[2026年3月23日]
ID:79817
うきはの宝株式会社
代表取締役 大熊 充氏
「ばあちゃんは地域の宝 75歳以上のばあちゃんたちが活躍する会社“生きがいと収入を生む、ばあちゃんビジネスが描く地域の未来”」



私は、20歳代でデザイン事務所を創業した後、地域の課題解決のために何かできることがないかと専門学校でグラフィックデザインとソーシャルデザインを勉強。在学中に、社会起業家育成のボーダレスジャパン主宰のボーダレスアカデミー二期福岡校を卒業して、2019年10月に高齢者率60%以上の地元福岡県うきは市で75歳以上のおばあちゃんたちが働ける会社「うきはの宝株式会社」を設立しました。干し芋や明太子などおばあちゃんの手作り料理を通販などで販売する食品ブランド「ばあちゃん飯」、全国のおばあちゃんを取材し発信する「ばあちゃん新聞」、空き家活用の一環として出店する「ばあちゃん喫茶」などを展開するほか、厚生労働省や自治体の委員として高齢者の活躍や就労分野を支援したり、専門学校や大学で非常勤講師としてソーシャルデザインを教えています。
会社設立前と合わせて約10年間“ばあちゃんビジネス”を行ってきましたが、はじめの5年間は「こんな会社成立しない」など批判の連続でした。あきらめずに高齢者が活躍できる地域づくりに取り組んだことで、首相官邸から持続可能な先進事例として公式に広報されたほか、2024年にはグッドデザイン賞BEST100を受賞するなど評価され始めました。過疎地域でスタートしましたが、直営だけでなく、フランチャイズや企業連携、プロデュースなどで全国へと徐々に広めています。
当社の従業員の平均年齢は84歳で、90歳を超えるおばあちゃんも活躍しています。超高齢化社会となり、多くの高齢者が体は元気に動くけど、年金だけでは生活が苦しく、できることがなく生きがいを失っています。高齢者がお荷物という社会風潮の中で、一緒に働くという機運を高めようと取り組んできました。社会との接点が生まれ働きがいを感じることで女性はきれいであろうと目に見えて若返り、当社のおばあちゃんは、生きがいと収入を得ながら生き生きと働いています。認知症や加齢、老化を抑える効果も出てきており、この取り組みが広がれば、社会保障や医療費の削減にもつながると考えています。

「ばあちゃん喫茶」は、お客さんからの「ありがとう」の声でやりがいや生きがいが生まれやすく、社会性が取り戻せるメリットが高い事業です。あるおばあちゃんは、認知症の症状があり、息子が好きなトンカツを毎日作り続けていました。喫茶で調理に携わってもらうことで生き生きとトンカツ定食を作ってくれ、お客さんから多くの「おいしい」の声をもらっています。1年近くが経ち、過去に得意料理としていた唐揚げの味も復刻できました。日本は近く認知症患者が10人に1人の時代になることに危機感を覚えており、介護や医療だけでなく地域が接点を持つことが課題解決に重要だと実感しています。

事業を展開する中で大切にしていることは、私がいなくなってもスムーズに引き継げるなど持続可能性があるビジネスにすることです。非営利組織で展開してもいいのですが、循環させるために株式会社化してビジネスにこだわっています。海外で研究された「ikigaiチャート」では、生きがいを得るためには(1)好きで(2)得意で(3)お金になり(4)需要があることとされており、ビジネスと類似しています。生きがいには、お金になることが重要視されるため、適正にお金をもらえるよう商品やサービスの品質を高め、それをおばあちゃんたちと一緒に頑張って作り上げることで歯車が噛み合い、長く続くビジネスとして循環します。保護するのではなく、協働する機会を創出することが重要で、当社では18歳から93歳が協力して働く「多世代型協働」として、あくまで主役はおばあちゃんで、若い人が裏方で支援する組織を目指しています。じいちゃんビジネスも展開していますがプライドが高く苦戦しています。あきらめずにやっていきたいと思います。
ビジネスのキーワードは「教育(今日行く)と教養(今日用)」と表現しており、教育は“今日行く場所”、教養は“今日やる用事”を提供することです。年金プラス月に2万円から3万円の収入があれば生活が楽になるという方が多いですが、収入の大小と幸福度は比例しません。無理して働くことよりも、週に1、2回、午前中のみの短時間など1万円や3000円程度でもいいので楽しく適度に働くことができる場としてアルバイトや委託、謝礼などで契約することが多いです。
事業を考える上では、商品やサービスを売りたいからこそ、顧客との接点をモノからにしないように意識しています。ヒトやコトから接点を作り最終的にモノを売るという流れです。おばあちゃん一人ひとりにストーリーがあります。それにより、おばあちゃんにファンが付き応援や購買につながります。我々はたいしたことはしていません。

現在の収益構造は、事業開始当初80%を占めていたECでの小売や通販が20%ととなり、卸売りやスポンサータイアップなど対企業が22%、喫茶5%、新聞28%、コンサル・講演20%、販売権・ライセンス料など権利収入5%です。おばあちゃんに過度に負担がなく働ける仕事があるかどうかが重要で、儲かれば何でもいいではありません。業務の合理化を追求すれば、おばあちゃんじゃない方がいいとなってしまいます。これからも、おじいちゃん、おばあちゃんの声を直接聞く一次情報に触れ、笑顔を増やす事業を拡大し、地域課題解決策として全国への拡大に挑戦します。
うきはの宝株式会社 代表取締役 大熊 充氏 × 株式会社ちゅうぎんキャピタルパートナーズ 取締役 石元 玲氏


石元:ばあちゃんビジネスにたどり着いた原体験を教えてください。
大熊: 20歳くらいの時にバイク事故を起こし生死をさまよい自暴自棄になったことがあり、その際心を支えてくれたのが病院で出会ったおばあちゃんでした。それから人生をかけておばあちゃんたちに恩返ししたいと思うようになりました。生まれ育ったうきは市では、高齢者率が高く恩があるおばあちゃんに絞って地域に貢献したいと事業を立ち上げました。
石元:社名の「うきはの宝」や「ばあちゃん喫茶」などいいネーミングですね。
大熊:おばあちゃんたちは、若い世代が持ち得ないたくさんの知恵と経験、「知財」を持っています。その「知財=地域の宝」を若い世代へ伝承する仕組み作りを目指しています。おばあちゃん喫茶など、“お”を付けることも考えましたが、付けると距離感が出るので、あえて“ばあちゃん”と親しみのある名称にしています。
石元:おじいちゃんビジネスのアイデアは。
大熊:考えている分野は「教育、防災、防犯」です。教育では、高齢者がデジタルが苦手なことによる社会的な機会損失が大きいと感じており、おじいちゃんをスマホやデジタルが使えるよう教育して、高齢者のデジタル化を推進する「じいばあDX」を考えています。70歳代前半まではデジタル人材はいるのですが、80、90歳代はあきらめようというのが世の中の風潮と感じています。実行する人員や工数などがかかり、最初はパワーがいると思いますが、企業や自治体を巻き込み最後の大仕事として取り組みたいと思います。
石元:いままでどのような批判を受けましたか。
大熊:「こんなもの続くはずがない」、「強制労働させられる」、「報酬を払うのは嘘にちがいない」、「高齢者を働かせるのは不謹慎」、「布団を売りつけられるのでは」などさまざまなことを言われました。信念を貫き継続することで、徐々に世間の評価が変わり、地元でも悪く言われなくなりました。現在はさまざまな賞を受賞するなど評価されていますが、その時々により評価は変わるため、良いことも悪いことも「言わせておけ」と冷静に見るようにしています。
石元:どうやって地域とかかわっていますか。
大熊:全国組織で地域に拠点のある高齢者の会と連携するなど、アクティブに動ける高齢者を巻き込むことが重要です。会長や元会長などを尋ねて想いを伝えて、リーダーの火を付けると何十人もの方が活動に参加してくれます。リーダーは市長や町長などと人脈を持っていることも多く、自治体とのつながりも得られています。しっかりとコミュニケーションをとることが大切で、「聞いてない、知らなかった」というのが信頼関係を崩します。きちんとこまめに連絡しておけばトラブルはほとんどありません。一人の力で地域全体を巻き込むという考えではなく、もともと地域で人脈を持っている人の力を借りて広めるよう心掛けています。
石元:最後にメッセージを
大熊:ビジネスですべての地域課題を解決できるとは思いませんが、起業家として挑戦したいとスタートしました。当事者のおばあちゃんを見つめ続けることでその先の地域課題が見え、解決して人々を活性化させることでエリアを活性化することができます。これからも愚直におじいちゃん、おばあちゃんを中心に活動していきます。みなさんも、さまざまな地域課題の解決を目指してどんどん突き進んでください。

