岡山市民の文芸
随筆 -第42回(平成22年度)-


ある日 堀田 光美


 岡山生れの岡山暮しじゃけぇ、日ごろ岡山弁を使ようる。通信講座を受けたとき、「文章は美しく書きなさい」と添削され、辞書をひきひき書きようたんじゃが、話し言葉と書き言葉が違うと自分の気持ちが伝わらんような気がして、最近出来るだけ話し言葉のまま書くようにしょうる。
◎することが無いので午前四時に起き
 仕事をやめたら、「のんびり寝とろう」思うとったが、朝早うから目が覚める。
◎つまずいた小石を蹴って振り返る
 早うからゴソゴソすりゃー家族が嫌うけぇ散歩をすることにした。ウォーキングは健康にええ言うて聞いたが、そねぇ大層なもんじゃねぇ。近くをぶらぶら歩くだけじゃ。
◎スキップが出来ただあれも見ていない
 八十歳が近けぇから言うて気分で負けちゃおえんけぇスキップをしてみた。おえません出来ません。近くの公園に入って片足で立つことからはじめ、片足で跳べるまでに時間がかかった。朝歩きの夫婦らしい人が覗ぇて見るもんじゃけぇ、そんときだけ大股ぁ広げて握り拳ゅ左右交互に突き出し、空手の練習みてぇな恰好をしてごまかした。蹴りの動作も見せようとしたが片足で立っとれんのじゃ。その人らが通りすぎ、人影が見えんようになったけぇまた片足けんけんをした。できた。右もできた。交互につづけたらスキップになった。まわりをきょろきょろ見たが、だあれも見てくれとらなんだ。
◎あと三歩待ってはくれぬクラクション
 信号のねぇ横断歩道を、ほとんど渡っとるのに、「パパーッ」びっくりしてコケそうになった。自家用車へ乗っとりゃーえれぇもんか(偉い人か)。運転免許を返納して三年になるが、自分も同じじゃったんかも知れん。反省しいしい歩きょうたら、歩行者がボタンを押して信号が変わる横断歩道に来た。
◎ボク一人渡るに手動信号機
 車も人通りも少ねぇ時間帯じゃがボタンを押した。すぐにゃー信号が変わらん、急ぐわけじゃねぇけぇ待っとったら青になって渡りはじめると車が来て止まり、ボクが渡り切っても信号が変わらんもんじゃけぇ、車ぁじっと待っとった。気の毒になあ。
◎父の日に妻が作った握り飯
 家ぇ帰って歩数計を見たら一万二千歩になっとった。よう歩りぃたほうじゃ。
「今日は父の日ですが、晩ごはんに何か取りましょうか」妻が聞く。
「握り飯ぅしてくれぇ」
「握り飯ですかぁー」
「おかあさんが握るむすびが欲しいんじゃ」
◎平日と日曜昼寝の向きを変え
 代り映えのねぇ毎日じゃけぇ、ときどき昼寝の向きを変えてみるが、目が覚めるといつもと同じ方に向いとる。なんでかなあー。
話し言葉で書きゃ書きやしぃんじゃが、「文章は美しく」が頭ぇこびりちぃて離れんのじゃ。

 

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