岡山市民の文芸
随筆 -第46回(平成26年度)-


想定外 堀田 光美


 足首の骨腫瘍で左の膝下から義足になったけえ、介護支援を受けることにし、「小林内科診療所・通所リハビリセンターあおえ」いうとけえ行くことにし、センターで川柳を詠ませてもらようる。
  生えるかも知れない足を揉んでみる
  じいちゃんのオシメと書いて干してある
「オシメが要るんですか」誰かが聞いた。
「夜間のトイレは四つん這いで行っとりますけぇ、オシメはしとりません」皆が笑う。
  膝笑う義足の方は怒っとる
  転んだら義足が邪魔で起きれない
 一般道で転んだら、どげぇしたらええもんでしようか。「連絡帳」に書いたら作業療法士の寺脇奈津子先生が丁寧に教えてつかぁさった。先生の指導を思い出しながら家で練習し、センターへ行って繰り返しとるうちに、
「出来た!」先生に見てもらう。
「出来ましたねえ。筋肉や筋力の衰えを防ぐには軽い運動を繰り返すことが大切です。元の木阿弥にならないよう続けて下さい」
「ありがとうございます」涙が出たでえ。
  八十歳美人に弱い血圧症
  ここに来て美人の基準ぐっと下げ
 どっと笑う。職員の一人が何か言いたそうにしたけえ次の川柳を詠む。
  遊歩道薄毛の人から傘をさす
 薄毛というより天辺禿げの男性に目を向けると、その男性が天辺を撫ぜて笑顔する。皆が笑う。わしがその男性に目礼すると彼は笑顔で頷いてくれた。彼や他の数人は、
「今日も川柳ある?」
 と聞いてくれるようになった。
 川柳人口を増やそうとか、グループう作ろうとか、そねえなこたあ考えてねえ。わしが通所する水曜日と金曜日午後の部の介護利用者と職員さんが笑うてくれんさったら、川柳冥利に尽きる言うもんじゃ。
  天然のバカ明るさもボケ防止
  大笑いしたいが尿が漏れるかも
  声だして笑えと介護師さん笑う
「みなさんにお願いがあります。いつもお世話になっとります職員さんに感謝の気持ちを込めて拍手をしたいので、ご唱和ください。せーのーでハイ」
「ありがとうございまーす」
「ありがとうー」
 不自由な手を摺り合わせている人もおる。いきなり、どひょうしもねぇことをしたけぇ職員がみな呆気にとられたんじゃろう。ポカーンと突っ立ったまま一言もない。こりゃあ想定外じゃった。
 近けぇうちに介護認定が変わるらしいけえ要支援②のわしゃどげぇなるか分からんが、せえまで頑張って川柳を発表さしてもらおう思うとる。
 なんじゃかんじゃ言うても、妻と息子が、センターで川柳を詠むことを応援してくれとるんが心強えぇ。ありがてぇこっちゃ。



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