石の嫁ぎ先

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いのりと羽衣「藤本良和先生作」

 香川県綾歌郡宇多津町にある四国化成工業(株)のR&Dセンターをお訪ねしました。戦後まもなく化学繊維原料で操業し、現在では電子化学材料からエクステリアなどの建材まで幅広く手がける研究開発型企業です。
 その研究拠点であるR&Dセンターの玄関前に「いのり」と題した石のモニュメントがありました。高さは約3mあります。犬島の石で昭和63年9月に石彫家の藤本良和氏のよって作られました。天に向かって延びやかにさび石の模様が美しく出ています。これを眺めておりますと、何かお願いがかなうようなおだやかな気持ちになるから不思議です。
 もう一体は、四国化成の発祥地丸亀市港町の丸亀工場にありました。「羽衣」という名で制作されています。羽衣を一目見たときあまりの素晴らしさに思わず「ワアゥー」と感嘆の声をあげました。石の色ってこんなに美しいのか。実に見事に犬島のさび石の良さを表現しています。
 羽衣は全長6.2m奥行き1m高さは台を含めて2.2mある大きな物です。天女が横たわってその上に羽衣がかかっているような感じがしました。平成2年の作品です。2体とも丸亀市本島のホテルの敷地内にあったのを移設しました。
 藤本先生は昭和14年に坂出市で生まれました。先生とは親交が深く石材も犬島より運んだ浜口石材の浜口社長は「これからという58歳で急死なさり残念でたまりません。非常にお元気で直前におまつりのだんじりについて歩かれたのですよ。」と肩を落としていらっしゃいました。
 犬島の石が大変好きで非常に愛され作品を作られています。さび石はひとつひとつ表情が違うので、切り出された石を見てからイメージをふくらませ制作なさったとか。前にご紹介した事のある瀬戸大橋の与島の記念碑も作られた方です。
 奥様の美津子さんは「はじめは前衛の書をしておりましたが、立体が好きな物ですから石の彫刻の方の仕事もするようになりました。犬島の石は特に好きで現地に何回も出かけて納得のいく石を切りだしてもらいました。病気をしたこともなく急な事だったので5年経った今でも信じられません。人間的にも最高の人でした。仏様のままであの世に逝かれたね。と人達がおっしゃて下さいます。」と涙声で話して下さいました。
 犬島へは度々おいでになっていたのに一度もお会いしてないのですが、先生の作品に逢った瞬間千年経っても後世に残るだろうと確信し、ご冥福を祈りながらおいとましました。

「いのり」
「羽衣」

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