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戦争・戦災体験記:岡山大空襲

[2010年3月12日]

ID:12463

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岡山大空襲 岩井 里子 73歳

1945年(昭和20年)6月29日未明、岡山大空襲の日、あの日の事は何十年経た今でも涙がにじみます。当時13歳だった私は、岡山市奉還町通りで餅屋をしていた父と母、14歳の姉、11歳の妹、6歳の弟と6人家族で仲良く暮らしていました。
真夜中の事、階下から「空襲だ!早く起きて。」と母の大きな声でびっくりして飛び起きました。いつ空襲があるかわからないので、枕元にきちんと畳んであるモンペを大急ぎで着て、隣に寝ている弟にも服を着せて、2階の窓を開けて東の方を見みると岡山駅あたりが真っ赤に燃え上がっていました。母は救急袋を肩に掛け、塩のざるを持ち出し「塩さえあれば何日かは生き延びられるから。」と言ったので、わし掴かみにしてポケットに入れました。私は弟の手を引いて一家6人、久し振りに昨夜から泊まりに来ていた早島の伯母と7人で西に向かいて逃げました。
旧西警察署の前のあたりまで逃げてきた時、私は突然大きなショックを受け、それっきり意識不明になってしまいました。どの位の時間が経過したのか解りませんが、うっすらと意識が回復しかけた時、私は路上に横たわり両足左腕がひりひりして痛い、だんだん意識がはっきりするにつれ痛たさも激しさを増したので上半身を起こすと、意識を失なう前と全く異なり、武本木材店や、そこらの住宅からも火の手が上がり路上には何人もの人が転がっています。肉親を探す叫び声や走り回っている人やらで修羅場と化していました。
見ると私が手を引いていた弟も転がっています。そうこうしていると母がやってきて、慶ちゃん(妹)が死んだと言います。色白だった妹は顔はきれいなのに、お尻のたぶが半分とんで即死だったそうです。母が弟を抱き上げると全身火傷で、虫の息の下から「お水お水」と言うけれど断水して水もないので母は、からからの喉から唾を出して飲ましてやったら間もなく弟も息を引取りました。
田植え前で田んぼに水が張ってあり、それに燃えあがる炎の赤い影が揺らめいていた事をはっきり覚えています。
西署前の大通りより少し北に入った所に被服工場の若草寮というのがあって、そこに父や姉も収容されているとの事で、私も気が立っていたので、痛い足を引きずりながらも寮へ辿りつきました。停電して暗闇の中でしたが大勢の怪我人や焼死した人が収容されていました。その中で姉も全身火傷で意識はありますが、あまり言葉も出ず苦るしんでいます。一番頼りの父まで大火傷で心臓のすぐ横に焼夷弾の破片がささっている由、けれども意識ははっきりしていて家族の事を心配していました。「わしが死んだらお前が困まる!わしが死んだらお前が困まる!」と母に言っていました。父は店の事、餅屋組合の事、町内の事とお世話が多く、達筆でソロバンも達者でしたので、皆から頼られていました。母は、荷に付いた瓢箪で父についていっていたようです。
まだ夜が明けない内に父の臨終が来ました。しかし灯がないものですからマッチをすりすり父の死に顔を見ました。一瞬の出来事であまりにも過酷な現実に頭がついていけないのか、涙が出なかったような気がします。母が「お父ちゃんも慶ちゃん(妹)も務ちゃん(弟)も死んだ。八重ちゃん(姉)と里ちゃん(私)と三人で頑張って暮らそう。」と言うと姉は頷ずいた様でしたが、夜が白らむ頃には息を引き取りました。とうとう二人きりになってしまいました。
家族が次々に死に、一度に力が抜けてしまうと今度は自分の火傷に気が付き、見ると両足首左腕に大きな水ぶくれが幾つも出来ていて一歩も歩けません。少し熱も出てきた様です。遺体を荼毘に伏すのも各自で始末してくれとの事、女子供ではどうする事も出来ないので、西京町に住んでいる伯父に手伝ってもらって自宅の焼け跡で雨の中、4人のお棺を焼いたのです。私は大火傷で高い熱が出て、伯父の家で寝ていたので、その場に立ち会えませんでしたが、その場にいた母の心情を思うと断腸の念で、いたたまれない気がします。まるで地獄絵の様だったと言います。岡山に居たのでは、私の治療は出来ないと一週間程して、早島の伯母の家に疎開しました。何もかも失なった私達母娘のその後の暮らしは、筆舌に尽しがたいものがあります。
現在の平和は尊いものです。戦争はむなしいものです。戦争を知らない若い世代の人に少しでも分かってもらいたく、重い筆をとった次第です。

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