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第4回 琴平の歴史と文化を活かしたまちづくり

[2026年3月30日]

ID:80535

基調講演

琴平バス株式会社 代表取締役 楠木泰二朗氏(オンライン出演)
株式会社地方創生 代表取締役 近江淳氏
株式会社五人百姓池商店 28代目 池龍太郎氏

講演者 楠木泰二朗氏

“創客”コアバリューに事業展開

オンライン出演した楠木泰二朗氏の写真

創業70年を迎える会社の3代目で、バス事業、タクシー事業、インバウンドを含む旅行事業などを手掛けています。当社が掲げるコアバリューは“創客”。ファン・リピーターを丁寧に増やしていくというものです。そのために重視しているのが、お客様と顔を合わせて名前を呼び合える関係を築く“One to Oneのコミュニケーション”とあなただけというシーンを作っていく“Only youのおもてなし”。そして時代の要請にこたえ続ける“Something New”です。

現在は、AIが最適な車両とルートを決定するオンデマンド交通琴平mobiやKotoriコワーキング&ホステルなど、移動や空間といった地域資源をシェアするシェアリングエコノミーの考え方をベースに新しい滞在や関係人口の創出に取り組んでいます。併せて地域CRM(顧客関係管理)や地域OTA(地域体験プラットフォーム)の構築も進めており、地域との継続的な関係づくりを目指しています。

こうした取り組みは、従来の“公助”に依存するのではなく、地域に関わる人々が互いに支え合う“共助”の仕組みをつくることでもあります。琴平という町を、訪れる人にとっても関わり続けられる場所へと進化させていきたいと考えています。今回デンマークからリモートで参加しているのも、こうした取り組みをさらに発展させるための視察の一環です。

失われるかつての魅力

ビデオ通話で講演を行う楠木泰二朗氏がうつったスクリーンの写真

琴平は江戸時代後期にこんぴら参りがブームになり、信仰に加え、富くじや遊郭があり、歌舞伎の巡業が開かれる「一生に一度はこんぴらさん」と言われるラスベガスのような街でした。しかし現在は人口7,600人の消滅可能性自治体で、観光客数は瀬戸大橋開通当時の520万人から、コロナ禍直前の2019年には260万人と半減しています。しかも宿泊者は2割程度で平均宿泊日数は1.13泊。一方日帰り客の滞在時間は2時間程度。参拝してうどんを一杯食べて帰るだけで、地域に落ちるお金は数百円にしかならないといったことでは地域は豊かになれません。地域の魅力が失われている結果です。宿泊比率を増やし、宿泊日数を伸ばしていかなければなりません。もうひとつの課題が初めて訪れる人が非常に多いこと。63パーセントにも上ります。2回目が2割近くありますが、「何十年ぶり。修学旅行以来」という人が非常に多く、リピーターとは言えません。

解決策は何度も訪れたくなる町化

そこで地域の皆と地域計画というものを作りました。「一生に一度ではなく、何度も訪れたくなる町」を目指し、ファン・リピーターといった関係人口を増やそうというものです。絶景などの観光地は似たような所がいくらでもあり、自分が何度も足を運ぶ理由を考えると、友達に会いに行くといった人の要素が非常に大きい。だから地域の中で友達を作って帰ってもらう。そのために必要なのが、その関係性を築く余白の時間を設ける「観光地から滞在地へ」の取り組みです。

その中で始めたのが、場所に縛られず旅をしながらリモートワークで仕事をするデジタルノマドの聖地化です。当社が門前町にオープンした宿泊・コワーキング施設を拠点に、長期の滞在を通して飲食店や飲み屋、旅館のオーナーなど地域の歴史・文化を面白おかしく語る人たちと友達になってもらいます。認知向上へ、海外のリモートワーカーを招待し長期滞在してもらうプログラムも実施し、地域の人とのコミュニケーションを楽しめると大変喜んでもらっています。

コワーキング&ホステルの前で大勢の人が記念写真を撮っている様子

想いある人が前進力を生む

琴平では事業を通じた地域課題を解決するローカルゼブラ的思想を持った方が非常に増えています。外から来た「風の人」と地元の「土の人」、地域に想いを寄せる人たちがコミュニティーを作り、いろいろな形で前に進んでいます。コロナ禍以降、一緒にやりましょうというウエルカム感が高まり、関係人口が増え、さまざまなプロジェクトが生まれています。

講演者 近江淳氏

風の人視点で見えた可能性

マイクを持ってしゃべっている近江淳氏の写真

当社は「地域の可能性をひらき、人が輝くまちをつくる」をミッションに、全国でシティープロモーション、PRなどを手掛ける会社です。2008年に設立し、2014年に古巣のパソナから出資を受け現在の地方創生に社名変更しました。本社は東京都で、わたしは生まれ育ちとも埼玉県の「風の人」ですが、月の3分の2から半分は琴平にいます。なぜそうなったかと言うと、さまざまな地域で空き家、空き店舗、シャッター商店街などを目にし、地に足を付け地域課題に向き合う事業をしていきたいと思っていた時に出会ったのが琴平だったからです。

きっかけは琴平出身の社員がいること。表参道の延長線上にある新町商店街というシャッター商店街を見た時に、すぐ目の前まで年間260万人の観光客が来ているなら、すごいポテンシャルがあるんじゃないか、商店街各店が儲かる状況を作りだせるんじゃないかと考え、空き店舗開発からプロジェクトを立ち上げました。

地域丸ごとホテルKOTOVEGAS

クラフトビール工房DONZOの写真

その時に決めた事業コンセプトが、地域のモノ・コトづくり。そして新しいものを生み出す人や関係性を育て琴平の町と、観光を盛り上げていくこと。2020年に琴平文房具店をオープンし、その後クラフトビール工房DONZOプリューイング、ベーグル店、日本茶カフェ、宿をオープンしました。地域丸ごとホテルのKOTOVEGASとして運営しています。地域丸ごとホテルとは、食と泊を分離し、当社運営の5店以外にもエリアの店を楽しんでもらうというコンセプト。そういった地域に根差した施設運営をしながら、地域と人をつなぐ関係人口作りのプロジェクトにも取り組んでいます。その中で地域の人事部を志しHR(人的資源開発)事業も手掛けています。都心部の兼業・副業可能な人たちと、地域の事業者をつなぎ、仕事を作ることもやっています。地元の人たちと連携しながらの取り組みは、今年の観光白書に好事例として紹介されました。

輝く人が地域を作る

講演で話している近江淳氏の写真

観光こそ地方を盛り上げていくための大きな柱、その受け皿となりえる地域を作っていくという想いで事業を進めています。来訪者と地域の人がつながり、2度3度と足を運びたくなるような場所を作っていく。観光は光を観るという漢字を書きますが、光とは人だと考え、人の輝きが集まる魅力的な場所づくりこそが観光、活性化のカギになると思っています。

講演者 池龍太郎氏

古代から続く家の跡継ぎの挑戦

マイクをもって講演を行う池龍太郎氏の写真

当社は、日常に開かれた歴史を遊び伝え広め、人が何度でも通いたくなるそういったつながりを企てている、そんな会社。
地域と連携した商品の開発・販売、語り部育成事業などを手掛けています。

金比羅宮の本宮の写真

池家は五人百姓5家の一つです。門中で傘の下で飴を売る姿が知られています。こんぴらさんは、江戸時代に「一生に一度はこんぴら参り」と言われ、多くの人が訪れる場所でした。江戸から大阪の港まで徒歩で約1カ月、そこから船で3日かけて来ていました。当時から観光名所の一つとして知られ、今もパンフレットでは飴屋として紹介されています。しかし本当の仕事は、金刀比羅宮の神事の手伝い。古代から神職とともに神事を守り続けてきました。農家と誤解されますが、百姓は神事に特化した百のことをできる人という意味です。飴は、こんぴらさんのためになるものとして江戸まで持って帰られ、叩いて割ってご利益を分けることができるものとして始まりました。

そういった家に生まれましたが、ほかの子どもとは少し違っていました。両親が不妊治療を行い、その中で自分が奇跡的に生まれたと告げられた4歳の時から、将来帰ってきて継がなければならないと心に決めた子どもだったのです。そのため幼少期からどうやったら一緒に走ってくれる仲間をつくれるのかを考えて過ごし、それが今の活動につながっています。

その後隣近所から「シャッターが空いていなかったら助けてくれ」とかぎを渡されるような親密な関係性の中で、近所のじいちゃんばあちゃんを助ける知識を身に付けたいと初めに銀行員、その後もっと町に密着したいと琴平町の職員になります。地域の若者の郷土愛醸成の取り組みなどを立ち上げながら、結婚、娘ができ、人生これでもいいかと思っていた矢先、ターニングポイントのコロナ禍が訪れます。スペイン風邪以来100年ぶりにこんぴらさんが閉鎖。周りは高齢者ばかりで、かぎを託されているのにもかかわらず、元気かどうかを確認できない状況をきっかけに家業を継ぎました。

歴史文化と地域資源掛け合わせ事業展開

「恵みのあめ」の写真

五人百姓を含め、高齢化が進み課題は山積。観光も一生に一度はこんぴら参りという言葉が、一度行けば十分と誤解され、一人歩きしている状況です。家業としての実感と行政としての感覚でそれを非常に強く感じていました。そこで始めたのが、ご利益を分ける五人百姓の飴のストーリーと地域の資源を掛け合わせる事業。雨ごいの意味もある飴で、その雨の恵みで育った地域のフルーツを包んだ「恵みのあめ」シリーズを生産者と作り、徳川家康の子孫から託された日光の山奥で作られた天然氷に飴のシロップをかけたかき氷を夏限定で提供、100年以上の歴史がある高瀬茶業組合と、飲める飴のティーパック「あめ茶」を商品化しました。そのほか飴体験ができるイートインスペースで飴を使ったソフトクリームやドリンクを提供。水分量が多く、飴でコーティングしても普通の飴ではすぐに溶けてしまう香川のさぬきひめフルーツ飴も作っています。観光連携を結ぶまんのう町と特産のひまわりオイル使った、両方の町で提供できるおみやげひまわり飴も作りました。いずれも池商店と、関わる事業者双方が笑顔になることにこだわり、また、琴平の歴史、文化を伝えるきっかけになる商品です。

次世代へ町内外に語り部を増やす

金刀比羅宮の参道の様子

そして次世代のためにできることは何だろうと始めたのが小さな観光大使を生み出す語り部事業です。楽しく伝えることで、次の人に伝えたくなるようにするという取り組みです。対象は保育園児から高校生、大人まで幅広く、香川県内の高校や大学、保育園などを皮切りに、池商店でも予約制で実施しています。

講演を行う池龍太郎氏の写真

その一環で、映画国宝の原作小説で舞台となっている琴平町の金丸座についても、歌舞伎を何倍も楽しむツアーや、客引きを大人と子どもが一緒になって行う取り組みを始めました。ただ参拝して終わりではなく、次世代に地域のファンになってもらい、こんぴらさん良かったよと人に伝えてもらうという一つひとつの種がどんどん広がっていけばと思っています。

トークセッション

琴平バス株式会社 代表取締役 楠木泰二朗氏 × 株式会社地方創生 代表取締役 近江淳氏 × 株式会社五人百姓池商店 28代目 池龍太郎氏 × 岡山市文化振興課 元ももスタ担当松田将治 × ファシリテーター 岡山市事業政策課 西井正樹

トークセッション中の写真

西井:みなさんの話を聞くと歴史文化を今の社会でどう生かしていくかが大切と受け止めました。生かし方のポイントはありますか。

池:もともとある物も見方を変えるととらえ方も違ってきます。そういった伝え方の工夫で、琴平の歴史文化に触れた人が人に伝えたくなるようにすることを大切にしています。

近江:その地にある歴史や文化をストーリーとし、それをベースにモノやコトをつくっていかなければ、ビジネスにつながっていかないと考えています。

池:近江さんのDONZOブリューイングのDONZOは、呑象なんです。この呑象という言葉は、日柳燕石(くさなぎえんせき)という学者でありながら侠客として街のいざこざを治めていた人に由来します。旅館から西郷隆盛や桂小五郎、高杉晋作など幕末の志士たちの人相書きが出てきたんですが、そういった志士たちが琴平に来た理由が、燕石に会うため。しかし警戒されているため道を聞くこともできません。そこで燕石は、こんぴらさんを敬う町の人は決してしない、こんぴらさん側に窓を設け目印にしました。そして町の人に迷惑が掛からないよう「侠客の親分だから、(こんぴらさんのある象頭山から)象を肴に酒が飲める家を作った」と言ったことからこの家を呑象楼と言います。ブリュワリーという言葉になじみのないお年寄りにも分かる、ストーリーのある素晴らしい名前だと思います。

西井:歴史文化を活かす上で難しい点は何でしょうか。

近江:難しく、そして必要なのが理解を得ることです。よそ者はどうしても警戒されます。わたしの場合、商工会に商店街を盛り上げたいという想いを伝え、大家さんに紹介してもらいました。

西井:松田さんは、ビジネスの観点から意見はありますか。

松田:事業承継を機に事業のアップデートに挑戦するアトツギは、自分の持っている個性と家業の特性をミックスして現代に合うようアップデートしていく点で、池さんたちの取り組みに通じるところがあると思います。また国の施策で、地域課題をビジネスの力で解決して利益と両立していくという動きが加速していますが、その中で求められている地域内の協業などについて、琴平は大変参考になります。

西井:地域で育った楠木さんや池さん、外から来た近江さん、こういう人が協業していくことが地域を元気にしていきます。協業についてはどう考えていますか。

楠木:コロナ禍以降、琴平の動きは活発になっています。2021年に勉強会や飲み会を盛んに開き、その中でお互いにこんなことをやりたい、それだったらこの部分はうちができると言い合う関係性が生まれました。その関係性をベースにさまざまなものを混ぜ合わせて協業しているところが活発になった要因だと思います。

西井:人を巻き込むヒントは。

楠木:まちづくりの団体でよくあるように、今年度はこれで行くぞと一つに絞るのではなく、僕はこれをやりたい、わたしはこれをやりたいという想いを否定せず、これもやろう、あれもやろうと取り組んでいる関係性が大切だと思います。池さんから学んだことが、こう生かせるんじゃないかとアイデアの広がりにつながっているなど、得意分野を相互に生かし合うコミュニティーの力がポイントだと思います。

近江:飲み会ですね。コロナ禍の中、懇親会の端で楽しいことを求めて語り合っていた夢物語が現実になっています。

池:冗談みたいに言っていたことから発想が広がります。歴史文化を共有しつつ、ノーアイデアで話すことが、人を巻き込み良い結果につながる秘訣ではないでしょうか。

全員での記念写真
近江淳氏と池龍太郎氏がパソコンを持っていて、そのパソコン内でビデオ通話で写っている楠木泰二朗氏の写真