ページの先頭です

共通メニューなどをスキップして本文へ

「文学の中の岡山」vol.6『バッテリー』あさのあつこ

[2025年8月18日]

ID:74615

「文学の中の岡山」では、公益社団法人全国学校図書館協議会:Japan School Library Association(略称:全国SLA)学校図書館スーパーバイザーであり、岡山市文学賞運営委員会 文学によるまちづくり部会委員の高見 京子さんに、岡山ゆかりの作家、作品などについてご紹介いただきます。

『バッテリー』あさのあつこ(教育画劇)

岡山県出身・在住のあさのあつこ氏が1996年に発刊した『バッテリー』は、口コミで読者を増やし、1997年野間児童文学賞受賞。その後、『バッテリー2』が日本受動文学者協会賞を受賞、完結した6の刊行後、『バッテリー』シリーズすべてに対し、小学館児童出版文化賞を受賞した。その間、2000年にはNHK「青春アドベンチャー」でラジオドラマ化され、2003年からの文庫化もあり、1000万部を超えるベストセラーになった。2005年からコミックにもなり、2007年には林遣都主演で映画化され、2008年には中山優馬主演でNHKでテレビドラマ化もされ、国民文学とも言える作品、メディアミックスの先駆けともなった。

主人公の原田巧は強烈な個性の持ち主である。傲慢ともいえるほどの自信を持つ才能のある巧と、バッテリーを組み彼を支える永倉豪。この二人を中心に少年たちの真剣な生き方が描かれる。少年期は「分かりにくい世代」「危険な年ごろ」等ステレオタイプ化されていた感なかで、この作品は大変新鮮なものであった。ティーンエイジャーを主人公とするそもそも少なく、一個人として少年たちをとらえていることで、まず子どもたちが作品に惹かれ、普遍的な人間の「自尊と自負」の思いは大人たちをも虜にしたのだ。あさのあつこによって、少年は「かっこいい」存在となった。

その舞台が、岡山県の新田市である。架空の市であるが、「広島と岡山の県境にある新田市」と書かれ、「岡山のマンションを出て、三時間近く運転」とあるから、新見市くらいか。この話は3月の終わりに岡山市から新田市に家族で移動するところから始まる。巧は「四月から中学生」である。映画化に際しては岡山県のあちこちが撮影現場となった。当然、岡山弁も満載である。

物語の最初、オロチ峠から新田市を眺める場面は、高梁市の城見展望台。ここからは高梁市の街並みが俯瞰できる。原田家の住まいは、備中松山城に上る道沿いにあり、今も映画撮影時の表札がかかっている。巧たちが通った新田東中は高梁高校。あさのあつこが養護教諭として映画にも出演していた。巧と豪が出会った神社、少年たちが練習後語り合うベンチ、巧のランニングコースなども高梁市内での撮影である。他に、県内各地の野球場(県営球場も含む)なども撮影地となった。

あさのあつこ自身が岡山県出身・在住であり、「あさの氏が幼い頃から目にし、触れてきた岡山県の豊かな自然は、小説『バッテリー』の中の鮮やかな風景描写に反映されている。」(『BATTERY SCORE BOARD』角川書店)


「文学の中の岡山」執筆にあたり/全国SLA学校図書館スーパーバイザー 高見 京子

2023年10月に、岡山市は「ユネスコ創造都市ネットワーク文学分野」に加盟した。

岡山(市だけでなく県全体で)は、「文学創造都市おかやま」の名に恥じない、数々の実績があるが、私は特に岡山出身(ゆかり)の作家たちが多いことを挙げておきたい。その作家たちを中心に、それぞれの作品の中に岡山の描写が多いこともうれしいことである。これから、このコーナーでは、読み応えのあるそれらの作品と、岡山がどのように文中で書かれているかを紹介していきたい。

作品が一都市だけに向けて書かれていることはもちろんなく、普遍的なものであるのだが、その作品を味わうと同時に、身近な場所が文中にあることで、より岡山に親しみを感じたり、その場所を歩いてみたりしようと思っていただければ幸いである。「文学」も広くとらえ、ノンフィクションも、映画など他のメディアなども含み、比較的新しい作品を取りあげていきたいと思っている。愛読してくださるとうれしい。