[2025年10月15日]
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大阪出身の岩井智幸氏は、地元の飲食店を経て翻訳会社に勤務していたが、2016年に社員研修で瀬戸内国際芸術祭が開かれていた直島と犬島を訪れたことをきっかけに犬島に関心を持ち、2018年1月から毎月島を訪れ、島民と仲良くなったことや島の魅力に惹かれて同年6月に移住した。公益財団法人福武財団に入社し、犬島精錬所美術館で働く中、「島民が主体となって関係人口や移住人口を増やすために何かできることはないか」と感じるようになり、一念発起し2022年に島民と他の移住者とともに一般社団法人犬島ととと倶楽部を設立。法人名の「ととと」には、“島と人とアートと自然”という島の多様な魅力を「と=&=with」でつなぐ役目を果たすことで、島が抱えるさまざまな問題に取り組んでいきたいという想いを込めた。
犬島は人口が30人程で地域コミュニティが衰退する危機に直面しており、島の資源や知恵を活かして、お土産などの商品の開発・販売、ワークショップやガイドツアーを企画・運営し、関係人口の増加に努めている。
犬島にはアート関連しか土産品がなかったことから島独自の土産品づくりに着手。
法人設立の2022年には、島の枇杷(びわ)と柿の葉で作った茶葉を商品化。無人直売所も運営している。
2024年度は、岡山市の「地域活力創出事業補助金」に採択され、島民が育てた柚子とキウイを原料としたクラフトビール作りに挑戦した。使用する柚子とキウイは島の人口が減少する中、おすそ分けでの消費も減り果実の多くが手つかずのまま落ちていく“もったいない”状態となっていたもの。岡山市東区西大寺のビール醸造所「五福工房」と連携し商品化した。岩井氏が運営するカフェスタンドくるりで販売しており、皮も使用することで香り高く、アルコール度数4%と手軽に飲めることから瀬戸内国際芸術祭で訪れた観光客からも好評だった。
犬島全体をキャンパスに、“島のくらしの達人”の島民が先生となってワークショップを実施。夏野菜でのピザ作りや、焼き芋作り、クリスマスリース作り、多肉植物の寄せ植え、竹工作などさまざまな体験を用意しており、参加者は岡山市内外から訪れている。
クラフトビールや、あわせて開発した柑橘ゼリーも活用し、来訪者に犬島の魅力を伝えていきたい。
土産物品の売り上げ、ワークショップやガイドツアーの参加費、官民からの補助金を活動資金としている。
ワークショップやガイドツアーをきっかけに犬島に初めて来た方も多い。アート鑑賞を目的とした単なる観光とは違って、顧客と密な時間を過ごすことができるようになり、島の現状を知ってもらう良い機会となっている。ワークショップは徐々にリピーターも増えており、今後は島への愛着をより深めてもらい、住んでみたい、一緒に活動したいと思ってもらえるよう努めている。
設立当初から移住者だけでなく、島民のおばあちゃんもメンバーに入っており、集落を歩いて神社や旧学校などを案内する島民ならではの生活文化に触れるガイドツアーや、ワークショップで世代間交流が図れるなど深みがある活動となっている。
メンバーそれぞれが仕事を持っており、ととと倶楽部の活動はどうしても隙間時間での対応となるが、ワークショップを毎月やり続けていることや、毎年新しいことに取り組むなど、ペースはゆっくりながらも1つ1つ着実に実行していることで、活動の継続につながっている。
土産品づくり、ワークショップなどの活動は島と客とをつなぐ手段であり、きっかけづくり。犬島を多くの人に知ってもらい、何度も来てもらい、積極的に関わってもらうことが重要。今後は、古民家の整備や海洋ごみ拾いなど、島の環境整備に直接関わるプログラムなど、島が抱える課題を自分事として考えてもらう機会づくりに取り組みたい。「外と島をつなぐ橋渡し役」を目指す。