岡山市民の文芸
現代詩 −第47回(平成27年度)−


傳三郎太鼓
山 本 照 子



児島湾干拓事業は百年以上もむかし
藤田傳三郎の出資によってはじめられた
新しく生まれる国土に
日本の未来をたくした傳三郎


私の曾祖父も曾祖母も
京都から藤田に入植した
藤田傳三郎から藤田の名をもらったこの地で
ヨシを取り 貝殻を取り
塩抜きのための溝を掘った
時には水売り船がやってきて
なけなしの金で水を買うこともあった


傳三郎と入植者の夢はかなった
昔海だった この地の
たんぼの稲たちはたっぷりと水を吸いあげて
真っ青な空へ届こうと
つんつんと音をたてながら伸びてゆく
たらたらと汗をながしながら
草を抜くわたしの呼吸と
稲たちの呼吸がかさなって
真夏のたんぼは祭りのように賑わっている


傳三郎と入植者を讃える
傳三郎太鼓が産声をあげたのは
二十年前だった
この地の 青田風を 白鷺の優美な舞を
なによりも足が地についた豊かな暮らしを
こよなく愛する人たちの手によって


そして今宵
お祭りに集う人々が見まもるなか
わたしは十二人の仲間たちと
傳三郎太鼓を打ち鳴らす
ドドド ドドーン ドドドド ドドーン
太鼓を打つ十三人の思いがひとつとなり
空のどこかで息づいている傳三郎の野望を
入植者の苦労と心意気を
自転車を走らす子供達の輝かしい未来を
藤田平野に 轟かす





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