岡山市民の文芸
現代詩 −第49回(平成29年度)−


いくたびの藤
長島 恵美子



郊外の友人からクール便が届いた
小箱の中は甘い香りの山藤の小房が五つ
「押し花にして」とメッセージがある


幼稚園のころの記憶はほとんどない
なのに藤組で
名札が藤色だったことだけは
妙に記憶している
色彩として心をとらえた最初の記憶だろう


高校で一番好きだった場所は
藤棚の下である
集会所から続く藤棚の下はベンチが並び
生徒たちの憩いの場所になっていた
特に土曜日の午後
部活の書道教室に向かう前
友人と炭酸飲料を飲みながらの
談笑はリフレッシュタイムだった


藤の花との縁は
夫との出会いでさらに強いものとなった
和気町の藤公園の近くで生まれ育った夫と
お見合いをしたのだ
藤祭りでにぎわう公園を夫と二人で訪れた
清麻呂太鼓の音が力強くとどろく
花の香りは
母校の藤の香りとオーバーラップした
藤の花色は幼いころから気になる色で
思春期を象徴する花だった
もうすぐ住み慣れた岡山を発つ
期待と不安が胸の中を去来していた


ピンセットを通して触れる花びらの
一枚一枚が
いくたびの藤の花の記憶を呼び起こす
緑まばゆい五月の山で摘み取られ
私の元にやってきたけなげな藤の花
空色の和紙に花びらをそっと並べていく
せめて額の中では
満開の姿で咲き続けられるよう祈りつつ




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