石の嫁ぎ先

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番町の犬島屋敷

  友人が「番町の聖心教会は犬島にあった石屋さんの親方の家をそのまま移転したそうよ。」というので訪ねてみました。番町一丁目にある聖心教会は就実学園のある表通りより少し北へ入った所にありました。基礎に使われている延べ石はまさしく犬島石で、豪邸に相応しく三段もの立派な延べ石を使っています。昭和40年代までは犬島石といえばこの延べ石が非常に多く搬出されていました。それを眺めておりますと賑わっていた昔が思い起こされカッチンカッチンとノミ音が聞こえたような気がしました。
  表の格子戸を開け中に入るときちんと手入れされた庭があり、その奥が屋敷となっています。中に入りますと、懐かしいなんともいえないほど落ち着いた穏やかな気持ちになりました。
  牧師さんは快くお話をして下さいました。明治時代に犬島の石で財をなした親方が島に建てていた豪邸を、昭和に入りそっくり移築したそうです。明治時代には築港景気と呼ばれ犬島は相当賑わっていました。その頃贅を尽くした建築で、ここに移した時は一回り小さくなっていて75坪あります。この屋敷は栂(つが)普請と呼ばれ、300年物の栂の木を使用しています。栂の木は10センチ角の物をとるのに木が暴れると表現し20センチ角の材木がいるそうです。硬い木なので大工さんが木を削っている時間よりカンナを研いでいる時間の方が多いとか。
  昭和26年に牧師さんが幼少の頃入居されました。教会なのに西洋風に直されず栂普請の良さをそのまま残し大切に使用されています。不思議に思い牧師さんにお尋ねすると私物であってもこのような立派な建物は公の財産であるから大切に保存したいとのお答え。今一番困っていることは修理をする時昔のような職人がいなくなった事だそうです。一部屋敷を壊した時出て来た延べ石があんまり大きく立派だったので、テーブルやイスに造り直したりと、この屋敷に対す牧師さんの熱い思いにとても感動しました。犬島屋敷を岡山に移転してからも70数年屋敷に対する愛情がなければ到底このように大切に守ってないでしょう。
  地元犬島でも昔の親方の立派な家は今はありません。ここにこうして犬島の香りとご縁を感じる屋敷がある事に深く感謝し、心暖かくおいとましました。

 

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