岡山市民の文芸
現代詩 −第47回(平成27年度)−


また生命へと 高 山 秋 津


胎児は 粘土の塊に見えた
馬鈴薯にも見えた
これが一つのいのちなのか
なるほど眼・鼻・口があり
細い腕も足もあるではないか
そして
それらが皆 動いている
手にはうす青い水かきがついているようだ


4Dの画面に対うと
いつしか辺りから音が消えている
しんとした中
わたしはたった一人で
深さの見えない湖の底を
覗いている気持ちになった
ひたひたと
わたしの裡を
足音が溯ってくる


湖岸に最初に立ったのは
いったい誰だったのか
重なり 連なり
受け渡され 受け渡して
今 この胎児へ辿り着いたのだ
受容という静けさの中で
いくつもの生命は
ほどかれて結ばれ 羊水を漂いながら
また生命へと
光っていくのか


「ゆっくり ゆっくりと大きくなって」
そうっと声を掛けた
この時
胎児が確かに
くっくっと 笑ったのだった









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