岡山市民の文芸
随筆 -第52回(令和2年度)-


カラスのお告げ 長島 恵美子


 七月初めのごみ収集日の朝、出会い頭の主婦と、同時に目を見張った。カラスが袋をつつき生ごみが道に散乱している。
居合わせた3人で清掃した。ひとりが「最近、上の電線にカラスが十羽ほど止まっていてごみ出しが恐い」とも言う。たまたま誰かがごみ袋に網をかけずに放置したのかと思ったが、次の収集日も同様の事態となった。
 狭い市道をはさみ斜め向かいの収集場所を、五十軒ほどが利用している。周辺の立地からして、拙宅の勝手口から最も見通しが良い。収集後に網を畳む当番はいるが、私より十五歳ほど年上のTさんとIさんが、今までよく管理してくださっていた。が、この状況が続くようであれば、見通しが良い私が対策を考えねばなるまい。
 インターネットでカラスの習性を調べる。人間が七色に見える虹は十何色まで識別できる。七歳児ほどの学習能力があり、異変に敏感。他の群れにまでコミュニケーシヨン能力があり、人間の顔を覚える。黄色が苦手だが、透けて見える袋や網に効果はない…撃退グッズは多々あるが、道端では使いにくい。
 次の収集日に観察していると、せっかく町内が交換してくれた丈夫な網を、二匹が器用に口ばしで持ち上げ袋を引きずり出しているではないか。電線にも見張り役なのか数匹居る。私が黄色の傘をさし、黄色の夕オルを首にかけ道に出て睨むと、すべて逃げ去った。
 さて、次の収集日。無花果を守るため知人が自転車のチューブで作ってくれた蛇のおもちゃを、畑から二つ持ち帰り設置した。私も遊び心でカラスと知恵比べだ。小学生や主婦が珍しそぅに眺めて通る。いい案かと思ったが、時々設置場所を効果的に変えねばならない。そして、次の収集日には、なんと一つが持ち去られたのだ。
 結局、キラキラテープを網と周辺に取り付けることで、カラスの鳴き声すら近くで聞こえなくなった。反射光が苦手らしい。
 月末には、すっかりカラス騒動は治まったのだ。その間、カラスを通じて思わぬことに名も知らなかった方々と会話が出来た。亡き母が親しくしていただいた方とは、九月になり農家にピオーネを買いに行く約束もできた。

 新型肺炎の蔓延でソーシャルディスタンスをとりながらも、不安と恐怖の中で人とのつながりを持ち、人の役にたちたいと願う人が増えたとも間く。
 今朝も夜明け前から遠くカラスの声が聞こえる。京山から東へ高く空を飛び立つ群れ。先月の騒動は、「そろそろ地元に目を向け、亡きお父さんに習い近隣に尽くしなさい」というカラスのお告げだったに違いない。
 賢いカラスは私を黄色の不気味なおばさんがいる収集場と仲間に告げたろう。近くの方には最近、ごみ置き場の監視を始めたおばさんと認識していただいたかもしれない。
 貴重な気付きのあったコロナ禍の夏。



現代詩短歌俳句川柳随筆目次
ザ・リット・シティミュージアム