[2025年9月4日]
ID:74671
株式会社HONE 代表取締役 桜井 貴斗氏
「ゼロからはじめる地方マーケティング~実際の地方の事例をご紹介~」
当社は、静岡市に本社を置き、「地方に骨のあるマーケティングを実装する」をミッションに、日本で最も地方マーケティングに強い会社を目指して事業を展開しています。マーケティングには、SNSや動画、SEOなどいろいろな考え方がありますが、当社では現場に行き顧客と話をすることを第一義に、年間50カ所くらいの地方を回って幅広く支援しています。戦略と戦術だけでなく実装までを一気通貫で支援するのが特長で、北は北海道の稚内から、南は鹿児島県の大隅半島まで日本全国での実績があります。
産学官の3分野に対応し、「産」での現場の経営や事業課題に向き合った支援をはじめ、「官」向けにはワークショップによる研修、「学」では大学や専門学校などでの非常勤講師としての教育事業を行っています。そのほか、民泊事業では、静岡市・用宗(もちむね)地区の古民家をセルフリフォームして14人宿泊できる施設を今年3月から運営し、地域の魅力を可視化して関わる人を増やしていく仕組み作りに取り組んでいます。現在、2棟目として天王町にある築60年の古民家改修に向けクラウドファンディングに挑戦中です。ちなみに、社名のHONEは能力や技能などを磨く「砥石」と全体を支える「骨」の2つの意味から名付けました。
10年くらい地方マーケティングに携わり、商品開発や新サービスの立ち上げを支援してきました。例えば、静岡県牧之原市のブロッコリーのマーケティングでは、市場調査で得た包丁を使わずに最初の一品になるものが欲しいという声から、カット済みのものを袋に詰めてそのまま電子レンジで温められる商品を開発。天竜区では、コロナ禍で日本酒の生酒が廃棄されている課題を受け、日本酒をワイン樽で熟成した古酒を商品化し、捨てられない酒を提案。人口6000人の川根本町では、静岡の木材でバレルサウナを作った貸し切りサウナブランドを立ち上げました。
県外の例では、北海道の稚内にある創業103年のローカルスーパー・相沢食料百貨店は、人口3万人を切る中での生き残り戦略として、ECを活用して旬の食品を販売する「おうちであいざわ1万円セット」を導入しています。
より詳しく、商品開発支援の流れを紹介します。静岡県の農家からのサツマイモを売りたいという課題では、干し芋はよく食べるが携帯しないという人が9割を占めており、「本当は持ち歩きたい」という潜在ニーズがあることが分かり、「持ち歩ける無添加おやつ」を提案しました。コンビニで売られている干し芋はすべて海外産で添加物や砂糖を加えている商品で、「国産・無添加」、「バッグに入るパッケージ」、「リピートできる価格帯」、「チョコやグミの代替品になること」をキーワードに商品を開発。クラウドファンディングMakuakeで「無添加ほしいもおやつ 糖度58度を持ち歩く」をキャッチコピーにプロジェクトを立ち上げたところ、サポーター263人、約129万円の応援購入があり、どういう人が買っていて、どういう人に響いたかを調査。その結果、「子ども」、「食事制限」、「グルテンフリー」がターゲットとなることが分かり、静岡県産「紅金波」を使用し砂糖・保存料を使わず、手軽につまめるキューブ型の干し芋を保存できるチャック付きで持ち歩きたくなるおしゃれなパッケージに詰め込んだ商品が完成し、今では静岡のスーパーやドラッグストアに並び支持されています。
商品開発だけでなく、古民家カフェや、大分県の人口11人の離島のマーケティングなど空間プロデュースも支援しています。大分の離島・深島は海がきれいで魅力的な場所ですが、温泉などもなく観光地ではありません。この島を無人島にしないために考えたのが、何もない場所=リラックスでき深呼吸できる島というコンセプトです。1日1組限定で、島の食材を使ったフルコースが堪能でき、風や波の音とともにゆったりと島の時間を過ごせる、のんびりしたい人向けのプランを作りました。地域が生き残るには、自分だったらどうするか、何に手を出すかを考えて支援することが重要で、実際にさまざまな地域に足を運ぶことで、静岡だけの活動では気付くことができなかった多くの学びや経験を得ることができました。
地方マーケティングに必要なのは地域を理解することで、市場のボリューム、市場での勝ち筋、競合優位性など市場環境の分析が欠かせません。その一つの手段としてGHIL分析があります。地理(Geography)、歴史(History)、産業(Industry)、生活(Life)の頭文字を取ったもので、地域活性化のマーケティングモデルにおける地域資源の「着眼」と「編集」を容易にするためのフレームワークです。地理は、対象地域の立地条件や自然環境、交通環境など、歴史は伝統や文化、産業は地域が有する農業や漁業、畜産などの1次産業や2次、3次産業など、生活は今を生きる地域の人々によって形成される社会構成を示します。対象地域にどのような地域資源があるかを、基本情報の収集や、住民や関係者へのインタビューなど定量・定性調査から発見し、それらをGHILの4項目で整理します。インタビューやアンケートは、産学官さまざまな立場の人を対象に実施し、各カテゴリで10件以上のキーとなる地域資源リストを作り、その中から5個くらいにピックアップします。
それを基に、地域の核となるマーケティングや地域の強みの説を立てます。
例えば、民泊宿のある用宗地区の場合は、【地理】駿河湾に面した豊かな海洋環境と景観、温暖な気候と多彩な農産物、【歴史】駿持舟城と地名の由来、江戸時代の港町としての発展、【産業】駿河湾の幸・シラス漁業、クラフトビール産業、【生活】海の幸中心の食文化、地域祭りとコミュニティなどが挙げられます。それらを地理×歴史、産業×生活などクロスさせて分析していき「駿河湾×持舟城=富士山×海!絶景古城アドベンチャー」や「シラス漁×漁師飯=獲って、作って、食べよう!用宗シラス漁体験」など地域資源の着眼と編集により地域価値を創造していくのです。
GHIL分析は地方マーケティングの中の1つの立ち位置です。地域独自の強みを特定する「VRIO(価値、希少性、模倣困難性、組織)分析」や共有価値の戦略設計など総合的に考え実行しないといけません。まずは、ワークショップを通して自分たちの地域のGHIL分析を実践してみましょう。
今はアイデアベースですが、リサーチしたうえでアイデアに落とし込めばロジックの立ったものになります。
ぜひ、会社や職場に持ち帰り、さまざまなアイデアを考え整理することで地方マーケティングに生かしてもらえればと思います。
GHILフレームは、単なるデータ収集に留まらず、地域の未来や誇りにつながる「語れる価値」を創出する点に大きな魅力があります。ぜひ、ご自身の地域でもGHIL分析に取り組んでみてください。