岡山市民の文芸
現代詩 −第51回(令和元年度)−


宇宙船に暮らす 七雲



冷蔵庫の中の蓄えが減れば
食料が搬入される
飲料が補給される
蓄えが途切れないように

老いや病や痛みがまとわりついて
自分の気持ちだけでは ここから出られない
閉じこめられた空間で生活する
この小さな家は宇宙船
愛する小さな宇宙船

こまめに横たわり 体力を充電
世の中の出来事を知るにはラジオ
置き場を両手で確認 補聴器
ドクターとの連絡に電話
SOSのためにも手元に常備

心は毎日生まれ直す
朝 目が覚めたら 自分に「おめでとう」
夜 目を閉じるとき「皆さん、ありがとう」
大切に両手で握っておく この二つの言葉

一日に何度もうたた寝をする
目覚めた瞬間は 時刻も自分も見失う
その隙をついて
暴れまわる巨大化した不安と屈託と諦年
負けるかもしれない 今はまだ負けたくない
闇の先にぽっと灯る明りにすがりつく
正面を向くこの顔を 涙が洗い流してくれた

朝から夜までが 私の一生
昨日は前世 明日は来世
小さな宇宙船で
今日も 小さな一生が終わる
明日は どんな一生が始まるのだろう

時間の輪が切れるまで繰り返す
目を開けたときに「おめでとう」
目を閉じるときに「ありがとう」
宇宙船を去る日は 花の季節であって欲しい


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