岡山市民の文芸
現代詩 −第51回(令和元年度)−


母の手 うさぎのシッポ



母が僕をお医者さんに連れて行ったとき
  母の手は温かかった
  母の手は大きかった
  母の手は何でも知っていた
僕が徒競走で一等賞を取ったとき
  母の手は白かった
  母の手は長かった
  母の手は強かった
  母の手はお日様のようだった

僕が母を病院に連れてったとき
  母の手は冷たかった
  母の手は小さかった
  母の手は頑固だった
僕が嫁を連れて実家に帰ったとき
  母の手は黒かった
  母の手は皺だらけだった
  母の手は弱かった
母の手は干からびた干し柿のようだった

母の手の
   薬指と中指にまかれた
   バンドエイドの茶色には
   血が赤く滲んでいた
母の手は
   僕の病気を治してくれるたびに
   皺くちゃの手になっていった
   まるで魔法を使い果たした
   魔女の手のように

世の中に億千万の母の手あれど
   わが母の手に勝る手は無し


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