岡山市民の文芸
随筆 −第25回(平成5年度)−


西 瓜 高木 重子


 四月下旬、私は茄子やトマトなど夏野菜の苗を買い畠に植えた。私の畠というのは、弟の広い畠の一部を一坪程借りて耕している。
 今年は、初めて西瓜一本が畠の仲間入りをした。西瓜の場所は南の端っこ畳半畳程で優遇されている。やがて苗達は根着き、新しい芽をそれぞれに出して生長を始めた。特に西瓜は、根元から四本も蔓を出し蔓は枝分かれ枝分かれして、はびこるはびこる。私は弟の畠の方へ拡がるのを気兼ねしながらも術なく見守っていた。幸にしてこの土地は、田圃を地上げした土地で隣の田との境までは傾斜になった空地があり、境の垣にはネットが張ってある。五月半ば頃から西瓜は黄色い雄花をぼつぼつ咲かせながら、この空き地に向かって伸びまくりネットにまで登った。六月の終り頃には、ついに四畳半程の西瓜畠になった。西瓜畠は、切れ込みの深い緑の葉で敷きつめられ黄色い雄花が全面に咲いて、それは見事でした。でも、西瓜の生りごは一向に見えない。「木ばかりはびこって。」とぶつぶつ言いながら、ひょいと葉っぱの下を覗くと何とまあ!直径十センチ位の西瓜が二個座っているではありませんか。よく見ると、あちこちにころころと生っている。どれも西瓜の縞模様が出来ていて、丸いもの、横に寝ているもの、斜になっているもの表情豊かで可愛らしい。
 私にとって西瓜作りは初めてのこと、嬉しさと感激で何度も数えた。そして、根元に近い方から一郎二郎と呼ぶことにした。それからは毎朝がとても楽しみ、日増しに膨らんで触ると皮に張りが感じられた。小玉西瓜なので余り大きくは成らなかったが、一郎より三郎の方が大きく生長した。


初植ゑの西瓜一本はびこりて丸き実七つ数え触れり(短歌)


八月に入ってから一番蔓らしい辺りが衰え初め葉が茶色を帯びてきた。いつ迄もこのままにしてもと思い八月九日蔓の弱っている一郎と二郎次の蔓の三郎四郎を畠から家に持ち帰り、一郎をお仏壇にお供えした。円周を計って見ると二郎四二・三郎四九センチでした。
 さて、この西瓜の色はどんな色だろうか。子供の頃、大きな西瓜を井戸で冷やし、半月に切った赤い西瓜をがぶっと食べていたっけ。店で切り売りしている西瓜も赤、西瓜といえば、赤のイメージが浮かんでくる。 私は、この愛くるしい小玉を切るに忍びず、躊躇しながらも勇気を出して包丁を当てた。成熟した実は、ぱりっと音を立て縦に二つに割れ、色は、濃い黄色だった。すっとした西瓜の香りがしてきて瑞々しく、少ない種は小さいながら黒く熟していた。黄色それは赤よりもおしゃれで新鮮に思えた。今夏は雨ばかりで困ったけれど、水やりの世話もなく立派に育ってくれて西瓜君ありがとう。一夏を楽しませてくれた西瓜達、まだネットにぶら下がっている可愛いい西瓜にもお礼が言いたい。



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