岡山市民の文芸
現代詩 −第44回(平成24年度)−


真夜中の果物(フルーツ) 檀上 利恵


もしも最期の日が来たら
やさしい嘘で送り出そう
君が君らしく眠りつけるように
  何か悪いことした?
  ううん、何にも。
神様は時に残酷なことをする
それでも今は祈ることしかできなくて


ふと窓の外を見上げれば
昼間の熱さをそのまま抱いた
熱帯夜に浮かぶ 今夜は満月
心がざわめく 八月の月
夏休みがずっと
終わらなければいいのにね
朝になれば忘れてしまう癖に
またそんな夢ばかりみている


ラジオ体操の帰り道
セミの幼虫を見つけては
レースのカーテンに登らせて
羽化を待った 息をひそめて
生命の美しさや素晴らしさを
君はたくさん教えてくれた


いつもと変わらない夏なのに
誰かが勝手に時間をついばむ
君のまわりだけ加速する人生
それでも君は一日が長い
ひとりぼっちの夜は
果てしなく長くて眠れないと言う


今君は 真夜中の果物(フルーツ)のように
視覚よりももっと確かな
生命の香りを漂わせている
だから消さないで
その存在を
一日でも一分でも一秒だっていい
私たちのそばで強く香って
熱帯夜に浮かぶ 満月はオレンジ
君に明日が訪れますように


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