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「文学の中の岡山」vol.14『心の遠きところ はじめての坪田譲治』坪田譲治 作 山根知子 編

[2026年5月1日]

ID:81918

「文学の中の岡山」では、公益社団法人全国学校図書館協議会:Japan School Library Association(略称:全国SLA)学校図書館スーパーバイザーであり、岡山市文学賞運営委員会 文学によるまちづくり部会委員の高見 京子さんに、岡山ゆかりの作家、作品などについてご紹介いただきます。

『心の遠きところ はじめての坪田譲治』坪田譲治 作 山根知子 編(小峰書店)

前々回、第41回にあたる今年の坪田譲治文学書受賞作(『ユニコーンレターストーリー』北澤平祐 集英社)を紹介した。岡山市が生んだ児童文学者・坪田譲治を顕彰して生まれた文学賞だ。その時少し書いたが、そもそも坪田譲治とはどんな人か、どんな作品を書いているのか、知らない人が多いのではないだろうか。かくいう私自身も、作品名は知っているものの、実際にはあまり読んでいなかったのだ。
そんな人に向けてぴったりの本が、この3月に出版された。それも、坪田譲二の誕生日の3月3日に!坪田譲治の作品は、全集でも文庫でも読めるのだが、代表作と解説も入り、坪田譲治文学書ともからめ、表紙も中のフォント等も、とても親しみやすいものになっている。

編集されたのは、ノートルダム清心女子大学で坪田譲治や宮沢賢治などの研究をされている山根知子先生。珠玉の作品9編(『母ちゃん』『エヘンの橋』『河童の話』『善太と三平』『魔法』『ビワの実』『きつねとぶどう』『けんかタロウとけんかジロウ』『風の中の子供』)が収録され、編者・山根先生の優しい語り口の解説からなっている。

坪田譲治は、1890年(明治23年)に、岡山県御野郡石井村島田(現・岡山市北区島田本町)に生まれ、岡山平野の自然の中で育った。山根氏は『母ちゃん』解説の中で、「正太の心にも、譲治がお母さんと郷里の村に包まれた幸せな幼年時代の記憶が鮮やかに重ねられています。」と書かれ、『エヘンの橋』では、「JR岡山駅から二十分ほど歩いたところにある生家跡の北洋のかどに今もかかっています。」などと、岡山の光景、環境、実際の場所などと重ね、わかりやすく解説している。

山根氏の解説の中より。

「JR岡山駅西口に~善太と三平をかたどった像が立っています。この少年二人のまなざしの方向には、坪田譲治の生まれた島田という村があります。善太と三平の眼には、JR岡山駅の西方にはるかに広がる田んぼが見え、その向こうに、農家の集落とランプ芯工場(島田製織所)が見えているにちがいありません。」(『母ちゃん』の解説)

「児童文学者の波多野完治は、譲治について『子供における現実と空想の未分化』を描くことに長じているとして。『児童心理の作家』であると高く評価しています。」(『善太と三平』の解説)

「譲治は、岡山を『くだもの王国』として自慢していたようです。~譲治の岡山の生家には、琵琶の木と柿の木がありました。~譲治は西池袋の自宅にも、ビワの木を~植えました。~譲治のビワの木への思いは、~児童文学雑誌の名を『びわの実学校』と名づけ、~家庭文庫にも『びわのみ文庫と名付けるほど、深いものでした。』」(『ビワの実』の解説)

譲治の作品は桃源郷のような村や自然を背景とした作品の多い中、『風の中の子供』では、善太と三平の父親が「私文書偽造」という罪で会社を追われ、三平は叔父に引き取られるという状況が書かれており(父親の罪は晴れる)、山根氏は、譲治にも似たような経験があったことを踏まえ、こう解説する。「『風の中の子供』は、こうした譲治自身の複雑な体験を乗り越えるテーマが盛り込まれて、大人にも子どもにも楽しめる新聞連載小説として始まりました。」

そしてこう続くのだ。

「一九八二年に九十二歳で亡くなった後、譲治の優れた業績をたたえて岡山市が坪田譲治文学賞を制定したのです。坪田譲治文学賞が毎年『大人も子どもも共有できる世界』を描いたすぐれた作品を対象にしたのは、『風の中の子供』などを書いた譲治作品が『大人も子どもも共有できる世界』を書いた作風であることが元になっています。」と。

山根氏は解説の初めに「譲治は、少年時代に故郷・岡山の生活を通してさまざまな感情を味わいました。そうした愛情による幸福感を、譲治は心の中にずっとあたため続け、『心の遠きところ花静なる田園あり』という言葉を好んで書にしたためました。~光景は、作品に映し出され、いまも私たちに届けられています。」と書き、最後に「このように、心の故郷につながる『心の遠きところ』で大切にあたためた愛情によって、譲治の文学は生みだされたのです」と締めくくる。

島田にある坪田譲治の石碑も『心の遠きところ花静なる田園あり』

この本のタイトルは『心の遠きところーはじめての坪田譲治』



併せて『坪田譲治文学‘楽校‘』の紹介です。

今、岡山市では、一度は子どもたちに坪田譲治に触れてもらおうと、小学4年生向けの冊子(『坪田譲治文学‘楽校‘』)を配布している。楽校長は、山根先生と同じくノートルダム清心女子大学で教鞭をとっていらっしゃる、児童文学者の村中李衣先生。

今年の掲載作品は『けんかタロウとけんかジロウ』『きつねとぶどう』『デンデン虫』。坪田譲治の紹介もある。

坪田譲治文学‘楽校‘では、作品も募集している。岡山市を挙げて、坪田譲治と、それに連なる岡山の子どもたちでの文化の継承を行っているのだ。「坪田譲治さんの作品を読んで、感じたことを、ことばや絵で表現しよう!」村中先生は「楽校長からのごあいさつ」のなかで、このようにかいている。

「たのしくわくわくしながら、気づいたら譲治さんと仲良くなれていたり、自分のことばや絵を切符にして、本の世界を自由に旅できたり、といろんな文学体験をしてもらいたいと思います。~坪田譲治さんは~みなさんひとりひとりが、岡山で生きている今この時を、うんと幸せに過ごしてほしいと空の上で願っているはずですからね。」

山根知子さんの紹介(『心の遠きところ はじめての坪田譲治』の巻末紹介)

岡山市生まれ。ノートルダム聖心女子大学文学部教授。専門は日本近代文学および日本児童文学。同大学付属図書館「坪田譲治コレクション」担当。坪田譲治文学賞を運営する岡山市文学賞運営委員会委員。

著書に『検事の前を歩いた妹 宮沢トシの勇進』(春風社)、『わたしの宮沢賢治 兄と妹と「宇宙意志」』(ソレイユ出版)等。共編著に『人物書誌体系47坪田譲治』(日外アソシエーツ)等。宮沢賢治・坪田譲治を研究対象とする作品論・作家論多数。

村中李衣さんの紹介

1958年山口県生まれ。2024年3月までノートルダム清心女子大学人間生活学部児童学科教授。現在は、山口学芸大学客員教授、ノートルダム清心女子大学非常勤講師。様々な場所で絵本の読みあいを続け、岡山市民の童話賞選考委員、日本児童文学協会評議員なども務めている。『チャーシューの月』で児童文学者協会賞を、『あららのはたけ』で坪田譲治文学賞を受賞。岡山を舞台とした『奉還町ラプソディ』も楽しい。読みあいの本、絵本や児童書も多数。


「文学の中の岡山」執筆にあたり/全国SLA学校図書館スーパーバイザー 高見 京子

2023年10月に、岡山市は「ユネスコ創造都市ネットワーク文学分野」に加盟した。

岡山(市だけでなく県全体で)は、「文学創造都市おかやま」の名に恥じない、数々の実績があるが、私は特に岡山出身(ゆかり)の作家たちが多いことを挙げておきたい。その作家たちを中心に、それぞれの作品の中に岡山の描写が多いこともうれしいことである。

これから、このコーナーでは、読み応えのあるそれらの作品と、岡山がどのように文中で書かれているかを紹介していきたい。作品が一都市だけに向けて書かれていることはもちろんなく、普遍的なものであるのだが、その作品を味わうと同時に、身近な場所が文中にあることで、より岡山に親しみを感じたり、その場所を歩いてみたりしようと思っていただければ幸いである。

「文学」も広くとらえ、ノンフィクションも、映画など他のメディアなども含み、比較的新しい作品を取りあげていきたいと思っている。愛読してくださるとうれしい。

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岡山市役所スポーツ文化局スポーツ文化部文化振興課

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