岡山市民の文芸
随筆 -第46回(平成26年度)-


珠玉に巡り合う 遠藤 哲平


 私は六十六歳で勤めをやめて以来、ゴルフや旅行、川柳、囲碁など趣味三昧な日を送っている。二年ほど前から音楽という新たな楽しみが加わった。もともと音痴でカラオケにもほとんど行かない。そんな私が元同級生の薦めでウクレレを始めた。練習はウクレレを弾きながらみんなで合唱するのだが、やってみるとこれが結構楽しい。少しぐらい音程が狂っても目立たないのがいい。
 ほどなくしてハワイアンバンドの一員になった。一員といってもスチールギターやベースといった主役の伴奏をするだけだが、なにかいっぱしのバンドマンになったよう。
 そのうち演奏会に出たり老人ホームへ慰問に出かけるようになった。何回かやっていると一回の演奏が一時間近くになることもあり、聞く方も疲れるだろうと演奏途中に何か気分転換をという話が持ち上がった。綾乃小路きみまろ風に楽しい川柳を披露して、牧伸二のウクレレ漫談「やんなっちゃった節」でコント仕立てにすることにした。喋るのは日ごろへらず口をたたいている私にお鉢が回ってきた。サラリーマン川柳などから面白い句をパクって「いい夫婦 今じゃどうでも いい夫婦」などとやって「あーやんなっちゃった驚いた」とウクレレで締める。本邦初のウクレレ川柳コントだ。実際にやってみると、素人が喋ってもなかなかサマにならぬ。「七十歳にもなって芸人の真似ごとか」と自分で自分を面白がりながら、それらしい台本を考えて練習を重ねた。
 去年の夏ごろから実際にコントを始めた。初めはぎこちなかったが、何度かするうちにいくぶん余裕が出てきて、聞き手が笑ってくれるのが分かるようになった。ある日、あーやんなっちゃった…とやると客席から手拍子が起きたのには感激した。このコントの三分間ほどは私が主役になれる時間となった。そうなると少しでも笑いを取ろうと自作のコントを考えたり、練習にも熱が入る。バンドの世話も積極的にやるようになり、どっぷりとはまった。
 もっと満足してもらおうとこの春からフラダンスとの共演を始めた。生バンドの演奏とフラダンスで、ふんわかした気分になるのか、いずこも拍手喝さい。中には一緒に踊り出す入居者や、バンドの女性メンバーもウクレレを放り投げて踊りの輪に入るなど盛り上がったこともある。あるホームでは演奏後入居者の席にいくと「こんな楽しかったのは初めて」と涙ながらに喜んでくれ、バンドの女性メンバーも手を握り返しながらもらい泣き。私も少しウルウル。
 私らの拙い演奏でもお年寄りの心に心地良さを届けることができる。なんてすばらしいことか。ほんの少しでも何かの役に立てたという喜びが心を満たしてくれた。古稀を過ぎて人生の珠玉に巡り合えた感じがする。この音楽ボランティアは当分やめられそうにない。



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