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「文学の中の岡山」vol.13『宇宙を生きる:世界を把握しようともがく営み』磯部洋明

[2026年3月30日]

ID:81134

「文学の中の岡山」では、公益社団法人全国学校図書館協議会:Japan School Library Association(略称:全国SLA)学校図書館スーパーバイザーであり、岡山市文学賞運営委員会 文学によるまちづくり部会委員の高見 京子さんに、岡山ゆかりの作家、作品などについてご紹介いただきます。

『宇宙を生きる:世界を把握しようともがく営み』磯部洋明(小学館)

3月。春の訪れとともに、就職や引っ越しなど、新たな世界への旅立ちの季節でもある。特に若者にとっては、進級や入学試験等も経て新しい学びも始まっていく。そんなあわただしい季節だが、新生活の前にちょっと立ち止まって、なぜ「学ぶ」のか考えてみよう。
(ちなみに、この本はいわゆる「文学」ではないが、「文学のまち岡山」を語るとき、「文学」は広く「本の世界」ととらえている)
今回紹介するのは、大学の若手の研究者たちが、若者に向けて書いた「入門!ガクモン」シリーズの一つである『宇宙を生きる』だ。
著者は、岡山出身の宇宙物理学者である。

現代は宇宙へ行くこともSFではなくなってきた。宇宙生命体も存在の可能性を聞く。科学が進歩していく中で、この先私たちは、宇宙(の生命体)とどうつきあっていくのか。現在、世界には争いが絶えない。グローバル化とかよき地球人の話の向こうに、私たちはよき宇宙人となれるのだろうか。私たちはどんな宇宙・社会を作っていくのか。

著者は物理学者ダイソンの言葉を引き、「われわれは、単なる観察者ではなく、宇宙のドラマの俳優」であり、宇宙を研究することによって現在社会の倫理観や価値観までが問われると言う。

著者は、宇宙研究の営みを通して「学問とは何か」「学ぶとはどういうことか」を考えていくのだ。

「トランスサイエンス問題」(科学に関係しているけれど科学だけでは答えることのできない問題)についても、原子力発電や出生前診断の是非を取り上げ、その当時の日本ダウン症協会の理事長だった玉井郁夫氏の、「文化という知恵」「多様な子どもたちと生きる知恵」の言葉を引用する。

そもそも「役に立つ」とはどういうことか。「何かが役に立つかどうか判断するためには、前提としてそもそも私たちは何に価値を置き、どういう社会を作ろうとしているのかを考えておかなくてはいけません」と述べている。

著者が宇宙への関心をもったきっかけは、加古里子の絵本『宇宙:そのひろがりをしろう』(福音館書店)だったそうで、この本には宇宙科学の本だけではなく、『ダンゴムシに心はあるのか:新しい心の科学』(森山徹著、PHP研究所)『イェルサレムのアイヒマン:悪の陳腐さについての報告』(ハンナ・アーレント著、大久保和郎訳 みすず書房)、世阿弥の言葉など、ジャンルを問わず、人間や学問に関する鋭い言葉がたくさん引用されている。幅広い読書や、学問分野を問わない研究のつながりが深い思索へとつながっていることがわかる。

最後の第4章「学問と生きる」の中で、著者は「長島愛生園」を紹介する。

長島愛生園は、瀬戸内海に長島(瀬戸内市)に作られた、日本で最初の国立ハンセン病療養所だ。多い時には2000人超の患者が収容されていた。隔離政策を定めた「らい予防法」が廃止されたのは1995年のことだ。

その愛生園には昭和10年に気象観測所が、昭和24年から30年代にかけて天文台が設置されて観測が続けられていた。観測は入所者の方々であり、岡山観測所の正式な気象データとして使われていた。「気象観測20年の歩み」を記した横内武夫さんは、「アララギ」の同人(ペンネーム依田照彦)として多くの短歌も発表している。

筆者は、横内さんの観測への思いなども紹介しながら、「文学者の依田さんと科学者としての横内さんが融合した歌だと思う」一番好きな歌として、次の短歌を挙げる。

自記気圧線鋭く墜ちぬ刻々の台風来を告ぐる夜更けに

「観測装置のデータは、単なる数字の羅列ではなく、それを通して世界を把握し、感じるためのものなの」だ、「横内さんの人生は、宇宙を探り、学問することの意味について、大切なことを私たちに語り掛けています。」と。

磯部洋明さんの紹介

1977年、横浜市生まれ。7歳の時、岡山県赤磐郡瀬戸町に転居。岡山一宮高校、京都大学理学部・大学院と進み、ケンブリッジ大学客員研究員、京都大学准教授を経て、現在、京都市立芸術大学准教授。専門は、太陽物理学、宇宙プラズマ物理学、宇宙総合学。平成21年度文部科学大臣表彰・若手科学者賞を受賞した。

『宇宙のえほん図鑑』(永岡書店)の監修もし、京都を拠点に「お寺で宇宙学」「宇宙とアート」「宇宙落語」など市民とともに様々なイベントも開催している。

「文学の中の岡山」執筆にあたり/全国SLA学校図書館スーパーバイザー 高見 京子

2023年10月に、岡山市は「ユネスコ創造都市ネットワーク文学分野」に加盟した。

岡山(市だけでなく県全体で)は、「文学創造都市おかやま」の名に恥じない、数々の実績があるが、私は特に岡山出身(ゆかり)の作家たちが多いことを挙げておきたい。その作家たちを中心に、それぞれの作品の中に岡山の描写が多いこともうれしいことである。

これから、このコーナーでは、読み応えのあるそれらの作品と、岡山がどのように文中で書かれているかを紹介していきたい。作品が一都市だけに向けて書かれていることはもちろんなく、普遍的なものであるのだが、その作品を味わうと同時に、身近な場所が文中にあることで、より岡山に親しみを感じたり、その場所を歩いてみたりしようと思っていただければ幸いである。

「文学」も広くとらえ、ノンフィクションも、映画など他のメディアなども含み、比較的新しい作品を取りあげていきたいと思っている。愛読してくださるとうれしい。

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