岡山市民の文芸
現代詩 −第48回(平成28年度)−


伝 言 栗 原 由 美



通勤時に見る中学生の登校風景
暑さが増してくる季節には
あの水筒で足りるのだろうか
何も持たない子は何で持っていないのか
行くだけで汗だくだろうに
雨の午後
ずぶ濡れの高校生
明日着る制服はあるのだろうか
カバンの中身は大丈夫なのか


毎日毎日頑張っているんだねと
全く知らない子らの向こう側には
十数年以上も前の息子たちの姿が見えてくる


部活を辞めたことを告げられず
自転車であちこち遠回りをしながら
時間を潰しては
夕暮れに帰ってきていた長男
サッカー部のキャプテンをして
推薦枠で入った高校で不登校になった時
あの頃もっとはめを外していたらと
振り返る二男
剥離骨折で苦労をした
それでも野球を続けていたから
甲子園を目指すのかと思っていたら
あっさりと辞めてしまった三男


みんなそれぞれに抱えきれない何かと
戦ってきたんだよね
いろいろなことに気づいてやれなかった
優しさも余裕も持てなかったばかりか
頑張れ頑張れと言い続けていた


今を何かと戦いながら
それでも登校していく君たちに
いつも頑張れとは言わない
いつも笑っていてとは言わない
ただ通りすがりのおばさんでも
君たちのことを心に掛けているよと






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