岡山市民の文芸
随筆 -第43回(平成23年度)-


くれくれ、貰わにゃ、そんそん 堀田 光美


 広島市長が被爆者に「わしは被爆者じゃけえ医療費をまけてくれとか。簡単に言える話かな」などと発言し、そののち懇親会の席で、「ありがとうという気持ちを持った方がいいのではないかという思いで話した。(そうした考え方)は変らない」と釈明したと新聞で知りました。
 この発言をどうのこうの言う知識を持っとらんのですが、三月九日に大腸を切り、引きつづき脛骨腫瘍のためスネボンサンの下十センチのところを切り離し、左足に義足を着けて退院したんです。
  ○へそくりを妻に預けて腹を切る
  ○たかが空杖を支えに仰ぎみる
 三カ月半の入院中、長男が会社の帰りに寄ってくれました。毎日のことですけえ、そうそう話すこともねえもんじゃけえ、おんなじことを何べんも言うたような気がします。その中の一つに、後期高齢者医療費の一割負担を話題にした覚えがあります。
「いま恩恵をうけとるわしが言うことじゃねえが、医療費の一割負担は、若けえ元気なもんは気に入らんじゃろうなあ」
「そりゃぁそうじゃが、三世代同居のわが家は助かっとるで、けえが三割負担じゃってみられえ、わしら家族にも負担がかかり、言い争いが起きるかも知れんで」
「あと九割は誰が払うんじゃろうか思うてみぃ、元気な人に申し訳ねえ思うなあ」
「国が払う言うても、国民が出した金じゃけえ、オヤジも若けえとき、しっかり納めとるんじや、遠慮せんでもええんじゃねえか」
「わしもそれぐれぇわかるで……。じゃがのぉ、ありがてえ、すまんのーいう気持ちが大けえんじゃ」
「それほど気になるんなら、新聞の投稿欄に(国民のみなさん医療費を有難うございました)いうて書ゃええが」
「新聞はなんでもかんでも載せてくれりゃあせん」
「本気にせえでもええがハハハ……。蛙の鳴き声がヤカマシイいうて文句ぅいう人もおる世の中じゃけえ、オヤジのような考えのもんもおるいうことを公表してもええ思うがのぉ」消灯時間がきたんで長男は笑いながら帰りました。
 七十三歳まで、家族が食べるために、手を油に染めて働いたわたしゃ、医療費がどうの福祉がどうの考えたこともなかったけえ、言うてええことか悪いことかわかりませんが、「くれくれ、貰わにゃ、そんそん」がいつごろから広まったんでしょうかなぁ。いろいろ言う人もおるが、わたしゃありがてえとしきゃ言うことがねえです。わずかな年金で暮しとるもんに医療費を五割じゃ三割じゃ言われてみられえ、年寄り夫婦だけじゃねえ子や孫にまで負担がかかって首ゅ吊らにゃおえんようになりますがな、誰に礼を言うたらええんかわかりませんが「ほんま、ありがとうございました」。

 

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