岡山市民の文芸
現代詩 −第53回(令和3年度)−


楽しい頭 久山 順子



必死で覚えた カタカナ語
横を向いたら もう消えている
一字違えば 意味まで違う
知ったかぶりで 笑いが取れる
楽しい頭に なっていく

大事なもの だからなくしちゃ大変と
思って仕舞ったことまでも 覚えてる
なのに分からぬ 仕舞い先
プレイバック、プレイバック
楽しい頭に なるもんだ

ほれ、あの人 人となりも顔も
分かるのに 名前がトンと出て来ない
諦めた頃 脈絡もなく湧いて出る
いらいら、ゆっくり 会話は続く
どうなってるのやら 楽しい頭

昨日出来たことが 今日はもう出來ぬ
不思議なことが あるものと
頭の中を 覗いて驚いた
老化と劣化で 目詰まりした
脳フィルターが 醸す楽しい頭

子供の頃から 何気なく見ていた老人に
いつの間にか なっている
誰もがなれると 限らない老人に
なれただけでも ありがたい
なれたからこそ経験出来る 楽しい頭

見るとなるのは大違い 初めてする老人
よたよた、もたもたは 当たり前
何でこうなるの の失敗をする
失敗は嘆かず 笑えば楽しめる
楽しい頭に 乾杯を

楽しい頭は 退化じゃなくて進化の証
命のある限り 人は進化する




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