岡山市民の文芸
現代詩 −第44回(平成24年度)−


かげぼうし 奥山 玲子


輪郭のはっきりしないあなたの影法師を
尖ったわたしの指先がなぞっている


男の頭脳は過去形で
今というときを
パソコンのエクセルシートのように
次々にめくっては蓄積していく


女の心はいつも未来形
だからいつでも最新情報を
上書き保存で更新する


いつまでたっても
ふたつの影は
交わらないで
地平線のかなたまで平行線


幼い日
日が暮れるまで
悩み続けた夏休みの課題
解決しないまま
日常の森に埋もれ続ける


いくつもの時を超えても
なお青い記憶が
決して実らない固い果実を
抱えたまま
土に還っていく


不断の思いを
驟雨に断ち切られながら
泥まみれのつま先で
あなたの影法師を踏みにじる


一切を
オールクリアしてしまいたい思いに
平常心のキーボードを打ち込みながら
今という時を
たたき出していく


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