ヤブツバキ

ヤブツバキ


  かつて朝鮮半島の各地に、草堂という庵がつくられていた。これは、栄達には目もくれない無位無官の学者、文化人の美意識から生まれた小さな草庵であり、精神性の極めて高いものである。
  千利休が建てた侍庵という茶室はこの草堂を模したもののようで、たった二畳という狭いものである。それでも主客向かい合って座するには充分で、むしろ、その張りつめた空間の厳しさこそ、利休の念ずる茶の湯の心に通ずる修練の場であったろう。隣国の美と心に深く触れた利休が、朝鮮出兵を企てる秀吉と鋭く対立し、そしてついに破局を迎えたのは、あるいは当然の帰結というべきであろう。
  一輪のヤブツバキこそは、侍庵に最もふさわしい花である。

戻る進むギャラリーへ