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「文学の中の岡山」vol.10『雨月物語』金原 瑞人著 佐竹 美保絵

[2025年11月20日]

ID:77158

「文学の中の岡山」では、公益社団法人全国学校図書館協議会:Japan School Library Association(略称:全国SLA)学校図書館スーパーバイザーであり、岡山市文学賞運営委員会 文学によるまちづくり部会委員の高見 京子さんに、岡山ゆかりの作家、作品などについてご紹介いただきます。

『雨月物語』金原 瑞人著 佐竹 美保絵(岩崎書店)

11月21日、22日、翻訳家の金原瑞人氏の講演会が岡山の4か所であった。

その3か所の会場でお話をうかがい、金原氏は、面白いものを紹介し続けてきた方なのだとつくづく感じたことだった。翻訳はまさしく面白い海外文学の紹介だ。日本の古典も扱うのはなぜなのだろうと思っていたが、面白い作品の紹介は海外に限らない。数々の書評、ブックガイドの出版も同じく面白い本の紹介だ。
そこで、今回は金原瑞人著の『雨月物語』を紹介したい。

『雨月物語』は江戸時代に上田秋成が書いた怪異小説である、西行が、成仏せず怨霊になった崇徳上皇を諫める『白峰』や、妻のもとに7年ぶりに帰ってきた男が妻と再会の次の朝気が付くと廃墟の中だったという『浅茅が宿』など、9編が収められている。

しかし、上田秋成著・金原瑞人訳ではなく、金原瑞人著とあるのはなぜか。そこにこそ、この本の面白さがある。

本のつくりはこうだ。高校の文芸部員9人が、部活動の一環で『雨月物語』を紹介することになり、それぞれが自分の言葉で紹介し、感想を述べる。『白峰』では「圧倒的な負のエネルギー」を感じた生徒が自分のいじめ経験を語る、など。9人がそれぞれ紹介し終えたあと、「最後にひとこと、ふたこと、みこと」という章があり、9人が今後の創作への意欲を語る。『白峰』を紹介した、平安時代の陰陽師である安倍晴明が好きな男子は、「現代の陰陽師を主人公にしてラノベ」を、それも『秋雨物語』とタイトルも決めている、と。そして最後に、文芸部の顧問が「みんなよくがんばったね」「これをきっかけに、それぞれが自分の作品を書いていければいいなと思います」と締めくくるのだ。

さて、「文学の中の岡山」である。『雨月物語』の中には『吉備津の釜』の話もある。岡山市の吉備津神社、鳴釜伝説を踏まえた話だ。

これを山根沙織さん(岡山に住んだこともある)の紹介に沿ってみてみよう。

「いまの岡山市の庭瀬というところに井沢正太夫という人がいました。~優等生一家の中のヤンキーが、正太夫の一人息子の正太郎でした。~なんとか落ち着かせる方法はないかと~世話好きなおじさんがいい話をもってきてくれ、『吉備津神社の神主の娘はどうじゃろう。ぼっけえべっぴんじゃし、親孝行じゃし、琵琶も弾きゃあ。和歌もよむいうで。』~とんとんと話が進んで、~結婚式ということになりました。~ここで『吉備津の釜』の登場です。これは吉備津神社という由緒ある大きなお宮に昔からある大きな釜です。これに水を入れてわかし、沸騰したときの釜のなる音で占いをするのです。釜が牛の声のような音でなれば『吉』、ならなかったら『凶』。そして井沢家と香央家の結婚を占ってみたところ、釜は秋の虫の声ほどもならなかったのです。神主はいやな予感がして、この結婚はよくないのではとおもったのですが、妻の方は違いました。『釜が鳴らなんだなあ、祝詞をよむ巫女が身を清めておらんからじゃろう。~娘の磯良も、正太郎さんの男っぶりのよさにほれとって、嫁入りの日を心待ちにしとるが。』神主も思い直し、正太郎と磯良はめでたく結婚したのでした。」こんな調子で山根さんの作品紹介は続くのだが、その後、浮気者の正太郎は別の女性と暮らすようになり、怨念の塊の磯良は亡霊となって、女も正太郎も呪い殺してしまう。

山根さんは紹介後「予言」に思いをはせ、予言物の小説やお芝居の中から『オイディプス王』と比べる。「神様の予言を無視したために起こった悲劇」と「信じたために起こった悲劇」、「なんか、人間って、運命からはどうしたって逃れられないのかな」と。「でも、両方ともすごく面白い作品で、とても好きなんです」と締めくくるのだ。

山根さんは、「最後にひとこと~」で、吉備津の釜の伝説のもとの、大和朝廷から派遣された吉備津彦と地元の為政者の温羅の話から、吉備津彦の家来と温羅の娘が恋に落ちるお話が書きたい、と言いう。「痛快冒険ファンタジーになる予定」と結ぶ。

この続きをまた金原さんか、岡山の若者が書いてくれたらいいな。

この本は、『雨月物語』のお話を、楽しく分かりやすく伝えてくれる、と同時に、高校生の思い、現代との重なり、他の作品とのつながり、など二重、三重にも楽しめ、まさしく金原瑞人著の本となっていて、面白い!

岡山の人には『吉備津の釜』だけでも読むと楽しいかも。

金原 瑞人さんの紹介

1954年 岡山市生まれ。岡山大安寺高校、法政大学大学院卒業。

翻訳家。法政大学名誉教授。

児童書やYA向けの作品のほか、一般書・ノンフィクションなど著書は650点ほど。

今年度の課題図書『ねぇねぇ、なに見てる?』(小学校中学年)など、過去にも多数課題図書になっている。

翻訳書・絵本には『青空の向こう』『私はマララ』『リンドバーク 空飛ぶネズミの大冒険』など、古典の翻訳・翻案には『仮名手本忠臣蔵』『アーサー王物語』『ドリトル先生航海記』など、エッセイとして『翻訳家じゃなくてカレー屋になるはずだった』『成熟しないまま大人になるために』など、ガイドブックとして『10代のためのYAブックガイド150!』『13歳からの絵本ガイド』などがある。

今年度(2025年度)から、「10代が選ぶ海外文学大賞」も主催している。

「文学の中の岡山」執筆にあたり/全国SLA学校図書館スーパーバイザー 高見 京子

2023年10月に、岡山市は「ユネスコ創造都市ネットワーク文学分野」に加盟した。

岡山(市だけでなく県全体で)は、「文学創造都市おかやま」の名に恥じない、数々の実績があるが、私は特に岡山出身(ゆかり)の作家たちが多いことを挙げておきたい。その作家たちを中心に、それぞれの作品の中に岡山の描写が多いこともうれしいことである。

これから、このコーナーでは、読み応えのあるそれらの作品と、岡山がどのように文中で書かれているかを紹介していきたい。作品が一都市だけに向けて書かれていることはもちろんなく、普遍的なものであるのだが、その作品を味わうと同時に、身近な場所が文中にあることで、より岡山に親しみを感じたり、その場所を歩いてみたりしようと思っていただければ幸いである。

「文学」も広くとらえ、ノンフィクションも、映画など他のメディアなども含み、比較的新しい作品を取りあげていきたいと思っている。愛読してくださるとうれしい。

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