岡山市民の文芸
現代詩 −第48回(平成28年度)−


最後の言葉 岡   由美子



道沿いの花壇に
白い小菊が 群れて咲いている
清らかに 凛として
花陰から 突然聞こえてきたのは
九月に逝った Mさんの声
妻の御霊に 白い小菊を飾ってつかぁさり
ありがとう ありがとう
これは Mさんが私に言った 最後の言葉


Mさんは 一〇一歳
ここ数年 ヘルパーの支援を受けながら
独居生活を送っていた
Mさんの一日は
祈りに始まり 祈りに終わった
食事も 歩行も 排泄も
支援なしでは不可能だったが
Mさんの気力には 脱帽するばかり
弱音は いっさい吐かず
感謝と前向きな言葉に あふれていた
Mさんと
四つの事業所のヘルパーとは
固く結ばれていた
信頼と尊敬 感謝と真心 という絆で


Mさんの体力は もう限界だった
亡くなる前の日
昼の支援に 私が入った
妻の命日に 白い小菊をと切望され
三軒の花屋を巡り やっと花を手に入れた
Mさんは安堵の声をあげ 白い小菊を愛でた
ありがとうの言葉を 繰り返した


次の日の夜 Mさんは静かに旅立った
死と隣り合わせの状況の中で
亡き妻の御霊に
花を手向けたMさん


目の前に咲き誇る 白い小菊に想う
人間の真のやさしさ
真の強さ とは何かと





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