モデル事業に採択されました。
1年間と限られた事業指定でしたが、その間に、何度も担当課の方と話し合う機会や、「ももハウス」の現場を見にきていただく機会がありました。
モデル事業をすることで、それまでは様々な手続きをしにいくだけであった行政担当課の方に、モデル事業をすることで聴覚障害者の現実を知っていただき、理解していただくよい機会となり、さらには、モデル事業終了後も次の支援策である助成金交付につないでいただくことになりました。
また、私達自身の意識にも変化をもたらしました。
行政との協働事業をしているという自覚のおかげで、外への働きかけをしていくことができました。なかでも、消防局に依頼し、各家庭からFAX119番のテスト送信をしていただいたり、危機管理室に、災害についての講和をしていただいたり、それをきっかけに、避難者要支援台帳への新たな登録をすることができました。
他にも、地域の公民館講座やふれあいセンターの介護予防教室に手話通訳をつけていただいたりと、通常の講座に聴覚障害の方たちが参加できる機会を増やすことができました。
みんなで学習(気象や災害について学びました)第1火曜日は、きらめきプラザを利用しています
2014年に岡山市で行われた「ESDに関するユネスコ世界会議」でパネル展示をさせていただきました。そのことがきっかけで、小学校とのつながりが生まれ、児童たちに手話講座をさせていただいたこともありました。
慣れない報告書や決算書の作成はたいへん苦労しましたが、協働事業を設立間もない当法人で実施できたことは活動への自信となりました。また、行政機関や関係機関とのつながりができたことは私たちの活動の宝となりました。
「ももハウス」の取組は、2016年に通算15年目を迎えます。
高齢聴覚障害者の人たちにとってかけがえのない居場所として定着しています。岡山市との協働事業の実施で高齢聴覚障害者の実態についての理解を広げていくことができたと思います。
しかし、今でも「ももハウス」は利用者の参加費と、多くの無償のボランティアによって支えられています。
制度のもとで運営していないため、参加される方々の想いや希望に寄り添える自由さがあります。
けれども、障害があっても、年をとっても、集える場所があり、笑いあえる仲間がいる、そのような当たり前の環境を、継続して保障していくためには、幅広い市民の方に支えていただけるよう努力するだけでなく、介護保険法や障害者福祉施策をはじめ、一定の制度と仕組みの支えが必要だと考えています。
モデル事業の実施を通して、本来ならこうした議論を深め、新しい施策を生み出す努力が必要だったと思います。行政と協働する上で、市民の課題・問題を明確にして、共有することが何より大切です。そして、NPO法人である私達には、課題や問題を解決するための提案力が求められると思います。簡単なことではないですが、私たちNPO法人の存在意義もそこにあると思うのです。
未来の姿を妄想する土屋さん
介護保険なのか、障害者福祉なのか?あるいはそのいずれでもないのか、そのいずれでもあるのか?年を重ねても、障害があっても、社会的な支援をきちんと受けながら、その人らしく生き生きと暮らしていくことができる社会でありたいと考えています。介護と障害の法律が結びつかないだろうか?とか、「特区」の指定を受けられないだろうか?とか、いろいろと未来の姿を妄想してしまいます。
今、改めて高齢聴覚障害の実態調査を行おうと考えています。聴覚障害と高齢の二重のハンディを持ち、コミュニケーションの違いや情報が入らないために、孤立している人は少なからず確実に存在しています。
そうした人たちを掘り起こし、新たな支えが生み出せるよう、これからも「協働」を模索していきます。
最後に、聴覚障害ゆえの差別や偏見を受けてきた高齢聴覚障害の方たちが、年を重ねてこられた現在、「今が幸せ」と感じられるように、また、そうした時間を少しでも長く過ごしていただきたいと、強く願っています。
つながる協働ひろば動画チャンネルでは、「ろう高齢者に寄り添って」をテーマにNPO法人岡山聴覚障害者支援センターの活動を動画で紹介しているよ!こちらもぜひチェックしてみてね!
上記の動画のサムネイル画像、または以下のリンクから岡山市公式YouTubeチャンネルに移動し動画を視聴することができます。
次はどんな団体に協働のバトンがつながるのかな?お楽しみに!