岡山市民の文芸
現代詩 −第49回(平成29年度)−


桔梗色の空 岡   由美子



そこには 細長い五枚の棚田が
あったはずなのだが・・・
目の前に広がるのは 一面の葛の原
縦横無尽に つるを伸ばしている
その勢いに 呑み込まれそうだ


ここの田の米はおいしいと
祖父の自慢だった棚田
収穫の秋 家族総出で農作業をした
中学生の兄も 小学生の私も
大切な働き手だった
桔梗色の空の下
脱穀機のエンジン音が 山々にこだまする
ダッ ダッ ダッ
稲を扱くのは 祖父と父
ザーッ ザーッ ザーッ
籾が 勢いよく叺に流れ込む
稲の山は どんどん低くなっていく
母と子供たちとで 稲束を肩に担いで運ぶ
扱き終えた稲藁を集めるのは
祖母の役割
田んぼの隅っこに 三角帽子の藁ぐろが立つ
六人の連携プレーで
稲扱きは 終了
あぜ道に座り ほおばる塩にぎりが
おいしかった
農作業の疲れは スーッと引いて
大仕事を為し終えた喜びが 身を包んだ


耕作放棄の田は
見紛うほどに 姿を変えてしまった
少子化 高齢化の進むなかで
先祖から受け継がれてきた土地が
次々と 山に還っていく
無人となった家屋も 朽ち果てた末に
原野に還っていく
故郷の現実を前に 呆然と立ち尽くす
仰ぎ見れば
昔と少しも変わらない
桔梗色の空が 広がっている





現代詩短歌俳句川柳随筆トップ
ザ・リット・シティミュージアム