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民間ホテルへの環境学習の導入を目的とするパラオ共和国での現況調査(続報)

[2019年5月17日]

ID:38486

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特定非営利活動法人co2sos 黒住知代・田中朱音

パラオ共和国での調査の目的等

私たち岡山大学の学生2名はNPO法人co2sosに所属しており、標記のパラオでの調査が2018年度岡山ESDプロジェクトユース活動支援助成金事業に採択されたことから、2019年2月にパラオにある民間ホテル「パラオパシフィックリゾート」とパラオ国際サンゴ礁センターの2カ所を訪問・調査してきました。このホテルはエコツーリズムに積極的に取り組んでおり、新設する建物にCO2濃度測定装置を設置することで、既に了解が得られていました。今回の調査では、この装置による測定データを用いてホテルの宿泊者向けに今後提供する環境学習を提案しました。また、サンゴ礁センターではパラオにおけるサンゴ礁の実態を調査してきました。

この記事は紙面の都合上、前回の記事(次のURL)では書き切れなかった様々なエピソードを紹介するものです。パラオでの調査の目的、調査結果、今後の活用等の詳細については、前回記事をご覧下さい。

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プライベートビーチの写真

現地ホテルのプライベートビーチ

現地ホテルでのプレゼンテーション

co2sosが現在進めているプロジェクトは、「パラオパシフィックリゾート」にCO2濃度測定装置を設置し、その測定値を利用した宿泊者向けの環境学習をこのホテルに提案すること、そして現地ホテルのスタッフにその後環境学習を実践していただくというものです。今回の調査では、現地スタッフに対し、宿泊者向けに行って頂く説明を、実際に私たちが実演するという形でプレゼンテーションしました。また、プレゼンに先立ち、環境学習の主目的を説明しました。

この環境学習の目的は、サンゴ礁は観光資源として価値があるのみならず、地球温暖化対策のうえでも重要であることを外国人観光客に知ってもらうことです。具体的には、サンゴは光合成をするため二酸化炭素の吸収源でありますが、海水温の上昇が続くと死んでしまうため、地球温暖化の防止が重要であるということです。

日本人だけでなくパラオ人のスタッフにも説明することが渡航直前に決まりました。しかし、企画提案書を日本語版しか用意しておらず、プレゼン用の原稿も英語版を作っていたのですが印刷していなかったため、ほとんど即興となりました。前半は話が途切れ途切れで伝わりにくく、緊張した雰囲気の時もありましたが、焦りながらも2人で乗り越え、また日本人スタッフに補足して頂いたこともあり、何とか伝わったと思います。

この環境学習では、co2sosがホームページで公開している測定値を実際にパソコンで見て頂くというメニューもあったのですが、ネットワークセキュリティの都合で接続に時間がかかり、プレゼンが終わる頃にやっと閲覧でき、慌てて補足的に説明するというハプニングもありました。

プレゼン後には、スタッフから、ぜひこれからも情報をシェアしてほしいと言っていただき、また、総副支配人からは、この活動はぜひやるべきだと背中を押して頂き、活動を続けていくモチベーションを高めることができました。

プレゼンを聞きに来られた方々は、現地ホテルの代表者が主に集められたようであり、今回の私たちの訪問について事前にホテル内に周知されていたようです。集まった方の多くはエンジニアでしたが、皆さん環境問題に対する意識が高く、アメリカの「不都合な真実」という映画を観るよう勧められるなど、グローバルな動きについてもアンテナを張っている方々だと感じました。なお、これらの方は実際に環境学習を提供するスタッフではないと予想されるため、今後環境学習を行っていただく実際のスタッフがどこまで前向きに検討してくださるのかは分かりませんでした。

プレゼンテーションの様子

ホテルスタッフに対するプレゼンテーション風景

パラオの街の様子

街の様子はどの施設の皆さんもよく把握されており、例えば調査を行なったホテルのスタッフは、それ以外のホテルや、複数ある観光ツアーのことについてもよくご存知でした。このため、一カ所で面白いことができれば、それが街全体に波及していくことは十分にあり得ると思いました。政策や環境保全の取り組みが浸透しやすいのも、街のコンパクトさにあると思います。サンゴ礁センターの職員も、パラオはルールが浸透しやすいと話されていました。

現地ホテルでは、全体を一周して見学しましたが、日本が宗主国だったときの施設がホテルの敷地にも残っており、日本が当時作ったダムや貯水槽について詳しく紹介して頂きました。博物館では、各国が統治した時代ごとの展示物があり、スペイン、ドイツ、日本、アメリカの順で、その歴史やその時代の文化が紹介されていました。非常に興味深い展示であり、中でも日本の部分にはかなりのスペースが割かれていました。

伝統的建築物の写真

国立博物館に展示してある伝統的建築物

仮想3D空間の活用

co2sosでは、CO2濃度の測定値を仮想3D空間(リンデンラボ社のセカンドライフ)でも公開しています。現地ホテルのスタッフとの打合せの中では説明する時間がありませんでしたが、ホテル内の見学を行っている途中で話をすることができました。co2sosが仮想3D空間にある科学館を活用して環境学習イベントを実施していることや、独自の科学館を整備していることを紹介しました。今回の訪問では、これらのプレゼンを行う時間的余裕はありませんでしたが、仮想3D空間を使った事業にも興味を持って頂いているようです。

co2sosの科学館の様子

仮想3D空間にあるco2sosの科学館

パラオ国際サンゴ礁センターでの調査

サンゴ礁センターは、アクアリウムと研究施設が併設されており、アクアリウムは一般公開されています。職員にお会いするとすぐ、アクアリウムを案内して頂きました。私たちは海洋関係のことを大学で学んでいる訳ではないので、それをお伝えしてサンゴを中心に基本的な動植物の生態について教えていただきました。

アクアリウムの見学後、研究施設へ向かうと、私たちの他に来客を2名見かけましたが、職員にはほとんど会えませんでした。皆さん外で調査をしているようでした。事務所もこじんまりしていて、研究所のほうにはポスターなども少なく、併設のアクアリウムのような展示は想定されていないようです。

職員に対し、現地ホテルに提案する環境学習についてお話ししたところ、「本来なら私たちがそのような活動を行うべきだと思う。特に私はアクアリウムの展示関係を担当しており、そういうイベントが本当はできるとよい。だからこそ、できることがあれば協力したい」とのことでした。また、サンゴ礁センターでのインターンも紹介して頂いたのですが、若い人にもっと関わって欲しいというお考えがあるようです。

この職員は、パラオに来る以前はアフリカにおられたようで、アフリカと比べるとパラオは住みやすいと仰っていました。水資源について、「アフリカでは渇水が日常茶飯事だったので、水がなくなっても大騒ぎにならなかったが、パラオは普段から水があるし、そもそも島国で海に囲まれているということもあり、エルニーニョによる干ばつが起きるまでは、水資源の重要性はあまり知られていなかったと思う」とのことでした。

今まで当たり前に水があったところだからこそ渇水で大騒ぎになるというのは、岡山での豪雨災害の水資源管理に通じるものもあり、どこでも、どんな規模であっても、世界で似たようなことが起きていると痛感しました。

サンゴ礁センターでの調査の様子

サンゴ礁センターでの調査風景

最後に

サンゴ礁センターでも現地ホテルでも、男性2人が来ると思っていたと言われましたが、これについては先方の反応からして良いギャップだったように思います。いずれの調査対象施設でも、「情報源がネットしかない」と日本人スタッフに言われましたが、そのせいか実際に顔を合わせると、「わざわざ日本から来てくれた」という気持ちで歓迎して下さっているように感じました。それがとてもありがたく、「またぜひパラオに遊びに来て下さい」と皆さんから言われたことで、調査目的ではありましたが、パラオに来て本当によかったと思いました。

自分たちが予想していなかった、海外ならではのハプニングもあり、何を意識すればよいのか、また何を実行すべきだったのかということを、後々振りかえることができ、いい学びとなりました。海外の人と協働してプロジェクトを進めるという経験はこれまでなかったのですが、日本から渡航されていた方や在パラオ歴の長い日本人に助けてもらいながら、調査をやり遂げることができてよかったと思います。

帰国後に改めて思ったことは、私たちがパラオで調査を行い、このプロジェクトを進めようとしていることを、岡山でSDGsに関わる活動を行っておられる様々な方に、興味を持ってもらい、意識してもらえたということです。私は大学の指導教官に今回の調査の話をしましたが、大学内でも現在、SDGsに向けた活動の活発化に奮闘されているようで、教官にとっても、よい刺激になったと言って頂けました。

また、大学の同期にも興味を持ってもらえたことはもちろんですが、奨学金を頂いて留学することになっているので、タイミングよく、留学前の奨学生懇親会で出会った全国の仲間たちとも経験を共有することができました。結果的に、この活動と、この活動の舞台であるパラオの自然の豊かさや、同時にパラオが抱えている気候変動の影響や、それに立ち向かっているパラオの姿勢をたくさんの人に広めることができました。

これからのESD活動やSDGsに向けた活動が定着するかどうか、また、当たり前になるかどうかは、若者と若者を教育する立場にある人たちにかかっていると思います。若者が主導でプロジェクトを進めていくからこそ、若者が興味を持ってくれるということを生かし、これからも共感の輪を広げていきたいと思います。

黒住知代(岡山大学大学院環境生命科学研究科博士前期1年)

環境問題をどうやって身近なものにしていくかということに興味を持ち、大学の学部1年生からco2sosの活動に関わりはじめました。大学内でも、部活動で古紙回収や家具のリユース販売などの環境啓発活動を行ってきました。4年生からは、研究室に所属し、棚田の保全に関わる研究を行っています。4月から大学院に進学し、今後も色々な立場からSDGsやESDに関わる活動に取り組み続けたいと考えています。今年の夏から、フィリピンへ半年間の研究留学をする予定です。

田中朱音(岡山大学グローバルディスカバリープログラム2年)

環境問題の解決のために多角的な視点を得たいと思い、学部を横断して学べる本プログラムに進学しました。そして、いろんなことにチャレンジしたいと考え、その一環としてco2sosの活動に参加しました。まだ専攻は決まってはいないのですが、今後もどんどん新しいことにチャレンジし、様々な視点で考えられるようになりたいと思っています。