「文学の中の岡山」では、公益社団法人全国学校図書館協議会:Japan School Library Association(略称:全国SLA)学校図書館スーパーバイザーであり、岡山市文学賞運営委員会 文学によるまちづくり部会委員の高見 京子さんに、岡山ゆかりの作家、作品などについてご紹介いただきます。

第41回(2026年)坪田譲治文学賞受賞作である。
この作品に岡山は登場しないが、岡山市主催の文学賞、まさに坪田譲治文学賞にふさわしい作品として、「文学の中の岡山」で紹介したい。
ハルカとミチオは同じ日に生まれた幼なじみ。ユーニちゃんのお人形で遊んだり、お誕生会を一緒にしたり、入学式もピアノの演奏会も一緒。そのミチオが、10歳の時、お家の都合で渡米した。そして二人の文通が始まる。中学になり、高校、そして卒業……、11歳から19歳(1994年~2002年)までの二人の往復書簡だ。全ページにイラストが入っているので、絵本とも、イラスト小説(グラフィックノベル)ともいえるような、型にはまらない、素敵な体裁の本である。
ミチオは、急に投げ込まれたアメリカ生活の中での孤独・寂しさを綴るところから、次第に仲間ができ、バンドを組み、音楽活動の楽しさも伝えるようになる。それでも「アメリカは自由の国だっていうけれど、ティーンエイジャーのぼくには自由はありません。ぼくはアメリカ人になんかなりたくない、ただ早く大人になりたい。」(16歳)。
ハルカの17歳、「海に流してしまいたいこと」、「Nコン予選敗退のこと、まだ進路を決められないこと。くみちゃんにずっと無視されているみたいなこと、なにもかもがいやなこと、たまごっちを死なせてしまったこと……」
等身大の若者の思いが手紙の中で素直につづられていく。ハルカがミチオのために心を込めて行動したこと、好きなことを誰かのために一生懸命行う姿は美しくほほえましい。
アメリカと日本を行き交う「手紙」による交流がいい。この時間と空間の距離感が、二人の思い、関係を深めていくように感じる。eメールも試みるが(時代はちょうど2000年ころ)、手紙に戻っていく。(「やっぱり紙とペンは落ち着くよー」ハルカ)それゆえ、大きなすれ違いも起こり、ハラハラするのだが、終わりは未来への希望を感じさせる。
イラストと活字とのバランスがまた絶妙。お互いの内容を補完しつつ、相乗効果で内容を深める。
パラパラとめくるだけでも、素敵な世界が広がる。
本のつくりも内容も含め、新たな青春小説が生まれた。
青春を、ハルカとミチオと一緒に!!
坪田譲治は、1890年、岡山市生まれ(現在の岡山市北区島田本町)の児童文学作家である。
善太と三平の登場する『風の中の子供』、『子供の四季』など、岡山の風土を愛し、少年たちの純粋な思いを描いた。日本児童文学者協会の会長を務め、童話雑誌「びわの実学校」を主宰し、松谷みよ子、あまんきみこ、寺村輝夫、大石真、今西祐行などの後身を育てた。
その功績をたたえ、坪田の作品と重ねて、「大人も子どもも共有できる 世界を描いたすぐれた作品」に贈る賞として、坪田譲治文学賞は生まれたのだ。
「大人も子どもも」ということで、この賞は、いわゆる児童文学賞にとどまらす、ヤングアダルト賞の性格を帯びていて、全国的にも貴重な賞である。過去の受賞作も、重松清、瀬尾まい子、朝井リョウなどのYA作家が多い。阿川佐和子、中脇初枝は受賞後、現在は審査員を務めている。
今回の受賞作は、まさに坪田譲治文学賞の趣旨どおりの優れた作品である。大人も子どもも楽しんでもらいたい。
神奈川県横浜市生まれ。東京都在住のイラストレーター。
10歳から16年間暮らしたアメリカで絵の勉強を始め、帰国後、イラストレーターとしての活動をスタートした。以来、辻村深月、柚木麻子、林真理子を含む多数の書籍装画や、フランセ、花王メリットピュアン、KENZOなどの製品パッケージ、広告、プロダクトまで、国内外の幅広い分野へイラストを提供している。著書に『ぼくとねこのすれちがい日記』(ホーム社)、『ひげが ながすぎる ねこ』(講談社)などがある。(『ユニコーンレターストーリー』の著者紹介より)
2023年10月に、岡山市は「ユネスコ創造都市ネットワーク文学分野」に加盟した。
岡山(市だけでなく県全体で)は、「文学創造都市おかやま」の名に恥じない、数々の実績があるが、私は特に岡山出身(ゆかり)の作家たちが多いことを挙げておきたい。その作家たちを中心に、それぞれの作品の中に岡山の描写が多いこともうれしいことである。
これから、このコーナーでは、読み応えのあるそれらの作品と、岡山がどのように文中で書かれているかを紹介していきたい。作品が一都市だけに向けて書かれていることはもちろんなく、普遍的なものであるのだが、その作品を味わうと同時に、身近な場所が文中にあることで、より岡山に親しみを感じたり、その場所を歩いてみたりしようと思っていただければ幸いである。
「文学」も広くとらえ、ノンフィクションも、映画など他のメディアなども含み、比較的新しい作品を取りあげていきたいと思っている。愛読してくださるとうれしい。
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