[2025年9月4日]
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株式会社OMOI 代表取締役 川村 諒志氏
「地域で多ブランドを展開して、豊かな地域を目指す経営戦略とは」
当社は、2020年に創業し鳥取県内に食品販売や美容など8つのブランドを立ち上げました。地方に移住して製造小売業というある意味アナログな事業にこだわっており、コンサル事業と合わせて展開しています。
起業のきっかけは、名古屋市の出身で、川が好きな父親と一緒に銚子川でよく遊んでいたことから自然が好きになり、「いつかきれいな川の近くで暮らす村を作りたい」と思ったことです。
大学の頃は、図書館にこもって本を読むのが趣味で、その中で経営コンサルタントという職種を知り、地域を良くする仕事に携わりたい、地方の中小企業を応援したいと考え、船井総研に入社しました。
将来の起業を見据えていたため「5年で辞める」と伝えた上で入社させてくれたことに感謝しています。
美容部門や教育部門、食品部門を経験したのですが、誰よりも仕事を多く、長時間やるという意識で業務に取り組み、地域のものを使った食品ビジネスについてさまざまな知識を得ることができました。
入社から4年で退社し、鳥取県に移住して株式会社OMOIを立ち上げ起業しました。なぜ鳥取県を選んだのかというと、人口が日本で一番少なく、起業家も少ないため、より社会性があり、応援してもらえると考えたからです。会社のミッションとして、「日本の地方人口が減少しても、豊かな地方を作る」ことを掲げ、地域を代表し100年以上続くブランドを作り、地域に資源が循環する仕組みづくりに取り組んでいます。1年に1ブランドを立ち上げることを目標としており、多くのブランドをつくることで周囲から自分も挑戦してみたいと感じる人が出てくればと思っています。
2020年に第1号ブランドとして、鳥取砂丘の前でプリン専門店を立ち上げました。
コロナ禍でのスタートでしたが、翌年には同じ鳥取砂丘で、大山の氷を使ったかき氷の専門店を出店、以降、生チョコレート専門店、三朝温泉での三朝ヨーグルト、皆生温泉での塩どら焼きと広げ、痩身サロンや小顔矯正サロンもオープンしています。
2030年までの5年間で9ブランドを展開する予定です。
ブランドをつくる上で意識していることは、マーケットの規模、時流に適合しているか、一番を取れるか、鳥取らしさがあるかの4点です。マーケットでは、国民一人当たりの消費量などを調べ、成長性のあるカテゴリを探り、流行ではなく時代の風潮や思想の傾向を示す時流に乗っていて、一番を取れるものを発掘し、そこに鳥取らしさを加えます。例えば、プリンであれば砂丘の砂に見立てた粉末カラメルを付けて「砂プリン」として商品化しました。店舗を展開することはリスクも伴いますが、地方は、いい場所だがお金を使うタイミングがないというケースもあり、できる限り観光客が利用できるようにしたいと思っています。安定した売り上げを得られるよう店舗売り上げとネット通販の比率が1対1になることを目指しています。
地方の店舗ビジネスで大切なことは、とにかく負けない店舗づくりを目指すこと。マーケットの大きいものを専門店化し、店舗の広さや運営人員を極力抑え、製造生産性を高めて1万個など安定して生産できるようなブランドが理想です。
村をつくるために必要なことは、いかにお金を生み出す力を付けるかです。事業領域を絞り、山陰と岡山県北地域で菓子と土産を中心に売り上げを伸ばしていきたいと考えています。今秋には、湯原温泉でのブランドをスタートする予定です。多ブランド化は、メリットとデメリットがありますが、私の場合は、飽き性でいろいろなことがやりたいという部分が大きいので向いていると感じています。リスク分散が図れますし、スタッフ一人ひとりが主役となり、ブランドを育てることでやりがいが生まれ定着率が高まるメリットもあります。一方でデメリットは、成長速度が遅いことです。
今まで失敗してきたこともあります。かき氷店でのプロジェクションマッピングや、砂丘を3Dモデル化した通信販売など大きな間違った投資や、マネージャーのスキルだけで売り上げを上げていたなど属人化した店舗経営などです。現在は、スタッフを育てるために、評価制度やマネジメントの仕組みを構築しています。スタッフが将来、どんどん新しいブランドを生み出せるように等級に分けて評価していきます。
目指すのは、ブランドづくりをみんなで応援できる仕組みを作ること。
地域で成長した企業が利益の1%を基金に入れて、起業家に対してスタート資金だけでなく、ノウハウ、製造設備、顧客基盤、スタッフ、バックオフィスなどを支援します。
企業、住民、行政、政治などいろいろな立場の人を巻き込むことで、雇用を生み出し、人口を増やすことができます。自然を生かしながら好循環を生み出せるよう今後も挑戦していきます。
株式会社OMOI 代表取締役 川村 諒志氏 × 株式会社ちゅうぎんキャピタルパートナーズ 取締役 石元 玲氏
石元:多ブランドの展開は大変と思うが、再現性のある事業化に向けてどう取り組んでいますか。
川村:売り上げの方程式を持っていて、菓子、美容業それぞれにパターンがあります。食品の場合は一般的に個数×客単価=売上ですが、専門店なので、単品の年間消費金額×商圏人口×シェア率=売上で出しています。商圏の限られたローカルビジネスに合っていると感じています。複数パターンを用意し、計画を組み上げており、売り上げの予測をいかに外さないかが重要です。
石元:ブランドを立ち上げる上でのアイデアはどのように得ていますか。
川村:全国の地域を回っています。鳥取にあれば面白いな、鳥取ならもっと特色を出せるなどと考えながらアイデアを練り事業化につなげる形です。今現在、やりたいことは70くらいあります。例えば、鳥取には地元漫画家が「名探偵コナン」や「ゲゲゲの鬼太郎」といった名作を生み出しており、かつて富士急ハイランドが復活した際のコンテンツとなった謎解きとお化け屋敷を組み合わせて「謎解きお化け屋敷」なんかを企画すれば鳥取らしくて面白いと考えています。
石元:100年以上続くブランドを目指すうえで、何を変えて何を残すか。
川村:時代時代でおいしさの定義は変わるので、味は変わってもいいと思います。原料も地元産100%が理想ですが、変わっていくと考えています。おいしいものを届けるという想いは常に変わってはいけません。
石元:従業員の卒業やのれん分けについてどう考えていますか。
川村:会社からの独立は喜んで受け入れます。村を作るのがゴールなので、卒業生と一緒に取り組みたいですね。僕は、畑とか道をきれいにしているだけで、プレイヤーがどんどんやってくれるのが本当の理想です。
石元:事業展開する上での経営計画策定について教えてください。
川村:売り上げ、利益だけでなく、コミュニティビジネスならどんな人を何人つくれた、接触できたなど重要な指標があります。5年後に達成したい目標があるからこそ、そこにたどり着くことができます。具体的な目標がないと会社としてどこに向かっていいのか分からなくなります。定期的に策定しブラッシュアップしていくことが重要と考えています。
石元:周囲の経営者の経営計画に対する考え方や取り組みはどうですか。
川村:地域では、5カ年計画の具体的な数字や投資金額、キャッシュフローがどれくらい残り必要かを落とし込んでいる経営者は少ないと感じています。お金は必要なので大切な要素だと感じている経営者や仲間もあり、広められればと思います。スモールビジネスは今が評価されがちで、金融機関などから5年後のビジョンを見られることが少ないことも要因と思います。ローカル企業も採用難になるので、ビジョンや計画がない会社は魅力的に見えないので、必要となるでしょう。
石元:最後にメッセージを。
川村:地域には、人、自然など多くの魅力があります。地域が抱える課題に対して、地域同士で情報交換、共有することで解決の糸口が見えてきます。いろいろな地域が一丸となることで日本を良くしていきましょう。