ページの先頭です

共通メニューなどをスキップして本文へ

岡山市スポーツ・文化・生涯学習サイト LIFEおかやま

記事ID検索

半角数字10桁以内で入力してください。

スマートフォン表示用の情報をスキップ

Language

♯28 一般社団法人「みるを楽しむ!アートナビ岡山」

[2020年11月13日]

ID:43161

ソーシャルサイトへのリンクは別ウィンドウで開きます

「佐藤一章展」とツナ缶

9月下旬、やかげ郷土美術館で第3回目の「おしゃべり鑑賞会」が小学生を対象に行われました。今回は「佐藤一章展」を対話型で鑑賞した後、〝ビーズブローチ作り〟のワークショップ付き、というものです。その際、私にとって大変印象に残ったエピソードがあったのでご紹介します。


「おしゃべり美術館」での鑑賞の様子

やかげ郷土美術館「おしゃべり美術館」鑑賞風景

鑑賞前に、ほぐしの〝アートゲーム〟をよくやっています。今回は、佐藤一章作品の図版を複数用意し、「よくみてから、好きな作品、または気になった作品を選んでね」と各人に選んでもらい、あとでその理由を聴く、というもの。
私の近くにいた小学校低学年の女の子に、「どこが気になった?」と声を掛けても一向に無言でした。
「これは何かな?」「魚かな?」「ここはどこかな?」「人が何人いるかな?」と、いろいろ水を向けて言葉を引き出そうとしてみましたが、彼女は口をつぐんだままでした。それでも何か一言でもと、絵の中の女の人が両手を胸のところに重ねているのを指差して「何を持っているのかな?」と尋ねてみました。
すると、彼女は一言「ツナ缶」と言ったのです。いきなりツナ缶が出てきてちょっと驚きましたが、ひとまずは「声が聴けた!良かった」と思い、軽く受け止めていました(下記作品参照)。

佐藤一章「魚市場」の絵

佐藤一章「魚市場」(1936年制作)

その後、展示室での作品鑑賞も終えて、「ビーズブローチ作り」へ。
「2個のうち1個は、今みてきた佐藤一章作品のどこか(色でも形でも)を参考にして作ろう。もう一つは自由に作っていいよ」と声を掛けてスタート。皆、夢中になって作っていました。

ビーズブローチの写真

出来上がった人から、作品のどんなところを参考にしたのかを尋ねた時のことです。
先ほどの彼女も時間をかけて作っており、「どこを参考にしてるの?」と尋ねると「ツナ缶」と言ったとのことでした。作品中の女の人の手元のあたりの色と形を参考にしているらしいのです!72色のビーズの中から、彼女は慎重に2色を選び、形を気にしながら入れ直したりして作っていたとのこと。
上(写真参照)がそれです。

最初に聞いた時は正直「えっ?ツナ缶のブローチ?」と驚きました。私自身は、「ツナ缶」への彼女の思い入れがブローチにするほどに印象深かったとは全く想像していなかったからです。
しかし、そこからいろいろ考えさせられました。
まず、鑑賞者の意見をそのままに〝聞く〟ことを大事にしているつもりが、「あれこれと、彼女に答えられる質問をしていた」のではないかという反省であり、それにいっぱい答えられることよりも、「ツナ缶」というたった一言発せられた言葉ですが、まぎれもなく彼女自身で発見し、外に向かって発した言葉だけが、わざわざブローチにするほど彼女にとっては意味があることなのだ!ということなのです。

「対話型アート鑑賞」とは

私たちの会の活動は〝アート作品鑑賞の支援〟です。しかし、作品に対する知識を提供するのでもなければ、こちらの結論へ持っていくことが目的でもありません。多様な価値観を内包している〝アート〟を、複数の鑑賞者で対話しながら味わう「対話型アート鑑賞」という手法で、もとはニューヨーク近代美術館で開発された技法をもとにしています。
その際の私たちの役割というのは「司会進行係」であり、また「対話」をキャッチボールにたとえるなら「キャッチャー」にあたります。
「答え」が一つでないアート作品を、鑑賞者は皆で「みる」「考える」「話す」「きく」を繰り返す中から、作品と自分との間に新たな意味が生まれ、作品との距離がぐっと近くなったように感じます。また、それは参加者どうしの関係性にも起こるのです。他人の意見に耳を傾けることの重要性に気づいた時、他人に対して、また共有する場に対する信頼性が芽生えるからかも知れません。

作品を鑑賞する子供

子どもの場合、大人よりも目に見えて顕著に変化してくる場合があります。1作品目の鑑賞時には「何を答えればいいのかな?」と探るようにこちらを見ていた小学生が、「何を言ってもいいのだ」と分かると、ドンドンと自信を持って自分の意見を言えるように変貌し、3作品目では「私はこう思う。ここがこういう風にみえるから」としっかりと他の人に伝えられるようになるのです。

その子の中で、今までもあったけれど動いていない〝何か〟が動き出した瞬間であり、それを感じた時が「鑑賞ナビゲーター」として大変うれしい瞬間でもあるのです。

「◯◯◯◯ことは、使う」

最近読んだ本「対話型ファシリテーションの手ほどき」(中田豊一著)の中あった内容に、深くうなずかされる箇所があるので、ご紹介します。
(1)聞いたことは、◯◯◯◯。
(2)見たことは、◯◯◯◯。
(3)やったことは、◯◯◯◯。
(4)◯◯◯◯ことは、使う。
(答え:(1)「忘れる」(2)「覚えている」(3)「わかる、身につく」(4)「気がついた、発見した」)

これは、長年NGOとして海外で国際協力をしてこられた著者らが、現地の方々との間での対話を通して学んだことです。以下、本文の引用です。

「つまり、自分で見つけたもの以外は、ほとんど忘れます。忘れてしまえば使うことはできません。現場のファシリテーションにおいても、相手が答えを自分で見つけるまで、粘り強く働きかける必要があります。自分で発見することの意義は、『忘れない』ということに留まりません。人は自分で答えを見つけた時、気付きの喜びに満たされます。その喜びをエネルギーに、行動変化のための第一歩を踏み出すことができます。同じ答えであっても、自分で見つけるのと他人から教えられるのとでは、心理的な効果という点では、天地の差があるということです」

(4)の項目が、まさに昨今、教育現場で言われている「アクティブラーニング」にあたるのではないでしょうか。今回の体験が、彼女の中での小さな「種」となり、「芽」が出てくれたらいいと願っています。

「みる」は「創造」!

私たちの団体は、2020年6月30日、それまでの任意団体から一般社団法人になりました。その際に、新たなキャッチフレーズを会員同士で話し合って作ったものが、「みるは創造!」です。

「創造」と聞くと、どうしても「作品」や「作家」を思いますが、私たちは「みる」ことも「創造」である、と位置付けました。「創造=既知の未知の組み合わせ、その発見」とすれば、「対話型アート鑑賞」の場面で〝新たな意味の発見〟はいくらでもある!と実感しています。鑑賞も〝もうひとつの創造活動〟であると位置付けて鑑賞者を鼓舞しながら、「みる」ことは「楽しい」し、「アートって面白いね」と思ってもらう人が増えることが、引いては心豊かな社会につながると考えています。
そのためにも、子どもから大人まで、できるだけ多くの皆さんと多くの機会で、この体験を共有してもらえるよう、これからも〝粘り強く働きかける〟所存です。

寄稿者情報

片山 眞理さん

片山 眞理

一般社団法人「みるを楽しむ!アートナビ岡山」代表理事
2006年、岡山県立美術館「MITE展」で、初めての「対話型鑑賞」体験に感銘を受け、2008年〜現在、岡山県立美術館「対話型鑑賞体験ツアー」のボランティアスタッフとして活動。
2015年9月、「対話型鑑賞体験ツアー」ボランティアスタッフ有志で、任意団体「みるを楽しむ!アートナビ岡山」を立ち上げる。以後、学校等と連携しての鑑賞支援のほか、近年では岡山県内の多数の美術館と協働して「対話による鑑賞会」を開催している。
第1回、第2回「岡山芸術交流」では、「来場校への鑑賞支援」、「サポートスタッフ研修」、「学校鑑賞ナビゲーター養成」事業を担う。
2020年、一般社団法人「みるを楽しむ!アートナビ岡山」設立し、代表理事となる。