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「文学の中の岡山」vol.4『島の宝を守る 白石踊800年の伝統を受け継ぐ若者たち』

[2025年8月15日]

ID:74319

「文学の中の岡山」では、公益社団法人全国学校図書館協議会:Japan School Library Association(略称:全国SLA)学校図書館スーパーバイザーであり、岡山市文学賞運営委員会 文学によるまちづくり部会委員の高見 京子さんに、岡山ゆかりの作家、作品などについてご紹介いただきます。

『島の宝を守る 白石踊800年の伝統を受け継ぐ若者たち』山本慎一(吉備人出版)

岡山県笠岡市の白石島とその周辺の地域が、今回の舞台である。白石島の伝統芸能である白石踊が住民と若者たちによって息を吹き返す、感動の物語が紡がれる。
白石踊とは、岡山県笠岡市の白石島で800年前からある郷土芸能である。源平合戦で死んでいった人たちの霊を慰めるために供養塔の周りで踊ったのが起源と言われる。白石島の人たちは、自然豊かな土地を守ると同時に、この踊りも「島の宝」として大切にしてきた。白石踊の特徴は、一つの輪の中で、それぞれが異なる踊りを同時に踊る。日本の他の地域ではあまり見られないらしく、国の重要無形民俗文化財に指定されている。 

過疎化や高齢化で「このままでは白石踊が無くなってしまう。それは時間の問題だ……、とだれもがあきらめてい」たある日、高校の先生から白石島の盆踊りに誘われた、島外の高校生2年のワタナベヨウくんが、「きみもいっしょに踊らんか?」と島の人に誘われたところから「奇跡」が始まる。

「幻想的な風景」「温かい笑顔」「心地よさ」を感じたヨウは、「白石踊を無くしたくない」と、笠岡市内での踊りの練習に参加し、地元の新聞に、白石踊の魅力を伝える投書をし、地元の大学でのシンポジウムで発表もする。学校でも探究のテーマにも選び、その発表を聞いたオカモトリョウケンが白石踊を広げる仲間に加わる。二人の姿をみて、ミヤタヒナコなど仲間がふえ、「白石踊800年の伝統を受け継ぐ会」として、「高校生ボランティア・アワード」(主催は歌手のさだまさしが設立した「公益財団法人風に立つライオン基金」)で発表し、入賞する。その後、ワダユウキが「CGアイドル 白石舞」を作るなどして活動が広がってゆく。高校生たちの姿に刺激を受け、笠岡市、白石島の人たちも動いていく。2022年11月には、「ユネスコ無形文化遺産」に登録される。

このようにして白石踊が多くの人たちに広がっていくのだが、この間の高校生たちの成長の姿がまぶしく、土地の人たちとの交流もしみじみとした温かさが伝わってくる。

今年の夏の盆。白石島出身者、日本内外の観光客。島外の高校生、さまざまな人が集まって踊る白石島の盆。「きみもいっしょに踊らんか?」

山本慎一さんの紹介

筆者は、『ボランティアをやりたい!高校ボランティアアワードに集まれ』を発行した岩波書店、ジュニア新書の編集長だった山本慎一さんである。日本児童文学者協会の「第10回子どものための感動ノンフィクション大賞」で優良作品に選ばれた『島の踊りを守りたい』に加筆修正して、この本が生まれた。今では何度も白石島に足を運んでいるとのこと。岡山の魅力を紹介してくださって感謝だ。

短編小説『サンゴの図書館』(ペンネーム蒼井新)で第3回更級日記千年紀文学賞大賞も受賞している。

「文学の中の岡山」執筆にあたり/全国SLA学校図書館スーパーバイザー 高見 京子

2023年10月に、岡山市は「ユネスコ創造都市ネットワーク文学分野」に加盟した。

岡山(市だけでなく県全体で)は、「文学創造都市おかやま」の名に恥じない、数々の実績があるが、私は特に岡山出身(ゆかり)の作家たちが多いことを挙げておきたい。その作家たちを中心に、それぞれの作品の中に岡山の描写が多いこともうれしいことである。

これから、このコーナーでは、読み応えのあるそれらの作品と、岡山がどのように文中で書かれているかを紹介していきたい。作品が一都市だけに向けて書かれていることはもちろんなく、普遍的なものであるのだが、その作品を味わうと同時に、身近な場所が文中にあることで、より岡山に親しみを感じたり、その場所を歩いてみたりしようと思っていただければ幸いである。

「文学」も広くとらえ、ノンフィクションも、映画など他のメディアなども含み、比較的新しい作品を取りあげていきたいと思っている。愛読してくださるとうれしい。