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企画展示「明治時代の岡山の彫刻師 丸山三造」

[2020年4月7日]

ID:21175

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  • 会期
    令和2年4月7日(火曜日)から5月31日(日曜日)まで
    ※期間を延長しました。
    ※月曜休館
    ※臨時休館期間中はご覧いただけません。
  • 場所:岡山市立中央図書館 2階視聴覚ホール前展示コーナー

岡山で明治時代後半を中心に、さまざまな分野の印刷物で木版の彫刻師として活躍した市内・野田屋町の丸山三造に焦点をあて、当館の所蔵品を展示します。
あわせて同時代の他の彫刻師にも触れ、当時の印刷業の様子を紹介します。

岡山の彫刻師 丸山 三造

明治時代の後半を中心に、岡山で発行された印刷物のいくつかに木版の彫刻師として野田屋町の丸山三造の名前が記されています。
いまは活版印刷も少なくなりオフセット印刷が主流ですが、明治時代はまだ精妙な浮世絵の版下を制作した江戸時代の彫刻技術が広く継承されており、印刷物の多くは木版で版下が作られていました。
近世から近代にかけての日本の印刷業の中心は、出版が盛んで読者層が厚い京都・大坂~大阪・江戸~東京の三都市で、彫刻師の仕事についても、精妙な挿絵を彫り抜くことができる卓越した技術はこれらの主要都市が圧倒していました。
しかしその中で、岡山にあっても地図や名所案内図、書物、引札といった広い分野で精彩を放つ作品を残した彫刻師として、市内・野田屋町(現在の北区野田屋町)の丸山三造の名前を忘れられません。
当館には彼の大画面の作品「岡山区市街図」(明治20年)と、「岡山後楽園真図」(明治22年)があります。(「岡山後楽園真図」は令和元年度新収所蔵品です。)また彼は学校で用いられた教科書『小学岡山県誌』の挿絵も担当しています。
彼は生没年も名前の正確な読み方も不詳ですが、岡山の人物事典『名士片々録』(大正15年発行)に掲載が見送られた形跡があるので、その直前まで存命であったようです。彼が明治維新頃の出生なら75歳頃に没したことになり、先の作品は20歳代のもの。しかし85歳頃まで存命だったなら幕末の生まれで、作品は30歳代のものとなります。

「岡山区市街図」(明治20年)

「岡山区市街図」(明治20年)原画:根岸清年、彫刻:丸山三造

「岡山区」とは、明治22年に市制が施行されるより前の行政制度です。この図の中心に表されている岡山の市街は、いくつかの小区に色分けされています。これを囲んで周囲に小さな枠が並び、その中に県庁、区役所、郵便局、病院、後楽園、京橋などの岡山の名所や施設が描かれています。
どれも当時の岡山のまちの風景をしのぶのに貴重な画像ですが、岡山の彫刻師の中でも、とくに丸山三造が大都市の職人に劣らない高い技量をもっていたことがうかがえる作品です。
原画を描いた根岸清年については、まだよくわかっていません。

「岡山後楽園真図」(明治22年)

「岡山後楽園真図」(明治22年)著作:木畑道夫、原画:岡本常彦、彫刻:丸山三造

岡山藩の藩医の家に生まれた木畑道夫(1824~1904年)は、岡山城や後楽園を文化遺産として保存することを訴え、藩政期の文書記録の整理と研究に取り組んだ、明治時代の岡山を代表する歴史研究者として知られています。
この図は木畑道夫が後楽園を解説し、岡本豊彦(幕末に京都で活躍した日本画家)の甥で、後半生を岡山で過ごした日本画家の岡本常彦が原画を描き、丸山三造が木版の版下を彫って作成されています。
明治22年の後楽園の様子を具体的に詳しく知ることができる資料です。

岡山の引き札と丸山三造

限られた得意先との取引が濃密であった昔の商習慣では、支払いはその都度の現金払いではなく、帳簿へつけて盆と暮れにまとめて集金されるのが普通で、手代が掛け取りにまわるとき、末永い愛顧を願って盆には団扇を、暮れには引札を配って挨拶したものでした。したがって、引札は広告チラシと異なり、もらった人が愛着をもって保存し、家に飾るように、印刷の技術を尽くした美しい図柄が描かれたり、新年の暦をあしらったりしました。
引札の贈答は明治20~30年代が最盛期でしたが、その頃は高い技術を誇った大阪の古島印刷所と中井印刷所が全国を席捲し、引札の図柄の部分はこの2社と関連会社の独占状態でした。その引札は一部に空白を残し、そこへ地方の彫刻師が木版の一色で商店の名入れ(業種、名前、住所の刷り入れ)をして、配ろうとしている商店へ納品されました。
岡山でも引札に3名の彫刻師(丸山三造、吉田栄治郎、八木柳蔵)の名前が残っていますが、いずれも上記の大阪の印刷会社の製品に名入れをしただけの場合が多いです。
しかし当館所蔵の「金物商并に砂糖、岡山市森下町、新屋」(明治40年)には丸山三造が「印刷兼発行人」として刊記を入れており、彼は名入れをするだけでなく、全体をプロデュースする場合もあったことがわかります。
また、彼が自分の店のものとして配った引札「萬摺物調進所 彫刻師 丸山三造」も、その技量からすれば自身で製作に力を入れたものでしょう。

引札「金物商并に砂糖 岡山市森下町 新屋」(明治40年)

引札「金物商并に砂糖 岡山市森下町 新屋」(明治40年)印刷兼発行人:岡山市野田屋町 丸山三造

新年の暦に恵比寿・大黒の図を添えたこの引札は、下端に丸山三造が「印刷兼発行人」として刊記を入れているので、彼が全体を製作したことがわかります。
新年を迎えるにあたって得意先へ暦を贈る習慣は、現代においてもカレンダーの配布となって連綿と続いています。

引札「萬摺物調進所 岡山市野田屋町 彫刻師 丸山三造」

引札「萬摺物調進所 岡山市野田屋町 彫刻師 丸山三造」印刷発行:記載なし、商店名入れ:記載なし

丸山三造が自分の店の紹介で配ったこの引札も、彼の技量からすれば、商店名の名入れだけではなく、自身で製作したとみてよいかも知れません。優美な菊の図柄が表されていますが、大阪の印刷所のものと比べると、やや描写が平板な感じはします。
業種に「御年玉ちらし(=引札)」、「御色入り団扇」、「御名刺」を掲げています。うちわと引札は、それぞれ盆と暮れの配りものです。

引札「丁字香 岡山市紙屋町 くこ油本舗 桔梗屋」

引札「丁字香 岡山市紙屋町 くこ油本舗 桔梗屋」印刷発行:記載なし、商店名入れ:岡山市野田屋町 丸山三造

めでたい松に初日を添えたこの引札は、右の欄外に商店の名入れをした彫刻師を示す「岡山市野田屋町 団扇商 丸山三造」の朱印が押されています。
丁字香は江戸時代から続いてきた岡山名産の鬢付け香油で、京橋西詰めにあった木屋が有名ですが、この引札は紙屋町(現、北区表町)にあった桔梗屋のものです。

岡山のその他の彫刻師

吉田栄治郎は、旭川のそばの船着町(現、北区京橋町、京橋南町)で営業し、丸山三造と並んで多くの引札に名入れを行っています。
彼の店の様子は、堺市の川崎源太郎が編集・発行した岡山市内の商店の案内書『山陽吉備之魁』(明治16年)に描かれています。これは携帯にも便利そうなポケットサイズの小さな本ですが、細密な銅版画で、客と店員が店先で商談をする様子と、多くの弟子や職人を抱えていたのでしょうか、その奥で複数の彫刻師が作業する様子が描かれています。そして棚にはさまざまな製品が並び、床の間には画軸が掛けられています。
店の看板には「印判版木彫刻所」と記されているので、彼は紙の印刷物よりも印判の彫刻を得意としていたらしく、さらに印肉も取扱っていたようです。

八木柳蔵は、岡山藩士の子孫で士族ですが、はじめは小橋の西詰めの中島町(現、北区東中島町)に店を構えており、やがて当初は支店であった中ノ町(現、北区表町)へ移っています。彼が名入れをした引札が、当館には1点だけ所蔵されています。
さきほどの『山陽吉備之魁』には、「印判彫刻所」として彼の店の広告も出ています。

吉田栄治郎の印判版木彫刻所の広告(『山陽吉備之魁』より)

吉田栄治郎の印判版木彫刻所の広告(『山陽吉備之魁』より)※ここでの表記は「栄二郎」

八木柳蔵の印刷彫刻所の広告(左)

八木柳蔵の印刷彫刻所の広告(左)(『山陽吉備之魁』より)

引札「内外砂糖卸売所 岡山市橋本町 小野定吉」(明治30年)

引札「内外砂糖卸売所 岡山市橋本町 小野定吉」(明治30年)印刷発行:大阪市南区鰻谷町 中井徳次郎、商店名入れ:岡山市船着町 吉田栄治郎

色紙型の中に「毎度御引立てを蒙り有難く謝し奉り候、当本年も相変わらず倍旧御愛顧の程、希い上げ奉り候」と書かれていることから、得意先へ引札を配った目的がわかります。色調といいレイアウトといい、品格のある整ったデザインの、大阪の中井印刷所による引札です。
砂糖卸商、小野定吉の引札は、吉田栄治郎がずっと名入れをしています。

引札「内外砂糖卸売所 岡山市橋本町 小野定吉」

引札「内外砂糖卸売所 岡山市橋本町 小野定吉」印刷発行:大阪市平野区 藤井為倫、商店名入れ:岡山市船着町 吉田栄治郎

引札の欄外の刊記に、図柄を描いた大阪の印刷会社の社主の名前の印刷と、商店の名入れをした岡山の彫刻師の名前の押印があります。
この引札の原画は、明治時代に京阪神地方の浮世絵師の第一人者とみなされるほど高い評判を得ていた二代目長谷川貞信が描いています。

引札「染手拭卸商 岡山新西大寺町 国富嘉三郎」(明治17年)

引札「染手拭卸商 岡山新西大寺町 国富嘉三郎」(明治17年)銅刻:大阪 河井春栄堂、出版:大阪東区久宝寺町 京極楳吉、商店名入れ:吉田栄治郎

展示の図録

関連情報

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