私たちが所属する特定非営利活動法人co2sosは、人々の生活圏におけるCO2濃度が、人為活動や自然界の影響を受けて常に変化していることを実感して頂くことで、人々の環境保全に対する意識を高めることを目的に、岡山市内にある「サイピア」という科学館を拠点として、様々な環境学習を提供している団体です。
今回の調査は、2018年度岡山ESDプロジェクトユース活動支援助成金事業に採択され、以前からco2sosのお手伝いをしていた学生と、このプロジェクトのために新規に募集した、いずれも岡山大学の学生2名で実施しました。
今回調査対象とした、パラオにあるリゾートホテル「パラオパシフィックリゾート」は、エコツーリズムに積極的に取り組んでいるホテルであり、既に2018年3月の時点で、CO2濃度測定装置を設置することを了解して頂いていました。今回の調査では、その測定データを利用した環境学習の企画提案を現地スタッフの方に説明するとともに、以前からこのホテルで行われている環境学習(ガイド付き自然散策)の説明を受けたほか、このホテルに設置されている太陽光発電、プラスチック油化装置等、環境に配慮した様々な設備を調査・視察しました。
このホテルに対して提案する環境学習は、特に地球温暖化問題におけるサンゴ礁の役割を観光客に知って頂くものとしたいため、パラオ国際サンゴ礁センターもあわせて訪問し、職員の方からパラオのサンゴ礁の実態やパラオにおける意義・役割をご教示頂きました。
パラオパシフィックリゾートの外観
パラオは太平洋ミクロネシアにある国の一つで、日本から南に約3000kmの位置にあり、日本との時差はありません。日本のほか韓国、台湾等の近隣諸国からの観光客が多く、大規模なリゾートホテルが数多く運営されています。美しい海やサンゴ礁を売りにしたダイビングやシュノーケル、フィッシング等の観光産業が盛んであり、中でもサンゴ礁は産業振興や環境保全の観点から、研究や保全に力が入れられてきました。
パラオでは古くから野生動物を持続的に利用するルールが作られる等、環境保護に対する先進的な取組みが行われていることを知り、今回の調査では認識を新たにしました。2015年には排他的経済水域の80%が国立海洋保護区に設定され、漁業や鉱業などの資源採集活動が禁止されました。残り20%の水域は、地元民の漁業や少数の小規模な商業活動に利用されていますが、自給自足は可能とのことです。
なお、パラオは日本の旧統治領であり、その際には多くの日本人が移住し、教育・産業への援助・投資をしてきたことから、今でも非常に親日的な国です。
パラオの位置
パラオ国際サンゴ礁センターは、アジア・大洋州地域におけるサンゴ礁研究の拠点として設立された施設です。日本が無償資金協力をしており、このセンターが自立発展するための組織強化、水族館の運営管理、サンゴ礁の研究及びモニタリング機能の確立、学生や住民への教育啓発などにかかる人材育成を支援してきました。このセンターでは、日本人の職員の方に対応して頂きました。最初に、施設内にある水族館の案内をして頂き、パラオに生息する水生生物とそれらの保護に関する説明を受けました。
また、パラオの人々の実生活を詳しくお聞きすることができ、自然や環境保護に対する考え方を知ることができました。なお、このセンターには以前にCO2濃度の測定装置を設置していましたが、測定に協力頂いていた琉球大学の先生が2018年3月をもって帰国されることとなりました。そこで、新たな協力先を探していたところ、「パラオパシフィックリゾート」に協力頂けることとなり、宿泊客向けの環境学習をco2sosから提案しようということになりました。
サンゴ礁センターでの調査風景
このホテルは東急不動産が運営するリゾートホテルであり、初代社長は戦後初めて民間人としてパラオ入りしたとのことです。環境保全のみならず、雇用創出やインフラ整備にも取り組み、環境と地域に貢献するホテルを運営されています。今回の調査では、私たちが企画したホテル宿泊者向けの環境学習の講師役を、現地スタッフの方の前で私たちが実演するという形で提案を行いました。
この環境学習では、パラオにおけるCO2濃度の測定データを用い、その濃度が周辺の森林やサンゴ礁による光合成、自動車の排気ガス等によって常に変動していることを実感することで、環境保護の重要性を再認識して頂くというものです。この環境学習をホテルの宿泊者に対して提供することで、サンゴ礁は単なる観光資源ではなく、地球温暖化問題のうえでも重要な要素であることを認識して頂けると考えています。
提案の結果、CO2濃度測定装置を設置する予定の建物で実施する環境学習に取り入れる方向で検討して頂けることとなりました。また、前記のサンゴ礁センターの方にも説明したところ、このような教育・啓蒙活動は当センターの本来の役割であるとのご認識であり、引き続きアドバイスを頂けることとなりました。
ホテルスタッフへのプレゼンテーション
今回作成した環境学習資料は、co2sosが現在サイピアで来館者(主として小学生とその保護者)向けに提供している環境学習でも新規メニューとして活用する予定です。また、パラオで今後得られるCO2濃度の測定データについては、近隣の小中学生とともに行っている研究活動にて分析を行い、科学研究コンクールへの応募を目指します。
これにより、環境のみならず科学への興味・関心を高めることで、小中学生に対し、ESDの将来の担い手としての素養を培っていきたいと考えています。この分析結果については、co2sosが現在使用している様々な学習資料の改善にも役立てていきます。このほか、co2sosがサイピアで開催している科学学習イベントでは、仮想3D空間内にある様々なバーチャル科学館を利用していますが、co2sosが自ら整備している「バーチャルサイピア」の展示コンテンツとしても、今回の環境学習資料を活用します。
co2sos主催のサイピアでの科学学習イベント
今回の調査で私たちが肌で感じたパラオ住民の環境に対する意識や、自然保護政策の重要性を、大学内のコミュニティで情報発信していくのはもちろんのこと、岡山市が企画・開催される様々な事業やイベントでも、機会があれば発信していきたいと考えています。パラオで勤務・生活されている方ともお知り合いになることができ、今後はパラオと日本のつながりも意識しながら、岡山地域の方々に対し、地球温暖化問題をグローバルな問題としてとらえて頂けるよう情報発信を続けていきたいと考えています。
パラオの人々は海の近くで生活し、日頃から海の恩恵を受けているため、当たり前のように自然を大切にしているのだと思います。アジア、アメリカ、オセアニアの文化が入り交じる中で、パラオの人々はその自然とともに独自の文化を作り上げてきたようであり、その文化と、これまで守ってきた自然を誇りに感じているようでした。パラオで過ごした期間はわずか3日間でしたが、そのようなパラオの人々に感銘を受け、自分たちもそのように自然のことを考えながら過ごせればよいと思い、また、その意識を広めていきたいと強く思いました。
パラオでは多くのフィリピン人が働いていましたが、過去に訪れたことのあるフィリピンと比較すると、時間の流れ方や人々の意識には違うものがありました。また、人やボートが入ることのできる海域を制限している様子など、海の資源保護政策が行き届いていることを実際に確認でき、非常に興味深く感じましたが、これらのこともパラオに行って初めて知り得たことであり、自分の生活を振り返る機会にもなりました。
パラオ訪問の機会を与えて頂いたことと、今後も世界を視野に環境問題に関わっていけることを大変うれしく思います。助成を頂きました岡山市、現地で対応頂きましたパラオパシフィックリゾート及びパラオ国際サンゴ礁センターの関係者の皆様ほか、サポートいただきました皆様に感謝いたします。
環境問題をどうやって身近なものにしていくかということに興味を持ち、1年生からco2sosの活動に関わりはじめました。大学でも、部活動で古紙回収や家具のリユース販売などの環境啓発活動を行ってきました。4年生からは、研究室に所属し、棚田の保全に関わる研究を行っています。大学院に進学予定ですが、今後も色々な立場からSDGsやESDに関わる活動に取り組み続けたいと考えています。
環境問題の解決のために多角的な視点を得たいと思い、学部を横断して学べる本プログラムに進学しました。そして、いろんなことにチャレンジしたいと考え、その一環としてco2sosの活動に参加しました。まだ専攻は決まってはいないのですが、今後もどんどん新しいことにチャレンジし、様々な視点で考えられるようになりたいと思っています。